番外編:清白の野良活動 その1


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「今日はボスドロ絶対貰うぜ!おれはトモ!盾職!」

「あたしは姫!ヒーラーでーす♡」

「私、優。バフ担当です」

「私は影です。法術関連はお任せ下さい」


「俺はスズ。スピード特化の物理火力。火力担当は二人か。影の属性何だ?」


「私は無属性ですよ。法術は全て使用可能ですぞ」

「ほお。んじゃ問題ないな」


 無属性とは珍しい。パーティーのメンツは驚いてるが俺は身内に二人いるしな。なんか喋りに癖があるな……?




 ポチポチ…と装備画面をいじる。

中級装備で防御極振りにしておくか。

敏捷を下げる呪いのリングをつける。

 体力、神力も減らす。パラメーター調整には気を使うんだ。……このくらいでいいか。



 

 現在地、鬼岩城のダンジョン入口。 

警察の依頼で、極秘の潜入捜査中。

 中級プレイヤーで迷惑行為をしてる奴がいるとの事で、人物特定の為に野良パーティーを組んではダンジョンに潜ってる。

 集めた情報の結果、被害が一番多いのがここだと判明した。



 今回のパーティ人員のトモ、姫は初心者に近い。見た目は派手だが付与がひとつもないんだ。

 ヒーラーはアテにならんな。紀京と比べるべくもない。盾職も微妙だ。俺の身の回りの人が強すぎるんだよ。


 バフ担当は装備を見ればなかなか腕が立つのがわかる。全ての装備にバフ効果プラスの付与がついてる。使いこなされた装備に、バランスがいい付け方だな。よくダンジョンに潜ってるんだろう。実用的だ。


 影は神力特化の装備か。

 初心者服にこんなに付与つけて、修理も度々してるし加護もちゃんとついてる。



 

「影…他に装備ないのか?」

「ありませんねぇ。陰陽師なので初期服のこれが好きなんですよ。

 清白さんも陰陽師ファッションですな」

「まぁな。居るよな、お前みたいな奴」


 初期装備にこだわるやつ。こういうのは偏屈か変態だ。偏屈ではなさそうだから変態だな。自己紹じゃないぞ。


 

 今着てるのはツクヨミに貰った真っ黒な浄衣だ。

 べつに、みんなとお揃いだからとかそういうんじゃない。離れてても一緒とか……そ、そう言うんじゃないからな!


「んじゃ行こうぜ!!おれがみんなを守ってやる!」

「かっこいいね!姫の事守って♡」

「よろしくお願いします。」

「よろしくお願い致します」

「よろしくな…」



 

 鬼岩城の入口に入って、ゴツゴツした岩の階段を昇って行く。

空は赤と紫の渦を巻いて禍々しく、長い階段の先は霞がかかって見えない。


 先頭で歩くトモの盾の持ち方…全然なってない。姫のヒーラーの笛、どこのだそれ。見たことないぞ…。

 それに、挨拶しない奴はヤバいプレイヤーの典型的な例だ。ヒーラーと盾職のやつはマーキングしておくか。


「清白さん、連携のタイミングはどのように?」

「あぁ。影に合わせるよ。一個だけ頼めるなら、初撃の後ノックバックキャンセル頼む」

「了解です。連撃パターンですね。優さん、防御特化をお願いできますか?私紙装甲で参ります」


「わかりました。神力プラスもお付けしますね」

「ありがとうございます」

「サンキュ」


 ん、盾とヒーラーがあてにならないと二人ともちゃんと把握してるな。

 優がふたつのお下げを揺らしながらバフをかける。

 全体にかけてやるとは名前の通り、優しいな。


 


 岩の影に鬼たちが現れる。

 さて……戦闘の始まりだ。


 ━━━━━━



「なぁ。分配方式変えようぜ。これじゃあまりにも不平等だろ」

「そうですなぁ」


 影と二人、腕を組んで眉を顰める。

 何回目かわからん反魂を受けて、トモが起き上がる。ちなみにヒーラーじゃなく、バフ役の優がやってる。

 なんのためのヒーラーだよ。


「な、なんでだよ!平等分配が野良では普通だろ!」

「反魂の礼も言わずにそれかよ。優の負担が大きすぎる。お前盾職の意味ないだろ。

 ヒーラーもな。後ろに配置するのは定石だが、なんなんだその装備。そんでなぜ回復しない?さっき影も優も危なかっただろ」


 

 トモと姫が目をつり上げる。

「姫は守ってもらうからいいの!回復は……神力が足りなくて…」


「その回復力でか?コンマ数ミリ回復するのにどんだけ回数やってんだよ。ランク幾つだ」


「関係ないでしょ!怪我する方が悪いのよ!あんたたちがプレイヤースキルないから!」


「俺はコンマ一ミリも減らしてないが?プレイヤースキルのない、下手くそなお前を盾が守れず、火力担当が守って怪我したんだろ。

 紙装甲の法術師に守らせるとか前代未聞だ。

自分でヒーラーの存在否定してるが、良いのか?」


「…………」

「だんまりかよ。盾のやつも動きがおかしいだろ。なんで攻撃避けてんだよ。守ってやるって言ったのはなんなんだ?俺に向かってきたやつスルーしやがって。盾が弾いてから火力が一撃入れるのが普通だろ…ありえないんだが」


「すぐ死ぬから…怖くて…」

「そもそもそこだ。体力も少なさすぎるし、火力を守らない盾なんぞ要らん。マジで何しに来た?寄生目的としか思えない」


「…………」


 また沈黙か。こういう手合いは都合が悪くなると口を噤むんだよ。うんざりだ。


 


「スズさん、私は大丈夫ですよ。沢山薬を持っていますから」

 優が簡易結界に使い終わった薬の瓶を放り込み、新しく取りだしてる。

バフ役にあんなに薬を使わせて……。


「いや、ダメだ。もうかなりドーピングしてる。このダンジョンは中毒になりながらバフかけるような場所じゃない。ミソッカスが居るからだ。」

「まーまー、スズさん。あとはボスだけですから。分配はバフの優さんを多めにしましょうよ」


「俺の分は要らんから二人で分けていい。お前らは足手まといだからボス部屋に入室禁止。経験値分配もナシ」


「「…………」」

 俯いたまま二人は黙り込んでる。

 悪いな。俺は紀京のように優しくない。

 特に勘違いした役立たずが一番嫌いだ。



 

「スズさん、いくらお強いとはいえ私たちで分けるなんて…」

「そうですよ。モブを一番倒してるのはあなたです。私はサポートしているだけですぞ?」

「いや、いい。別にレベル上げに来た訳じゃないからな。さっさと終わらせるぞ 」

「「……はい」」


 

 レベルカンストしてるからなんて言えないしな。ここの経験値じゃスキルポイントすら入らん。

 ボス部屋に侵入して、出現を待つ。

この辺に出てくるはずだ。

焚き火を炊いて、出現場所をぐるりと取り囲む。


「な、なるほど……」

「焚き火を使う人がいるのは知ってますが、湧き場所も把握してるんですか?」

「ああ。パターン的には二つしかない。四週もすれば覚えられるだろ」


 ほー、と感心してるふたり。


 焚き火のそばで待機して、二人は長距離攻撃と支援のために下がってもらう。

 他にも理由があるが。


 焚き火引っ掛けは、かなり初期に習ったけどな。

 

皇に。


 ……チッ。ダンジョン巡るとあいつがチラつくのが嫌なんだよ。めんどくせぇ。



 

 ズズズ…と地震が起こり、ボスの酒呑童子が姿を現す。

「あれっ?清白さま!」

「しっ!」


 酒呑童子は元々伊吹童子と言う。

 親が異能持ちで…生まれてすぐ喋ったという伝説もあるくらいの神童。

母親に山に捨てられて鬼神になってる。

 神様なんだよな、一応。


「えっ、普通にボスしてていい感じですか?」

「おう。俺の事は気にすんな」

「は、はい…」


微妙な顔をして酒呑童子が焚き火にひっかかる。

演技上手いな。


「スズさん!ボスが上手く引っかかりました!」

「おーう。ボコボコにしてやってくれ」


「ェー」

「ボス役続行したがったのはお前だろ。大人しくボコられろ」

「ハーイ……」




 苦い顔をした酒呑童子に、影が容赦なく法術を叩き込む。

俺も攻撃したフリしておくか。


「影!酒呑童子は火と水交互で頼む!」

「了解です!」

「硬いですねぇ……」


 中級ダンジョンだからなぁ…普通は1時間くらいかかるんだが…。

影の法術に合わせてチクチク削る。


「清白様、痛い」

「うるせぇ。時間短縮したいんだよ。我慢しろ」

「ぐすん…」


 ちら、と入口で大人しくしてる二人を観察する。

 どうもおかしい。どちらもこんなダンジョンに来れるレベルじゃない。

これは何かあるな。勘だが。


「ラストです!」

「おう!影頼む!」


 最後の法術を放ち、それを受けた酒呑童子が恨めしげに悲鳴をあげ…エフェクトに変わって散っていく。

 天使の梯子が影にかかり、ふわふわと消えて行く。


 


「おつかれー」

「お疲れ様でした!」

「清白さん、影さん、ありがとうございました!」

「おう、お疲れ様。報酬出たか?」


 二人は刀を掲げる。

 童子切安綱だ。ちゃんと出たな。

 美海さんはハサミにしていたがこれは結構いい報酬なんだ。短時間で倒すと必ず出る。


「…ほれ。やるよ」

 とぼとぼとやってくるミソッカス達に刀を投げる。

「一振しかないから、ジャンケンでもしろ。パーティー解散するぞ」

「「…………」」


 

 礼も言えんのか。アホくさ。

さっさとパーティーを解散して、出口に向かう。


 出口の広場には複数人が焚き火を囲んでワイワイやってる。


 うーん。今日は収穫なしかな。

 俺の勘もたまにゃ外れるか。


「えぇー!貰っていいの?優しいじゃん!」

「あぁ、いいよ。姫ちゃんフレンド登録しようぜ!」

「いいよぉ♡仲良くしてね♡」


うん、この二人には二度と会いたくない。



 

「スズさん、私たちとフレンド登録してくださいませんか?」

「あ、あの…おこがましいとは思いますが…… 」


「あー、すまん。リスト満杯なんだ。

 名前は覚えておくから、また会ったらパーティー組もうぜ。優も影もなかなかいい腕だったぞ」


 すまん。さすがにフレンド登録すると名前がわかってしまう。

 アマテラスの目くらましで、ギルド名も名前も表示をごまかしてるからな。



「ありがとうございます!」

「スズさんほどの方も中々いませんよ。まるで俊足の清白様のようでした」


 ギクリ。

 影のやつ、なかなか鋭いな。

 二人が手を振って、去っていく。



 

 俺ももう帰るかな。腹が減った。

 巫女がカレー作るって言ってたな。

 紀京ももうすぐ帰ってくるし。


 鼻歌を歌いつつ道具整理していると、腕に柔らかい感触。

 あ?なんだ?イザナミかよ…紀京じゃないが、肉まん押し付けてくるんじゃねぇ。



「スズさん、めっちゃ強いですよねぇ♡」

「触るな。なんだお前」

「あぁん!そんな事言わないで!

アタシ…旦那さん募集中なんですよ♡」


 はぁー。たまにいるよなぁー。こういうの。


「へー。あっそ」

「もぉ、いぢわるしないで♡姫の事……好きにしていいんだよ?」


 さっきの盾職がポカーンとしてるが。

 仲良くするんじゃなかったのかよ。


 


「あいにく女には困ってない。離せ。」

手を振りほどき、ヒーラー?を睨みつける。


「プレイボーイって事?それなら姫のこともハーレムに入れて♡」

「は?お前頭おかしいだろ。なんでそうなる?分からないならはっきり言ってやる。お前のことが嫌いだ。消えろ」

「ひ、ひどぉい…」



 

 姫がペタンと座り込み、ピーピー泣き出した。

 おう、お前の出番だぞ。

 トモに目線を送る。


 ビーン!ときたトモが姫を慰めながら森の中へ消えていく。

その腰に、童子切安綱が見えた。

 ほー?既に所持してるのにここへ来たのか?なーるほど。勘は外れてなかったか。


 ……さて。どう動くかな。

 完全に見えなくなった二人の行方を見つめ、獄炎と殺氷にメッセージを送る。


 返事が来たのを確認して、後を追う事にした。


 ━━━━━━


「姫ちゃん、カレシとかいるの?」

「いないよ♡トモくんなってくれるの?」

「マジ?いいよ!じゃあ結婚しようぜ!」


 ニコリと笑う盾職が…若干の黒い気配を見せる。

 んー。どっちだろうなぁ。

 美人局か、強盗か。両方か?




「えっ!?け、結婚はちょっと…」

「なんで?カレシになるならいいだろ?」

「えぇ…でも…持ち物共有とかするよね?まだお互い分かりあってないし…お付き合いしてからにしよ♡」


 ほう。姫はこういうのに慣れてる感じだが、比較的まともだ。となると、盾の野郎か。

 姫が顔をひきつらせながら後ずさる。

 それをゆっくりと追い掛け、トモが姫の服の裾を掴む。



 

「この服さぁ、めっちゃレアだよね?どこで買ったの?高かったでしょ?」

「買ってないよ!姫のファンの子からもらったの♡」


「へぇ、じゃあ他にもレア服持ってるの?可愛いから沢山貰ってるんじゃない?」


「もってるよ♡使わない武器とかもあるしぃ、姫は要らないって言ってるのに…みんな勝手に持ってきちゃうんだよねぇ♡」


「へぇ、そうなんだ。」

「ね、ねぇ…ここどこ?どこに行くの?」

「どこだと思う?……くくっ」

「な、なに……怖い…」


 トモが服装を変える。

 美海さんが着てる甲冑と同じか。

力をセーブしてたのは俺だけじゃなかったって事だ。


 姫が追い立てられて、奥に進んでいく。

 あぁ、そういう事か…。

地面に書かれた江戸魔法陣。

姫の足がそこを踏んだ瞬間に、光を放つ。紫……緊縛陣だな。趣味が悪い。


 


「きゃあぁぁ!」

「いい餌がかかったぜ…お前みたいな寄生虫から分捕るなら、貢いだ奴らも喜ぶだろうな」


「なっ、なに!?縄?なにこれ!!」


「緊縛陣も知らねぇのか?スキルもまともに使えねぇんだから知らんか。」




 紫色のロープが姫のふわふわした洋服に巻き付き、体を締め上げる。

魔法陣の出来は一流だ。隙がない。


 ポケットから取りだした指輪。

 あー。それも趣味が悪いな。最近問題になってる強制結婚される指輪だ。

 これは犯罪組織が作ったもので、死神の館をスキップして結婚できる指輪だ。

さんざん回収したがまだ持ってるやつがいたとは。




「いやっ!なにそれ!?」

「ははっ。結婚だよ。さっき言っただろ?」

「死神の舘に行かなきゃ…指輪はもらえないって…」

「そういうことだけ知ってるのか?キモイなお前」


 姫と自分に指輪を填めて、トモがニヤリと嗤う。




「おーおーおー。すげえな。服と刀と…お前…ソロでダンジョン潜ったことねぇだろ。

 ヒーラーは荷物が回復薬でいっぱいのはずなんだが。ひとつもねぇな」


「回復なんてっ!誰かが守ってくれるもん!姫が可愛いから!!」


「可愛いかぁ?ぶりっ子に騙されるやつなんか今どきいるのかねぇ?」




 耳が痛いです。

 簡易結界から出てくるでてくる…レア洋服達と刀。

 ほとんど流通品だが、ボスドロップも一部あるし、高級洋服店の物ばかりだ。

人のことは言えないが、男どもは騙されすぎだろ。



「ほんじゃ…後始末と行きますか」

「ひっ!?」




 童子切安綱に手がかかる。

 その瞬間…。




「吾輩!かみんぐなう!!」


 ズルッと思わずこける。

 なんだ???

 えっ?

 影???


「怪しいと思っていたが!貴様がここいらを騒がせている犯人か!!」

「は?さっきの法術師?なんだお前」

「私は影!ヒーローをやっておりますぞ!!」


 自信満々に叫ぶ影。

 頭を抱えて俺は蹲った。

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