第三十三話 サプライズ☆
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「はぁーいお客様!できましたッス!いかがッスか!?」
ムッキムキの胸筋が覗く白シャツ、黒いスラックス姿で美海さんが鏡を掲げてる。
あわせ鏡になるから頭の後ろが見えるんだな。賢い。
「自分の後頭部はじめて見た」
「紀京氏!そうじゃないッス!か!み!が!た!ッス!!!」
「ひぇっ!美海さんのテンション怖いよ…よく分からんけど、なんかいい気がする」
「くっ、世間に疎い紀京氏がいかんなく発揮されてるッス。
全体的に短くして、前髪は長めに残したッス。全部流すと微妙なんで半分だけアップにしてますんで。カッコイイッスよ。色気増し増しですから!!」
「あ、ありがとう」
ニコニコ微笑む美海さんを、鏡越しに見ながら首を傾げる。
まじまじと髪の毛を見ると、なんかフォーマルな感じ?
髪の毛が立体的になってる。右側だけおでこが見えてて、眉毛も切ってたなさっき。
なんか、パーティーにでも行きそうだ。
髪の毛伸びて邪魔だったからちょうど良かったけど……。こんなふうに髪の毛に色々したのは初めてだな。
美容師さんってすごいな。我ながら垢抜けた気がする。
「ていうかおつかいでは?巫女はどこいった???」
「これがお遣いッス。まだありますからね。巫女はまだメイク中です!宝飾品屋さん!お願いしますッス!」
「はぁーい♪」
スーツ姿の清白が胡散臭い声で返事して出てくる。趣味でアクセサリー作りやってるのは知ってたが宝飾品屋やってたのか。
というかなぜここにいるんだ。
「清白?マーケットの視察は?」
「あ?もう済ませたよ。ほれ。指輪選べ」
「えっ!?な、何それ。指輪???」
「そう。わざわざダンジョン潜って幸福の効果アリ材料掘ってきてやったんだからな。感謝しろ」
得意げに笑って、大きな木の箱を取り出し、鏡の前のテーブルに載せる。
パカッと開くと、ま、眩しい。
きらびやかな指輪が沢山並んでる。
「俺のおすすめはこれ。白銀の中に龍の髭と不死鳥の羽が入ってる」
「ほぁ」
おすすめと言われた指輪は、白銀の名に相応しい白金色の光を弾き、羽の模様が刻まれている。
「ちょっと太い気がする。巫女のだろ?」
「あん?お揃いだよ。お前たちの分だ」
「えっ。もう指輪してるぞ?」
「そうじゃない。今日これから必要なの。いいから選べ。こっちもいいぞ。手で捻ってるから人気のデザイン。細いし邪魔になりにくい。永遠を意味する∞の形のリングだ」
「文字としては無限大なのでは?」
「バカ。こういうのは用途に合わせて意味が変わるんだよ。∞マークの横に好きな色の石が載せられる。黒もあるぞ」
「うーん?黒い指輪は無いのか?」
「ある。なかなかお目が高いな。黒銀は一つだけだ。叩くのが難しいから細く伸ばすのは大変だし、俺の専売特許品だぞ」
シンプルな細めのリングは白銀の中でも鈍く黒に光を弾く。
やっぱり黒がいいな。巫女と初めて会った時は黒だったし。
「これがいいな。して、いかほどで?」
「あ?金なんか要らん。俺からのお祝いってやつだよ。美海さんもそうだ」
「そッスよー!友情はプライスレスッス」
あー。何となくわかった。
俺たちを本社から追い出して、仕事の人員を追加して、夜のアレコレを教えて、これヘアメイクってやつだろ?さらに指輪。
「…………なぁ。」
「言うな。サプライズなんだ。わかってても口に出すな。多分巫女は分かってない」
「紀京氏は勘がいいから準備に苦労したッス。さ、次行きますよ」
「ぬぬ……」
くるり、とイスを回されて、追い立てられる。
次に連れてこられたのは、服飾専門店。
中に入ると所狭しと真っ白けな衣装が並んでる。
明らかに用途がそれなんだが。
さすがに俺も知ってるぞ。こっそりこの店のカタログ見てたからな。わざわざ予約してくれたのか?
これはいくら巫女でも分かるのでは?
いや待てよ。もしかしたら、着物ならバレるかもしれないがドレスならどうだろう。
「そして巫女がいません」
「あっはっはっ。ホログラムがあるッスよ」
美海さんとニコニコした女性のスタッフさんがマネキンを持ってきて、スイッチを入れる。
マネキンに巫女がトレースされて、映像化する。立体写真!?
「これください」
「バカタレ。血迷ってんじゃねぇ。ドレス選ぶんだよ!」
「くっ……」
背丈は違うけど巫女のデータが元だから巫女が増えた。
俺はこれが欲しい。
「今の流行りですとマーメイド型がオススメですよ」
お団子頭のスーツを着た女性スタッフさんが真っ白なドレスをマネキンに着せる。
胸元がぱっくり開いてるコルセット型の上半身と、タイトに纏まったスカートの下がふわふわと広がっている。
なるほど、人魚か。似合うな。
「あっ!カメラ忘れたじゃないかっ!!!クソっ!!!目に焼きつけるしかない!!」
「撮っといてやるよ。お前ほんとに巫女の事となるとヤベー奴だな」
「大好きですもんねぇ。あ、動きやすい方がいいんで、ミモレ丈かショートがいいッスね」
「かしこまりました」
「オイラも見て来るッス」
スタッフさんと美海さんがドレスの海に消えていく。
動きやすい???
ますます嫌な予感がする。
アレには参列したことが一度だけある。
二次会はあそこに行くのが通例なんだが、まさかな。
店員さんと美海さんがそれぞれ持ってきた裾の短めドレスが着せられる。
ミモレ丈の方はキャミソールみたいな形で裾が控えめボリュームの大人っぽい感じ。
上から総レースの透け感があるボレロを纏ってる。石が付いてキラキラしてるな。
ショート丈の方はスカート部分にふわふわとボリュームがあって、おしりの方が少し長め。上から立体になったピンクの花びらが散らしてある。
胸元はやはり開いてるが、肩が出て袖が付いていて手首までピッタリ張り付くようにレースがまとわりついてる。
「こっちがいいです」
「はいはい、そうだと思ったッス。桃の花びらっぽいッスよね。じゃあこれで。
紀京氏のはドレスに合わせて選びましょう」
「ふっ、分かりやすいやつ」
そりゃ巫女は桃の花がいいし。ピンクかわいいだろ。と言うかさ!!
「ねーーー。巫女どこいった!?生が見たかったんだが!しかもデートじゃないしっ!!」
「どうせ会えるんだから我慢しろ。んじゃ神界に戻るぞ」
「はいッス。オイラは巫女の準備に回るんで別で行きます。また後で!」
「おう!座標固定:運営本社、マスターアクセス!」
背後から清白にがっしり掴まれて、転移が始まる。ちょっ!?うぉい!!なんで!!?
「おうじゃないっ!なんなんだよーーー!?」
美海さんにも清白にもニヤッと笑われ、真っ白な光の渦にに目を閉じた。
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「………………」
眩しい。ひたすら眩しい。そしてみんなしてジロジロ見るのやめて。
現在地、神界。社の中のでっかい庭。
アマテラスがすぐ横でニコニコピカピカしてる。
俺の肩の上には眷属になった小鳥のクロが乗ってる。他の子達はどこいった?
会場になったここには白いアイアンチェアが並んで、イザナミ、イザナギ、川上さん、ツクヨミ、サクヤ、獄炎さん、殺氷さん、清白、美海さん……そして俺の旧友の釣り人。
全員スーツとドレス姿だ。
俺が立ってる場所から、白い敷物が長細くしかれて、布の両端に桃の花びらがたくさん散らされてる。
庭園は白い砂が敷きつめられて、ど真ん中に桃の木。会場をズラっと囲んで桜が咲き誇っている。
敷物の先にはアイアンアーチが設置され、そこには五枚の花びらがある白い花がたくさん巻きついて……綺麗だな。
「どうだ?ご感想は」
「すごい。語彙力霧散する。花だらけだな」
「ふふん、そうだろう。門のところにある花はホワイトスターって花だ。花言葉は幸福な愛。桃の花はチャーミング、私はあなたのとりこ、天下無敵。桜は純潔とか精神美って意味がある。
二人にピッタリだろ?」
「そこまで考えてるのか?本当にすごいな」
言葉にならない。花言葉なんか知らんかったぞ。巫女は確かにチャーミングで天下無敵だ。俺は虜だしな!!
「なかなか男前じゃねーか?」
「スーツスタイルになると色気が出ますね?」
「本当ッスねぇ。紀京氏って洋服の方が似合うのでは?」
「複雑なんだが…和風オンラインゲームのハズなのに」
俺の衣装は巫女のドレスを選んできてくれた美海さんチョイス。
美海さんのセンスすごいよ。服に着られてる感じがないのがまた……感服しました。
ジャケットの裾が長くて、襟がほそくてとんがってる。モーニングコートと言われる礼装だ。
若者向けということで、腰が細い。仕事で着たスーツとはまた違った気心地だな。
モーニングコートは日のある時間に使う衣装で、最も格式の高い正礼装と言われる。
中にもベストを着てるから重厚に見える。
ジャケットの前は止めないのが普通なのはびっくりした。
全体的に淡いシルバーグレーで濃淡がついて、全身灰色の男です。はい。
みんなもスーツは着慣れてる感じだな。社会人だったんだもんなぁ。
「紀京、着物だと巫女にバレるッピ☆サプライズだから仕方ないぢゃん」
「そうだな。あの様子だと何もわかっていなかったぞ。紀京はスーツの方がよいな、本当に色気があるよ」
イザナミが両手をワキワキしながら近づいてくる。
「近寄るなっ!肉まん攻撃やめて。色気か、はぁ。色んな意味で複雑だ」
美海さんたちが「あー。」という顔をする。やめろっ!俺はいっぱいいっぱいだ。
んっ?サクサク、と足音がする。こいつが革靴履いてるの初めて見たな。
「いよーぅ、色男。久しぶりぃ」
「ひさしぶりだな、ほんとに。お前が釣り池から離れる時が来るとはな」
伸びた髪の毛をポニーテールにまとめて、飄々とした感じで歩いてくる。
お前が釣竿持ってないのも初めて見たよ。
「しかし、俺しか友達いねーのか?紀京」
「んなわけないだろ。ここにいるのはみんな友人だ」
「ほーん。人間代表で参列してやるよ。せいぜいお幸せにな」
「ありがとう。」
肩をポンポン、と叩き、端っこの椅子に座る。
「よくあいつ連れてこられたな」
清白が飄々とした体のあいつを見て、ううん…と唸る。
「あいつ、紀京のいちばん古い友人なんだろ?変わったヤツだが、誘ったら二つ返事で来てくれたんだ」
「えっ!?そんな事有り得るのか!?あいつマジで釣りしかしないんだぞ。俺の店にたまにふらっと来る事はあったけど」
「そのようだな。釣りの段位が一段だ。とんでもない太公望だぞ。」
「マジで?神様にならんのかなアイツ」
「人のまま生きて死ぬってよ。人生達観してるやつだな」
「はぁー。あいつなら言いそうだ。俺が初めてフレンドになったやつだが、実の所はなんも知らないんだ。転生したはずだが見た目が同じだな」
以前会ったのがいつかは忘れたが、ひょろっとした風貌も、長い髪も、偉そうな感じもそのままだ。
「ほーん?もしかしたら紀京みたいなもんなのかもな。神域でも普通にしてるし。保護付けなくても平気でいる。普通の人は息なんか出来ないからな」
「そう言えばそうだな」
そう、神域に人は踏み込めない。この前ズルい手を使って忍び込もうとした人がいて、入口でぴくぴくしてるのをイザナミがつんつんしてたんだ。
スキル上限超えないと神域では息もできない。色々考える人もいるからイタチごっこだけど、ここは本当に安全区域なんだと実感してる。
「おっ!お待ちかねの姫君が来たぞ」
シャン、と鈴がなる。
アーチの下に真っ白な影。
炎華さんと、櫻子さんと手を繋いだ、巫女が現れた。
……ドキドキする胸を抑えて、深呼吸する。
結婚式の、始まりだ。
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