二重人格イケメンは俺の体と心に教え込む

ハナビシトモエ

第1話 突然の戦力外通告

 ぼろい。


「駅から徒歩十五分、キッチンスペースもある。駐輪場付きで三万円だとこれくらいに」


 不動産会社の書類には確かにその間取りと書いてあったが、築七十年とは聞いていない。



 涼しくなり始めていた。担当者もシャツの上にスーツを着ていないが、今日は少し寒い。三浪で家に居場所が無くなった。高校を卒業してすぐに働いていた妹が結婚したのだ。婿養子むこようしってやつらしい、最近増えているみたいだ。


 よくもまぁ、好き好んで伊福部いふくべって難解な字の名前になったんだか。福なんてきれいに書けたことないぞ。


 さて、出て来るのは部屋問題だ。俺の両親は部屋が余っているから、好きに使うといいよね。お兄ちゃん? と、無言の圧をかけてきやがった。

 余ってない、俺と妹と両親でいっぱいだ。最近、流行はやっている授かり婚。婿養子に入ったのも実家の近くの病院で出産予定の妹をサポートする為か。そうか泣かせるではないか。くぅー。


 家族会議にて家から出ていく代わりに仕送りは月に六万出してやると両親は恐ろしいことを俺に告げた。妹は仕方ないよね。と、言ったのですぐに最大の悪の権化ごんげが誰かを悟った。妹の奴め、いいだろう。

 

 生まれてくる子どもがゴーヤを嫌いな子どもであれと祈ってやる。夏にゴーヤが食えないやつは人生をほんの少し損しているぞ。ほんの少しだがな。婿養子は仕事に行っていなかった。いたとしても大した戦力にはならなかっただろう。向こう側だしな。けっ。


 その日から六万の生活費でどれくらいまかなうことが出来るか考えた。そこで予備校から近く、通いやすい安い家がいいという結論に至った。この皮算用かわざんようのせいで後々かなり苦労することになる。


「住んでいらっしゃる方はそのちょっと個性がありますが、住むには困らないかと」

 ちょっと個性的ってなんだよ。


「それで契約はどうされますか」

 どこの不動産会社に行っても駅徒歩十五分圏内えきとほじゅうごふんけんないで駐輪場付きで三万以下はここしかなかった。


「お願いします」

 入居の日、担当者は書類と鍵を持って現れた。

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