第20話 ポーション・フィーバー

 さて変な中級ポーションを作ってしまった。

 誰でも作れる初級ポーション。

 それに対して本来であれば森などで採れる本当の薬草を煮たりして作るのが中級ポーションだ。

 材料費からして高いため、もちろんその値段は何倍もする。

 初級の十倍どころではない。

 もちろん性能も、比べるのが難しいけれど、酷い怪我でもある程度までは治るらしい。


「ということで、これをバレル商会に」

「すでにある蒸留器でいいのかい?」

「そうみたいですね」

「おおぉ、それは助かる。初期費用が少なくて済むからね」

「そうですね」

「しかし、こりゃ一大産業になったら蒸留器も増やさないといけないな」

「そうですね」

「よし、このレオ・バレルにおまかせを」


 ということで一任した。

 あってよかったバレル商会。

 バレル商会にはなんでもバレル。お見通しなんちゃって。


 冒険者ギルドや商業ギルドで初級ポーションを普通の値段で買い集めていた。

 自分たちでもウィークリー・ハーブを採取できる分は集めてポーションにしているそうだ。

 それを蒸留器で蒸留していく。

 そして簡易中級ポーションにする。値段が全然違うので、もちろんぼろ儲けということらしい。


「新しい中級ポーション、青いんだよな」

「そそ、濃い青なの」

「それで、安いんだぜ」

「そうなのか、いい時代だな」


 普通の人は呑気に言っているけれど、騎士団では大変なことになっているらしい。

 北の国境門では中級ポーションの需要が大きい。

 そこへこの話が舞い込んできたから、もっとくれと大はしゃぎになったとか。

 朝学校に行ったら興奮気味にゲレン君が教えてくれた。


 なるほどそんな影響が出ているのか。

 マリアランド辺境伯領は優位に立てて、かなりの安全が保たれると噂になっているそうな。

 それで傭兵が集まりつつあって、賑わっているんだって。

 物も何でも売れてうはうはという話だ。

 でも戦争する気はないのに、向こうは鼻息が荒くなって逆に危険なんだそうだ。


 バレル商会は結局高価な蒸留器を二台増やした。

 それもうちにある小さいのではなく大きいのだ。

 もちろんお値段もするだろうに、よくやる。


 蒸留器を作れる職人さんたちも何度目かの注文で慣れているので安心して任せられる。

 最初は小型のものからだんだん大きくすることはよくあると言っていた。


「それで報酬がこれくらいに」

「わーお」


 大金が貰えた。

 ちょっと額面がわからないくらい。

 金貨だと山になってしまうので大魔石がいくつか混ざっている。

 金貨より魔石のほうが大きさ当たりの値段が高い。

 こういうときにお金の代用に使うが、あまり数はないそうだ。


「大金だけど、何にしよう」

「さあ、魔道コンロでも作って売るとか」

「それだ!」

「え?? 本気ですか」

「今、初級ポーションって品薄なんでしょ」

「そうですね」

「それって魔道コンロが少ないせいなんですよね」

「薪で沸騰させるのが面倒だと言う話は聞きました」

「つまりそういうことですよね」

「そう、ですね、はい」


 クラスメイトに配って後でお金返してもらおう。

 逃げるのも難しいし。


「ユーリア様、アルバイトしてみませんか」

「アルバイトですか?」

「初級ポーション、作れますよね」

「はい、実習で何度か作り方をやったので」


 あれから何回かやった。初級ポーション。

 みんな作れるようになっている。


「でもあれ魔道コンロが必要で、うちにはないから」

「それそれ、それなんだよ」

「それと言いますと?」

「魔導コンロ、うちにあるの貸してあげる」

「いいんですか?」

「でも、儲かったら一割ずつ費用を引いて返してもらうよ」

「はい、それくらいなら」

「よし、契約いい?」

「はいっ」


 とユーリア様を最初に勧誘する。

 そうしてバレル商会に納品してもらう。


「最近、ユーリア様笑顔が前よりも明るくなって」

「そうね、服装も新しい服買ったみたい」


 そういう話をしている後ろでユーリアちゃんが照れている。

 あれから一週間ほど。ポーションを作ってもらったのだ。

 片手間でもそれほど難しくはない。

 ウィークリー・ハーブはその辺に生えている。

 繁殖力が強いことにも助けられて、ぜんぜんなくならない。

 それでユーリアちゃんはポーションを量産している。


 大金まではいかないけど、新しい服を一枚買えた。

 この一歩からどんどん進んでいくのだ。


「あのね、魔道コンロ貸してあげるから、ポーション作らない?」

「私もね、服を買えたの」


 二人で勧誘して回る。

 もちろん断られることもあるものの、何人も勧誘に成功した。

 お試しから本格生産に入った人もいる。


 一年一組ではこうして初級ポーションを量産するようになった。

 ものは全部バレル商会で中級ポーションになって売られていく。

 少し初級ポーションの数も安定してきているらしい。

 うちで作っている以外の多くが中級ポーション用に転用されていたので少し品薄だったのだ。

 これだと庶民は困ってしまう。

 だから今回のことを画策した。

 初級ポーションは初級でなくてはならないのだった。

 そしてバレル商会ではさらに増産ができたためまたお金が増えてしまった。


「このお金、どうしよう」


 うれしい悲鳴だけど、困ったな。

 持ってると社会が回らなくなってしまうし。

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