第40話 仲間への攻撃は禁止です

「アリス、ボクはどこを掃除すればいいなの?」

「そうね、まずはそこのイスやテーブルを端っこに寄せて、床や壁をきれいにしていこうか」

「任せてなの!」

 鼻歌を口ずさみつつ、コリンは掃除を始める。

(後で、レオポルドにもフォロー入れておかなきゃ)

 背に哀愁を漂わせ、階段を上っていった彼の姿を思い出す。

 ふと脳裏をかすめたのは、ネットなどでいつか目にした

「下の子が生まれたら、上の子にもしっかりフォローを!」

 という、子育て記事だった。




「ボロいし汚れとったけど、床が腐ったりはしてへんかったわ」

 適度な活動でお腹がいい音を立て始めた頃、パティはレオポルドを伴い二階から降りて来た。

「そっちはどない?」

「こっちも大丈夫。ほら」

 私は、何とか使える状態にまで持って行った飲食店エリアを指し示す。

「えぇ感じやん」

「だよね。古いけど、しっかりした造りのようだし。調理場周りも問題なさそう」

 キッチンとフロアはカウンターテーブルで隔てられ、キッチンにいながら店の端まで目が行き届く造りになっている。また、キッチンの両隣には小部屋があり、一方は食材を保管する倉庫として、もう一方は洗い場として使えるようになっていた。

 さすがに蛇口をひねればきれいな水が、というわけにはいかなかったが。


「ほな」

 パティは清潔な状態になったイスにどっかと座り、テーブルに頬杖をつく。

「ごはん」

「は?」

「アリスの作ったご飯、食べさせてぇや。めっちゃ美味しいらしいやん?」

「……あの、私ももうお腹ぺこぺこで、今から作りたくないんだけど」

「えーっ、ウチはアリスのご飯を楽しみに、お掃除いっぱい頑張ってんで?」

「だったら、朝からちゃんと伝えておいてよ。いきなり言われても困る。食材もこれから買いに行かなきゃだし」

 その時、黒い影がそっと私とパティの間に立つ。

「アリス、困っているのだな」

「え? うん」

 レオポルドはペリドット色の瞳を、チラとパティに向ける。

「ヒュッ」

 オレンジ色のポニーテールがぴょこんとはねた。

「分かった、分かったって!」

「まだ何も言ってない」

「見たら、分かるわ!!」

 レオポルドの指には、既に長い爪がスタンバイしていた。

(攻撃体勢への移行が速すぎる!)

 恐らく掃除の時に選ばれなかったことで、自分が私の役に立てるとアピールしたい気持ちがあるのだろう。

「レオポルド、パティと戦うなの?」

「場合によっては」

「なら」

 コリンは元気よく、その場でトントンとジャンプする。

「ボクだって負けないなの! アリスのために頑張るの!」

「いや、ここは自分一人でいい」

「やだやだなの! ボクもアリスの役に立ちたいの!」

「アーリースぅううう!!」

 パティが悲鳴を上げながら、私の背にすがってきた。

「昼ご飯は、外で何か調達しよ? な? ウチが全部おごったるし!! せやから」

 パティは私の肩ごしに、レオポルドたちを指差す。

「あの兵器ども止めてぇえ!!」

「はいはい」

 私はぽんぽんと手を叩く。

「レオポルド、コリン、共同経営者を攻撃しちゃだめだよ」

「きょーどーけーえーしゃ? って、何なの?」

「このお店を一緒にやっていく仲間ってこと。二人とも、今後一切仲間のパティに攻撃するの禁止」

「そうか。……仲間をほふってはならないな」

「ほふっ!?」

「わかったなの~」

 二人はあっさりと戦闘態勢を解いた。

「ハァ、これでウチは安全圏ってこと?」

「ひとまずはね。でも信頼を裏切ったら、容赦なく『もうパティは仲間じゃない』って言っちゃう」

「……アンタも大概たいがいな性格しとんな」


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