第60話 客たちの反応

「おや、てっきり皆さま、ご存じとばかり思っておりました。えぇ、私どもはこの姿で生まれた者です」

 優雅な足取りで一人の客の前に跪き、カパリと口を開けて見せる。

「ひぇ!?」

「ご覧くださいませ。喉の奥まで繋がっているのが見えますでしょう? 仮面ではこうはいきません」

「じゃ、じゃあ、あんたらは何なんだ」

「アリスの国から来たのなの!」

 コリンがぴょこんと進み出て、くるりと愛らしくターンをして見せる。

「アリス……。店長さんの……国?」

「せや。ここの料理が珍しいんは、お客さんらかて気付いとるやろ?」

 客たちは自分たちの前に並ぶ皿に目を走らせる。

「アリスは別の文化圏の、遠い国から攫われて来たんや。この子らと一緒に」


(一緒に来たわけじゃないよ! 日本に獣人なんていなかったよ!)

 パティの言葉に突っ込みたくなったが、あえて口をつぐむ。

 考えてみれば、彼らの今の姿は私の故郷のゲームがベースになっている。

 私の記憶を介してデータを連れて来た、と考えられなくはない。


「皆にとって脅威である魔獣と似た姿をしていることを知り、なかなか言い出せなかった、それについてはすまないと思う」

 魔獣の中でもレアと言われるクバル豹型魔獣・フェテランの姿を持つレオポルドが、穏やかな、しかしよく通る声で紳士的に説明する。

「だが故郷に戻れぬ以上、我々はアリスと共にこの国で生きていきたい。受け入れてはもらえぬだろうか」

 客たちは困惑したように、互いに顔を見合わせている。

 その中で、一つの声が上がった。

「……ま、いいんじゃねぇの」

(あ……!)

 紫の肌、額に石、尖った耳。

 それはかつて魔族と呼ばれ敵対していたルーツを持つ、ラプロフロス人だった。

「額に石なら、俺らと一緒だし」

「いや、でも、あいつらは魔獣のような顔で……」

「人の面してても、平気で人を殺す奴もいる。こいつらはこんな面だが、ただおとなしく給仕してるだけじゃねぇか」

「それも、そうだが……」

「うわぁああああ~ん!!」


 何とも言えない空気の中、突如慟哭が轟いた。

「うっせぇな! あ、さっきのキモい酔っ払い女!!」

 見れば、先ほどディーンに絡んでいた女ハンターが、おいおいとその場で泣き崩れている。

「アタシ、アタシ! 人の頭の皮剥ごうとしちゃってたんだ! ごべんなさぁああい!」

(えぇえ!?)

 感情ジェットコースターの酔客に、私たちも対応に困る。

「知らなかったの! ディーンが仮面じゃないって知らなくて、頭剥いじゃった! どうしよう!?」

「いや、剥がれてねぇし……」

「ディーン!! ごべんなざぁあい!!」

「うるせぇ、叫ぶな! 泣くな!!」

おごってるぅうう!! 許じでくれるまで泣ぐぅうう!!」

「だーっ、もう!! 鬱陶しい!!」

 ディーンは頭をガシガシ掻くと、大きく息をついた。

「怒ってねぇし、許した。泣き止め、クソ女!」

「え、えへへっ」

 女は鼻水を垂らしながら、今度はニタァと笑う。

「じゃあ、これからもモフモフさせてくれる?」

「嫌だ。キショい」

「やったー、モフモフするぅ~」

「させねぇっつってんだろ!!」


 二人の様子を見守っていた客たちは、やがてぎこちなく笑った。

「ま、まぁ、気のいい奴らのようだし、いいんじゃねぇか?」

「そうだな、今までこいつらに乱暴を働かれたこともないし」

 客たちは再び食事へと戻っていく。

 中にはそそくさと会計を済ませ出て行った者もいたが、それ以上揉めることはなかった。




「だぁーっ! 肝冷やしたでぇ!!」

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