第9話 初めてのポーション

 もうだいぶ寒くなってきた。

 この領地は雪がほぼ降らない。

 少なくともここ数年は降っていないという。


「スノー・ブルーですね、エルダ様」

「そうですね」


 お花の時期が終わったので、次の花を植えた。

 それがスノー・ブルーという花だ。

 これもまたいい匂いがするのでオイルにする予定。


「ウィークリー・ハーブが隅に生えてた!」


 実は家の庭の隅の方には雑草区画がある。

 種が飛んできて自生している草が生えている。

 そこにウィークリー・ハーブが生えてきたのだ。


 別に珍しい草ではない。

 一週間で大きくなるという逸話から、その名で呼ばれる。

 これは下級ポーションの材料なのだ。


「調薬、やってみたい」

「お嬢様がですか、まあいいんじゃないですか」


 リーチェからも了解を貰った。


 ウィークリー・ハーブを細かくナイフで刻む。

 葉っぱが小さくなるまで頑張った。

 それをビーカーに入れて煮ていく。


「ぐつぐつ♪ ぐつぐつ♪」

「ぐちゅぐちゅ♪」


 私がぐつぐつの歌を歌うと、カメルも真似していた。かわいい。

 水が薄緑色からだんだんと濃くなってくる。

 沸騰したころにはだいぶ濃い緑になっていた。


「よし、火を止める」

「にゃにゃ」


 カメルの謎の相槌を聞いて、火を止め観察する。

 だんだんと温度が下がっていく。

 すると色が緑から青に変色していく。


「おぉぉお、青い」

「青に、青に」

「面白いですね」


 メルシーも一緒になってそれを見ていた。

 みんなで目を丸くして青くなっていく過程を楽しんだ。


「いいかな?」

「いいんじゃないでしょうか」


「できた。下級ポーション、簡易版」

「そうですね! すごいです、エルダ様」

「へへん」


 このレシピは広く知られており、民間人でもけっこう作ることがある。

 ウィークリー・ハーブのポーションを専門にしている人もいるらしい。


 クライシス診療所へポーションを持っていく。


「こんにちは、マクラン先生」

「あらエルダ様、それに新しいメイドさん、ようこそ」

「見て見て、ポーション作ったの」

「そうみたいですね」


 ビーカーをじっと観察する先生。

 臭いも嗅いでいるが、変な匂いはしない。

 少しだけ草の匂いがした。


「ウィークリー・ハーブだね」

「そうです。よくわかりますね」

「まあね」


「おいくら?」

「先生こそ、おいくらで買います?」

「えっと、銀貨三枚かな」

「じゃあ、売った」


 先生がポケットをあさり銀貨三枚を出す。


「飲んでみてもいいかな?」

「え、今?」

「うん。健康にいいんだ」

「どうぞ」


 緊張してそれを見る。

 先生はポーションをごくごくと飲んでいく。

 一気にあおって、そのまま飲み干した。

 量としてはコップ一杯くらいか。


「どうでした?」

「うん、大丈夫。よくできてるよ」

「やった」


 私はうれしくて、ぴょんぴょんした。

 はじめてのポーションが褒められた。

 異世界にしかないポーション。魔法みたいで、スキなのだ。

 それをついに自分で作った。


「もっと持ってきても?」

「もちろん。買取はしてるよ」

「やった、じゃあね。また、先生」

「ああ、いってらっしゃい。ばいばい」


 私は道中の道端を見て歩く。

 あ、あった。ウィークリー・ハーブだ。


「うんしょ」


 それを採った。またちょっと歩く。


「ここにも生えてる」

「エルダ様、やりましたね」

「うん、メルシー」


 メルシーに持ってもらって、新しいウィークリー・ハーブを採る。


「あっこちにも、たくさん!」

「ここはすごいですね」

「メルシー、すごいよね」


 いっぱい収穫した。

 メルシーも両手にいっぱい、ウィークリー・ハーブを持つことになった。

 家に戻ってくる。


「ただいまー」

「あら、エルダ、メルシーちゃん。お帰りなさい」

「ただいま、お母様」

「ただいまです。奥様」

「あらまぁまぁ、そんなに抱えて、ウィークリー・ハーブよね」

「はい。ポーションいっぱい作るの」

「へぇ、もうそんな歳なのね」

「そうだよ!」


 今度は小さな魔道コンロではなく、大鍋になった。

 キッチンは危ないのでリーチェの担当だ。


「ぐつぐつ♪ ぐつぐつ♪」

「ぐちゅぐちゅ~♪」


 家でお留守番していたカメルも一緒に鍋を見守る。

 家の中から倉庫まで探して、古いポーション瓶を集める。

 探してみると意外とあるもので、いくつか見つかった。


 ポーション瓶を並べて待つ。


「緑になったから火を止めるわね」

「はい、リーチェ」


 魔道コンロの火を止める。

 ここからは見えないけど、今度は青くなる。


「見たい、見たい」

「はいはい、順番ね」


 みんなで鍋を順番に見せてもらう。

 緑からだんだん青くなっていく。成功だ。

 といっても普通は失敗しないと思うけど。


 冷ましたあとにポーション瓶に注いでもらって完成だ。


「できました!」

「よかったわね」

「クライシス診療所へ売りに行かなきゃ」

「いってらっしゃい」


 小さなマジックバッグを借りて、それにポーションを詰めていく。


「では行ってきます」


 またクライシス診療所へやってきた。


「先生。またきました」

「おや、できたかい?」

「はいっ」


 ポーション瓶を並べる。


「おやおや、けっこうたくさん作ったね」

「でしょ、えへへ」

「全部もらうよ。えっといくらかな」


 金貨二枚くらいになった。やったぜ。

 ちょっとしたお金を手に入れてホクホクした。

 はじめての異世界でのポーション作りはこうして成功した。

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