第三十四話 結婚式

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 みんなが一様に椅子に座って、巫女に視線が集まる。炎華さんと、櫻子さんが手を引いてふわふわとドレスを翻しながらゆっくり三人が近づいて来た。

 ビックリした顔が、だんだん微笑みに変わる。なにこれ。たまらん!!!


 炎華さんと櫻子さんもそれぞれ赤と水色で全身キラキラしてる。

彼女達の転生した姿は…炎華さんはつり目のまま、櫻子さんはタレ目。

 ざっくり見た感じの雰囲気って、余り変わらないもんなんだな……。髪も目も、色は二人とも薄目の茶色になってる。


 途中で獄炎さんと殺氷さんが奥さん達と手を繋いで座り、巫女が一人になって歩いてくる。


 一歩一歩歩む巫女の姿が、俺の中に深く刻まれていく。

 ぴーぃ、と鳴いたクロが首筋に寄り添ってくる。可愛いよな、巫女。



 

 真っ白な髪の毛がふわりと風に広がり、顔横のひと房が頬を撫でる。

 少しだけお化粧してる。瞼も頬も僅かにピンク色で、唇がツヤツヤしてる。

 巫女は元々真っ赤な唇だから、色を付けなくてもいいんだな。

 白いまつ毛が灰色の目に被さって、陽の光の下でその瞳の色を濃くしてる。

手に握っているのは白いバラ。1本だけをほっそりした手で持ってる。


 


 なんて綺麗なんだろう。

 他の言葉が出てこない。

 ただ、愛しいと言う感情だけが浮かんでくる。それだけがいつまでも湧きいでて、俺の心を満たして行く。

 いや、もう溢れ出してるな……。


 炎華さん、櫻子さんが夫二人の横に座って一人で歩く巫女に、僅かに寂しさの色が見えた。思わず走りよって、巫女の手を取る。




「紀京…えへへ…すごく、かっこいいね」

「巫女も綺麗だよ。女神様みたいだ」

「元々神様だよ?」

「そうだった……」



 ほっそりした肩が寒そうで、思わず手を添える。体がくっついて、自分の顔に熱が集まってくる。

 花びらで飾られたお姫様みたいだ。

 こんな可愛い人が俺の奥さんだなんて。

 信じられるか?



 巫女が俺の左側の襟にある、フラワーホールにバラを刺してくれる。

 うわ……マジか……。

本当は男性から花束を渡して、その返事として花を挿すらしいけど。

 巫女が気持ちをそのままくれたみたいで嬉しい。


「ありがとう、巫女」

「うん。ボクの気持ちだよ」

「うぅ……」




「おーい。おふたりさん。舞台はこちらですよー。まだはじめないでくださーい」

 アマテラスが手招きしてきて、慌てて敷物の果てまで歩いていく。


「バージンロード歩く花婿初めて見たんだが」

「巫女を一人にできないんッスよねぇ」


 清白と美海さんが呟いて、ふふ、と炎華さんと櫻子さんが笑う。

そうだぞ。俺は巫女を一人になんか二度としない。




 アマテラスの元に到着して、改めて巫女のきれいなウェディングドレス姿を見つめる。


 髪の毛はそのまま解き放たれて、頭の上にモコモコした花冠が乗っかってる。

 門と同じ花のホワイトスターで作られた、花冠…それに飾られた巫女は…確かに幸福な愛そのものだ。


 花冠の下から薄いベールがかかって、それを赤、青、白の眷属の小鳥が咥えてパタパタと飛んでる。

 そのベールを巫女の顔にかぶせて、俺の肩に乗ってくる。

俺の眷属がみんな揃ったな。


 


「「「アキチカー」」」

「アキチカ、おめでとう」


「うん、ありがとう」

ほわほわした羽毛が首に寄り添って、くすぐったい。



「はい、みなさん注目。ではー、これからー紀京と巫女の結婚式を執り行いマース」

 アマテラス、なんで海外の人風の喋り方なんだ?

アマテラスが皆に礼をしろ、と言うので二人揃ってぺこりと頭を下げる。


 静かに拍手が起こる。

ぱちぱちと広がったそれが自然に収まり、アマテラスに向きなおる。





斎主さいしゅを勤める、天照大神である。古来のしきたりに則り、神前式を執り行う」


 お、真面目な感じだ。

 ちなみに式についてはマジで何にも聞いてない。なんとなくで進行していってるんだ。この先何が起こるのかわからん。


「一同起立」




 全員が起立し、頭を垂れる。俺達も同じように頭を下げた。

 アマテラスが大幣おおぬさというお祓いの道具を取り出し、左右に振る。


 ―掛けまくも畏き、伊邪那岐大神……筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 

禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等 

諸々の禍事・罪・穢 有らむをば 

祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 恐み恐みも白す―




 祓詞だ。独特の音調で、滑るように流れる言霊を感じる。

凄いな?アマテラスが斎主の結婚式だなんて。




「次は結婚奉告なんだが、神様同士だから簡単に行くよ☆父上、母上、紀京と巫女が結婚しますのでよろピコ!」


 ええぇ……いいのかそれ。


「「はいはい」」


 ええぇぇぇ……。




「次は誓杯の儀。三つの盃は時を表す。

 小さい盃は過去を表し、新郎新婦の巡り合わせを先祖に感謝するもの。

 中サイズの盃は現在を表し、二人で末長く共に歩いて行くことを誓う。

 大きい盃は未来を表し、両家の繁栄と子孫繁栄の祈りだっピ☆」


「兄上、締まらないからやめてください」

「まぁまぁ、さあお神酒を注ぎますよ。」


 ツクヨミが持ったお盆の上の盃に3回ずつに分けてサクヤがお神酒を注ぐ。


「三三九度の礼で口にするのよ。一、二回目は唇を湿らせて、三回目で少しだけ口にすればいいわ。

 小さい盃から始めて、交互に口にしてね。まずは紀京から。次の盃は交代して、巫女から。三つ目の盃まで繰り返してね」


「は、はい……」

 

 解説付きの結婚式か。良かった。

盃を手に取ると、ツクヨミが口を開く。


「一口目は神、二口目は家族、三口目は参列者への感謝だ」





 なるほど。

目を閉じて、盃に口をつける。

神様って誰宛?沢山いるんだが。とりあえずアマテラスでいいか。

どうもありがとう。


 次は家族か。もう会えないけど、産んでくれてありがとう。


 参列者。仲間のみんながいてくれたから、こうして式を迎えられたんだな。サプライズは嬉しいけど、説明は事前にしてくれ。


 どうもありがとう。





「紀京、俺達も神なんだから聞こえてるぞ」

「んふふ……面白いね結婚式って」

「事前に説明してくれないからだろ」


 巫女とお互い盃を交わし、アマテラスに再び向き直る。





「盃が交わされたふたりは堅固な絆で結ばれた。

 次は、誓詞せいし奏上。紀京、神様への誓いだ。なんでもいいから言ってみ?」


「ちょっ、台本とかないのか?!」


「あるけどさぁ。紀京の言葉で欲しいじゃん?好きに考えて言ってみなさい」


 無茶ぶりがすぎる。パソコンで調べる隙くらいくれよ。





「ふぅ。巫女、俺が言っていいか?」

「うん。ボクも紀京の言葉で聞きたいなぁ。楽しみだよぉ」

「くっ…プレッシャー凄い。」


 よし。お腹に力を込める。

 唸れ俺の脳みそ!!




「私たちは古来から日本を産み支えた神々の御前に夫婦の契りを結び合いました。


 たくさんの人と出会う中で、尊敬し、心から愛し合える…巫女に出会わせてくださったことを、感謝しています。


 楽しい時は笑い、悲しい時はそれを分かち合い、志をひとつにして共に生き…いつまでも道を分かつことなく、魂のある限り手を携え、義にもとることなく歩んで行きます。


 私たちを見守ってくださった神様と仲間の皆に感謝を込めて、変わることの無い心と思いをここに謹んで《たてまつ》ります。」


 

 アマテラスをじっと見つめる。こんな感じで…大丈夫か?

 握った手に力が篭もってくるから、思わず巫女に振り向く。

巫女が真っ赤っかになった。


 おぉ……ちゃんと伝わったかな?

死が二人をわかつまで、とかそんな言葉じゃ足りないしさ。

 俺たちが存在する限りって意味なんだけど。


「紀京の心が清い。眩しい。ぐすっ」

「アマテラス?な、なんで泣くんだ?アマテラスの方が眩しいけど」

「兄上に代わって、私たちが受け取ろう。本当におめでとう」

「おめでとう…紀京、巫女…とても素敵な誓いだったわ…」


 ツクヨミとサクヤも涙が浮かんでる。

 ……なんか照れるな……。



「紀京、うれしい。ありがとう」

「うん…」

 

 巫女の顔にかかったベールを上げる。

 キスしたいんだ。もうイイよな?

 チラッとアマテラスに目線を送る。




「あっ、待て待て、キスはまだ!先に指輪の交換だからっ!」

「んん?なるほど?」

「焦らされるねぇ」


「一刻も早く指輪交換だ!!」




 アマテラスが小さな箱をそっと開くと、さっき選ばせてもらった指輪が並んでる。


「わぁ!黒いね…すごく綺麗」

「清白が作ってくれたんだってさ。幸運プラス付きのありがたいリングなんだ」

「わ……凄いね……」


 清白がすぐそばの椅子でふん、と鼻を鳴らす。

 わざわざ鉱物から取りに行ってくれたんだもんな。後でちゃんとお礼言おう。


 巫女の手を取り、薬指にもうひとつの指輪を填める。

 巫女に俺の指にも填めてもらう。

 白と黒の指輪。陰陽師っぽい。


「さぁ、これで式は終わりだ!紀京、巫女結婚おめでとう!!」




 アマテラスが両手を掲げると、キラキラとした光が空に昇って、大きな虹が出る。

みんなにもおめでとう、と言って貰えて本当に嬉しい。


「あっ!キスしていいぞっ!存分にどうぞ!!」


 


 ぷっ。そんなのありなのか?

 でも、待ちに待った瞬間なので素直に従う。

 巫女の頬に手を添えて、唇を重ねる。

巫女がハムハムと唇を柔らかく噛んでくる。

 な、なに!?何して……。


慌てて顔を離すと、ニコッと微笑まれる

 

「ドキドキした?紀京」

「し、した」

「もう一回する?」

「あ、あとでなっ!その、お部屋でですね」

「わかったぁ」


 むぎゅ、と抱きついてくるけど、俺は心臓が止まりそうだ。




「なるほどなぁ。イザナミの孫だなぁ正しく」

「イザナミの方が積極的だったのはマジなのか?」

「先に声掛けたんスよね?柱のやつで」

「そうだぞ。夜の閨でも…」


「イザナギ?孫といったか?ん?」




 別の意味で心臓が止まりそうな怖い顔をしてるイザナミと、本当に心臓が止まってそうなイザナギ。

 イザナミは歳を気にしてるんだな、うん。


「んじゃ、お決まりのアレ、行くか」

 清白の言葉に、おう、とみんなが服装を変える。上級ダンジョン用の……ガチ装備に。




「どこ行くの?ダンジョン?」

「巫女、結婚式の後はな、行かなきゃならないダンジョンがあるんだ」

「えっ!そうなの?」

「そうだ。新郎新婦がメインでボスを倒すんだ。そのカッコのままでな!」


 えぇ!?と驚く巫女とニヤニヤしてる皆。

 いいんだけどさ。俺はあそこでは無双できるし。


「どこ行くの?」

「死霊のはびこる姫路城だ!」

「ほぁ、なるほどねぇ。ボクはじめてかも!楽しみ!行こっ!」


 エイエイオー!と気合を入れて、みんなで手を繋ぐ。動きやすいドレスは、このためだったんだよなぁ。



「座標:姫路城、マスターアクセス!」

「はいよー☆」


 今日は転移しまくりです。

 真っ白な光の中でまたもや目を閉じた。






 

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