第19話 簡易中級ポーション
学校へ行っている間、カメルはお留守番だ。
そこでカメルにポーションを発注しておいた。
「エル姉様、これで何をするんですか?」
「ちょっと実験?」
「実験ですかぁ」
ぱっと顔が明るくなる。
カメルも姉に似て、こういうバカっぽいことをするのは大好きなのだ。
まったく誰の背中を見て育ったのか。
「蒸留器あるじゃないですか」
「ありますね?」
「これでポーション蒸留したらどうなるかなって」
「え、それすごくないですか?」
カメルがドンドンと手を机につく。
それをしれっとメイドのリリーが注意していた。
この二人もたいがい仲良しさんだ。
「それで、ポーションの蒸留ですよね?」
「うん、そうだよ」
「本当にやっちゃいますか?」
「やっちゃいましょう。カメル」
「はい、エル姉様がおっしゃるのなら」
ということで蒸留器が今ちょうど空いてるので、ポーションをドバドバ入れていく。
蒸留するともちろん量は減る。
これは煮て水分を減らすのにも似ているものの、違うのだ。
ポーションをだだ煮詰めたことはある。
ずごい草の臭いが充満して、けっこうきつかった。
さてポーションオイルはどんな出来でしょうか。
「ではスタート」
「はーい」
点火するといってもこれは魔道具なので火は出ない。
電熱線かIHヒーターみたいにポーション水を沸騰させていく。
そうして少しずつ、上から一滴、また一滴とエキスが出てくる。
これがポーションオイルだ。
「ごくり」
ちらっと舐めて見たくなるけどまだ我慢だ。
臭いは幸い大丈夫な範囲で別に臭くもない。
「濃いブルーですね」
「そうですね」
ポーションは薄い青い。それが濃い青い液体が溜まっていた。
「これ中級ポーションじゃないですかね」
「私にもそういう風に見えます」
カメルもどこで勉強してきたのか、そういう知識はあるようで、ごくりと喉を鳴らした。
「先生、先生のところ行こう」
「はい」
もちろんクライシス診療所のマクラン先生のところだ。
ポーション瓶に移し替えた液体を一本でも安全にマジックバッグに入れて持っていく。
走ると結構疲れるが、それほど距離はない。
近所でよかった。
「先生!」
「どうした、カメル様に、おや、エルダ様まで」
「なんか濃いポーション出来まして」
「濃いポーションねえ」
マジックバッグから取り出すと先生が息をのむ番だった。
「ほう、これはこれは」
「普通の中級ポーションじゃないね」
「違いますよね。これは初級ポーションを蒸留したものです」
「蒸留ってあのハーブオイルのかい」
「そうです」
「なるほど、あの装置、高いからね。普通思いつかないね」
じっくりと先生が見て観察している。
それから手をかざして、唸っている。
「うーん。確かに中級ポーション並みだね」
「そうですか、やった」
「試しに今度使ってみるけどいいかな?」
「どうぞどうぞ。料金後払いで」
「わかった。患者さんにお願いしてみるよ」
怪我人がいないと意味はない。
今、それを必要としている人はたまたまいないようだった。
翌日、学校から帰ってきてカメルを連れてマクラン先生のところへ直行する。
さすがに一日経てば誰か使っているだろう。
この診療所はかなりの人気だ。
「おお、来たかい」
「はい。どうでした?」
私が心配そうに尋ねると、先生はにっこっと笑ってみせた。
「中級ポーション級、間違いないね」
「そうですか!」
「これ材料どれくらいだったか覚えているかい?」
「たぶん、初級十本くらいですね」
「それだけでいいのか、ふむ。安いな」
「安いんですか?」
「そう、これは革命かもしれん」
「革命!」
錬金術というよりもお酒造りとかで使う蒸留器。
これを応用したポーションは今までなかったらしい。
理由は蒸留器が高価だから、これ一点に尽きる。
なんでも私たちが使っている小型の物でも、かなりのお値段だそうだ。
お父様は最初、桁を一桁間違えて発注して、あとで十倍の値段だと知ったらしい。
でも買ってしまった以上払わないといけないと買ってきたそうだ。
今までお母様に怒られると思って秘密にしていたという。
お母様もあきれ顔だ。
ずいぶん奮発して買ってきたなと思っていたけど、想定の十倍だったとは知らなかった。
さすがのお父様もこればっかりは頭をぺこぺこと下げて謝っていた。
とにかく、そういういわくつきの装置、蒸留器のなせる業らしい。
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