第2章 幼年学校
第13話 カメルのメイド
私は八歳になっていた。
ということでカメルは五歳になった。
相変わらずかわいい。
五歳当時の私と同じ年だけど私よりもかわいく見えるから不思議だ。
「新しいメイドさんよ」
「リリーです」
「よろしくお願いします。カメルです」
カメルもいつの間にか普通にしゃべるようになった。
以前は「ママ、ママ」と言っていたのに今ではおすまし顔で「お母様」である。
当時の私もそうだったから他人のことは言えないけど。
メルシーもカメルの面倒を見る分は免除になったので、少しは楽だろう。
そうはいっても実際のところ、小さい頃より活動的になって追いかけるのは大変だ。
私は前世の記憶もあって比較的おとなしくしていたはずだ。
でもカメルはあちっいって見学してこっちいってはジュースを飲みと忙しい。
「メルシーもちょっとは楽ね」
「はい、エルダ様」
「あはは、カメルもお縄に着くときが来たね」
「そうですね」
今日も日課であるポーション作りはする。
もう顧客がいるので、おろそかにはできない。
もちろん子供相手に取引しているので、風邪で休んだりしても怒られないものの、やっぱり後ろめたさはある。
あ、でも風邪はめったに引かない。
よくこれくらいの子ってしょっちゅう風邪を引いたりするんだけど、私たちにはポーション健康法がある。
やっぱりウィルスとか菌とかにも効くみたいで、ポーションには世話になっている。
それでリリーだ。
カメルはかわいいが、リリーもかなりかわいい。
妹が二人になったみたいだ。
「あっ、カメル様、まって」
「えへへ、ジュース飲もう」
そういって台所に行ったり。
「お庭見るもん」
「まって、カメル様、今行きます」
と本当に大変そうだ。
一日中カメルを追いかけているので、この子は本来大人しいのかどうかさえわからない。
本人の負担でなければいいんだけど。
二人は夕ご飯を食べてお風呂に入るとすぐ一緒に寝てしまう。
「ふふ、おやすみ、カメル、リリー」
「おやすみなさいませ。カメル様、リリーちゃん」
「むにゃむにゃ」
「んん、むにゃにゃ、お姉ちゃん」
なにやら寝言を言っているがわからない。
と、なかなかの仲良しさんだ。
「じゃ、私たちも寝ようか?」
「はい、エルダ様」
「メルシー、おやすみなさい」
「おやすみなさい、エルダ様」
私とメルシーも三年の間にだいぶ仲良くなった。
女の子同士だと思うと気が楽だ。
けれども、私の中には男性だった時の記憶もあるので「メルシーもかわいいな」と男性だか女性だかわからない視点で見ることもある。
そういえば女の子が好きだな、という気がする。
というかまだ男性の知り合いが先生とか会長とかおじさんたちばかりで、若い子と接する機会がほとんどないんだな、と気が付いた。
別に問題があるわけではないけど、ちょっと勇気がいるかもしれない。
「カメルもポーションやります」
お、ついにきたか。そう思った。
カメルは最近、色々なことに挑戦するようになって、当然お姉ちゃんの真似もしたい。
ただ遊びではなく、カメルも本気なのが本当に小さいころと違うところ。
「んじゃあ、今日はポーション作りはカメルに」
「やった、エルお姉様、ありがとう」
「うん、じゃあ、やってみよう」
「はいっ」
元気いっぱいに返事をして、ビーカーで本日の分のポーションを作る。
万が一失敗したとしても、また採ってくればいい。
私たちには十分広い領都内に草はあちことに生えているので、なくなったりしないのだ。
小さい子たちや他の貧乏な人がポーション作りを商売にしていないのは最初不思議ではあった。
「貧乏な人がポーション作りしていないけど、あ、そうか、魔道コンロ」
「そうですね、持ってないかもしれませんね」
そういうことだ。
薪で火を使う家も多い。
うちは高価な魔道コンロと卓上魔道コンロが装備されている。
でも庶民の一般家庭にはなくて、薪で火をつける必要があったのだ。
それだととても毎日、制作しているほど余裕はないのだろう。
先に魔道コンロが買えるなら、費用分をあとで取り返せるだろうけど、一般的に借金させてくれるギルドなんてないらしい。
「なかなか世知辛いんですね」
「そうですね」
メルシーと二人で、カメルとリリーちゃんがポーションを作るところを見て楽しむ。
なんだか動きが面白いというか、どこかピコピコしてかわいらしいのだ。
数年前の自分も同じだと思うと、なんともいえないが、いいんだ。
こうしてポーション店の仕事は主にカメルとリリーちゃんが担当してくれるようになった。
ついに、学園もとい幼年学校に通う歳になる。
ぐひひひひ、私は心の中で悪い笑顔を浮かべる。
ポーションもさらに上級の物を作れるはずなのだ。学生だし。
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