第12話 流れゆく日々
冬が終わり、春になった。
またホワイト・ハーブが一面に咲いている。
今年は別の場所でも栽培している。
去年買えなかったけど欲しいと言う人が、たくさんいるため、需要は見込めていた。
蒸留器はうちにしかないため、花の時期の終わりころ、毎日うちにはホワイト・ハーブが持ち込まれ、連日蒸留器とにらめっこをしていた。
「今年も領主様と女王様には献上しないといけませんね」
「そうね。お母様」
抜かりはない。どちらも春夏秋冬と季節ごとのハーブオイルを献上している。
どれも匂いだけでなく、精神の鎮静作用など薬効が少しだけある。
「うふふ、お母さんね、お茶会でまた話題になったのよ」
「そうですか」
「そうなの。去年すごい人気で、今年こそはくださいってみんな」
去年は派閥の人たちには無償で配布していたっけ。
今年からはバレル商会が間に入るので、そこで買い付けることになる。
「バレル商会もうはうはね」
「そうですね、あはは」
また金貨が貰えると思うとにっこりだ。
今年も蜂蜜が欲しい。
サツマイモはあれから豊作になって領地の子供たちも甘いものが食べられた。
でもまだ全員に行き渡るほどではないので、今年はもっと作付面積を増やすそうだ。
そうして献上のハーブオイルで賑わった。
あっという間に夏が来る。
今年もシシカカ湖に行った。
「お肉、お肉!」
「今年はワイバーンじゃないけどね」
「そうなのですか?」
「ブルーブルっていう牛のお肉だよ」
「それでもお肉なんだ、やった!」
お肉をひたすら焼いて食べる。
塩コショウだけでなく、ソースもあった。
とても肉汁たっぷりで旨味もあって、美味しい。
涼しい湖畔でお昼寝も満喫した。
そんなこんなで夏を過ごした。
ヒマワリの栽培は今年は農家さんちでやることになったので、うちではやっていない。
代わりにレッド・フィッシュ・フラワーを一面に植えた。
「真っ赤なお花畑」
「そうね、綺麗だわ」
お母様それから三歳になったカメルと一緒に庭を眺める。
カメルは順調に成長していて、手足も前よりも長い。
よちよちしていた頃もかわいかったけれど、今もずっとかわいい。
「うん、いい匂い」
レッド・フィッシュ・フラワーもいい匂いがする。
ほのかにすっきりした匂いは女の子たちに人気だった。
またハーブオイルにしてバレル商会に引き渡す。
高価な蒸留器はまだこの辺りではうちにしかないため、契約農家で栽培したレッド・フィッシュ・フラワーもすべて一度うちに持ち込まれて蒸留される。
商売は繁盛して、去年ほど話題ではなかったけど、それは商品が十分に行き渡っていて品切れを起こしていないという意味でもあった。
売り上げは去年の倍以上で、うはうはだ。
秋にはコスモスだ。
甘い匂いもこれはこれで人気がある。
それから忘れてはいけない行事がキノコ狩り。
今年もキノコ狩りをした。
イエロー・マッシュルームもたくさん採れた。
毒キノコだからとか言ってられない。
ちょっとだけ食べたし、美味しかった。
ほとんどはちゃんと薬にしてクライシス診療所に納品したよ。
冬はスノー・ブルーだ。
独特の優しい匂いだけれど、個性があっていい匂いなのだ。
花を染料にするのも忘れなかった。
染料の状態で保存しておき、冬に作った新しいパズルに色を塗った。
去年評判だったので、今年も欲しい人がいたのだ。
数はそれほどないけれど、私たちの派閥の中では有名になるくらいだ。
もちろん日曜日以外の毎日、ポーションを作るのも忘れていない。
オレンジは切らしてしまったので、また普通の青いポーションを作っている。
いつもやっていると最適な分量などもなんとなくわかるようになってきた。
こうして品質の高いポーションができるようになった。
ポーション店の噂は街中で少しだけ広がっているらしい。
いくつかの他の診療所が欲しがるようになった。
そのため、生産量を増やして取りに来てもらうようにしている。
「診療所の者です。ありがとうございます」
「いえいえ、よろしくです」
趣味でやっているとはいえ、こうやって必要とされるのはうれしい。
庭の木も一年で枝がまた伸びた。
このままいけば、もっと実がなると思う。
自分たちと競うように庭木も大きくなっていく。
こうして平和な日々が過ぎていく。
平和かどうかは、ちょっとわからないか。
北の国境門では隣国と小さなイザコザがあるそうだ。
業者のポーション屋さんは余力分をそちらへ力を入れるようになっている。
街中では私のポーションが普及しつつあるので、住み分けらしい。
戦争とかだと傷も大きい。
下級ポーションでは回らないだろう。
これは農作業とかの傷を治すものだもんね。
とにかく、いい感じに生活は回っていた。
お父様ラバンは、相変わらず文官をしている。
特に忙しいわけでも暇なわけでもなく、平日は仕事をして日曜日には遊んでくれた。
特に秋のキノコ狩りでは活躍した。
お父様がいないと森へ行けないのだから、重要なのだ。
そうして六歳になり七歳になり、八歳になった。
日々はあっという間に過ぎていくというが、本当だ。
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