第14話 二人で出撃

 ――翌朝。

「今日の仕事や」

 パティは掲示板に貼ってあった依頼の紙を、こちらへ差し出す。

「これまででこの辺の地理は大体把握できたやろ。今日は二人で行ってき」

「パティは?」

「広場で自分の仕事してくるわ。アンタらに付き合って歩き回っても、1カヘにもならんからな。頑張って、早よ借金返しや」

「……」

 私たちが逃げると思わないのだろうか?

 それとも、一緒にいてもマイナスになるばかりだから、手放したほうがいいと考え始めたのだろうか。

「アリス、行くぞ」

 心なしか、いつもより少し柔らかいレオポルドの声。

「うんっ」

 目的は、魔獣の討伐だけど。

(二人きり!)

 心が弾み、足取りは自然と軽くなった。



(借金を減らすためには、収入を増やすか、支出を減らすか……)

 依頼の場所へ向かいながら、私は手元の依頼書に目を落とす。

(4000に3000に5000、合計1万2000カヘ……。全部クリアしても普段より少ないな。これでいつも通りご飯を食べれば、また借金が増える)

「アリス、標的ターゲットを見つけたぞ」

 レオポルドの声に我に返る。背の高い草の間から、鼠型魔獣ユズオムの茶色い毛がチラチラと見えていた。

「レオポルド、お願い」

「承知した」

 レオポルドは地を蹴り、瞬時にターゲットへ距離を詰める。

 鼠型魔獣ユズオムが彼に気付き、警戒するような声を上げた時には、その爪が相手に届いていた。

(レオポルドは魔獣退治の要だから、弱体化させるわけにはいかない。彼にはちゃんと食べさせなきゃ)

 となれば削るのは自分の食事になるが、それでも限度はある。食事時のお酒を控えようと考えたのだが、この世界、水もそこそこいい値段がするのであまり節約にならなかった。

(腰回り、ちょっと緩くなったな)

 食事の内容のためか量を控えたせいか、明らかにウエストサイズが落ちている。

(こんな形でダイエットに成功して、嬉しいやら悲しいやら)

「アリス、全て潰したぞ」

 レオポルドが草むらの中で手を挙げている。

「お疲れ様!」

 私は魔石ケントル回収のため、彼の元へ駆け寄った。


「早く終わったね」

「そうだな」

 ムーンストーンにも似た、鴉型魔獣ウロック魔石ケントルを拾い集め終え、私たちは立ち上がる。

 今日請負った三つの依頼を完了させたものの、まだ日は高い。

「宿までゆっくり歩いて帰っても、ちょっと早いよね」

「なら、少し足を延ばしてみないか?」

(え?)

「天気はいい、風も心地いい。たまには目的もなく歩いてみるのも楽しいと思う」

 それって……、デート!?

 待って待って、今、私デートに誘われた!?

 レオポルドにデートに誘われた!?

「アリスが気乗りしないなら、無理にとは……」

「行く! 行きます! 行かせてください!!」

「アリス?」

 私はレオポルドの前に回り込み、彼を見上げる。

 人目を避けるための大きめフードは彼の額の辺りまで覆い、そこにあるペリドット色の石は見えない。そのため「けもめん」のレオポルドそのままの姿に見えた。

 ゲームのレオポルドには大勢のファンがいるけれど、目の前にいる彼は、私のためだけに出現したレオポルド。私だけを見てくれるレオポルドなのだ。

 そう思うと、私の胸は喜びにざわめく。

「レオポルドとお散歩、嬉しい!」

「アリス……」

 レオポルドはネックゲイターに指をかけると引き下ろす。その口元はやわらかに微笑んでいた。

「自分も、アリスと共に過ごせる時間を、大切に思っている」

 オァーーーッ!!!

 微笑むレオポルドのご尊顔の周りに、キラキラと光が飛んでいるのが見える!

 なんだこれ、恋愛イベント発生か!?

 確実に心の臓を止めに来やがりましたよ、ワッショーイ!

 世界の全てにありがとう!!


 サクサクと下草を踏みしめながら、私たちは森の中を進む。

「木漏れ日がきれいだね」

「そうだな」

「レオポルドと出会ったのも、こんな風に樹の生い茂ってる場所だったね」

「あぁ」

 レオポルドは上を見上げ、眩しそうに目を細める。

 そして、ふいに私の手を取った。

「へっ、何?」

「ここは獣道だ、足場が悪い。アリスが転ばぬようにな」

「転ばないよ、とぅわっ!?」

 言った先から、石と石の間のくぼみに足を取られ躓く。レオポルドは私の手をぐいと引くと、吊り上げるようにして平らな場所へと下ろしてくれた。

「あ、ありがとう」

「構わない」

 レオポルドは私の手を優しく握り直す。

「あはは、恥ずかしいな。転ばないって言ったばかりなのに」

「恥じる必要はない。自分が見てきた限り、人とはそう言うものだ」

(人……)

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