第8話 お付きメイド

「エルダ様、本日から新人がまいります」

「新人? メイドさん?」

「そうですよ」


 リーチェの後ろから現れたのは、かわいいメイドさん。

 私と同じくらいの大きさなので同い年なのだろう、たぶん。


「お付きメイドになります。メルシーです」


 ぺこりと頭を下げる。

 青い長い髪の毛はとても綺麗だ。

 目は緑色をしていた。

 もちろん女の子なのだろう。

 小さなメイド服に身を包んでいる。


「よろしくね、メルシーちゃん。エルダ・バーグマンです」

「メルシー・フェアリアルです、よろしくお願いします」


 リーチェはもうじき卒業だ。

 次代を育てるということなのだろう。

 ただ家のメイドではなく、私のお付き、つまり専属メイドということみたい。


「貴族の女の子は同年代の子をひとりつけるのが風習なのだそうです」

「そうなんですね」

「ええ、男爵家くらいだと珍しいみたいですけど」

「そうなんだぁ」


 うちは今は男爵家なんだけど、お父様のお父様は子爵家だったらしい。

 次男なので本家を継げず、別の家を興したので男爵家からスタートだった。

 特にお父様は文句なども言っていないので、現状でも満足しているのだろう。

 ただ子爵家だった子供の頃の風習とかは忘れていないということのようだ。


「それじゃ、まずは握手」

「はい、エルダ様」


 ギュッと握手を交わす。

 手は温かい。しかしまだまだ小さい子供の手だ。


「お着替え手伝いますね」

「うん」


 まだ寝起きだったので着替える。

 パジャマを脱いで、ワンピース風の服を着る。

 頭からかぶるので、先に持ってもらい、エイショエイショと体を通していく。

 それから靴下を穿くのだ。


「うまく着替えられましたね」

「やった」


「次はカメル様のお手伝いに行ってきますので、先に食堂へどうぞ」

「わかったわ」


 なるほど私だけじゃなくて、カメルの手伝いもするのか。

 カメルも五歳になったら専属メイドがつくのだろうけど、それまではメルシーちゃんのお世話になるということか。


「ふふ、かわいい子だったな」


 小さい子はかわいい。

 自分もかわいいが、やっぱり自分は自分だしね。


 自室から出て洗面所に行き顔を洗う。

 問題は頭の毛だろう。


 ブラシを取り出していていく。

 これをやらないと爆発したままだ。


 部屋の方からカメルのきゃっきゃという笑い声が聞こえてきた。

 なかなかうまくやっているようだ。


 色々と朝の支度が終わる。


「いただきます」


 リーチェの朝ご飯だ。

 今日も美味しそう。

 パンに具だくさんのスープ。それから焼いたベーコンがある。

 飲み物はミルクだ。


 もぐもぐ。

 うん、美味しい。


「おいち!」


 カメルも美味しかったようで、にっこり笑顔だった。


 メイドさんは一時間くらい早く起きて先に支度をしてご飯も食べてしまう。

 新人のメルシーちゃんもリーチェと一緒に食べたのだろう。


「お馬さん♪ お牛さん♪ ぴこんとジャンプ、羊さん♪」


 メルシーちゃんとカメルと一緒にお歌を歌う。

 なんということはないが、メルシーちゃんもなかなか上手だ。

 カメルはまだ音程が不安定で舌足らずだけど、そこがかわいい。


「鶏さん♪ 豚さん♪ ぐるっと一周、山羊さん♪」


 家畜の歌だ。

 家畜はモンスターではないので、区別する必要がある。

 一般的にはモンスターを飼うことはない。


 あ、テイムといってテイマーの人がモンスターを飼いならすことはある。

 ただし普通は自分より格下のモンスターのみテイムできるので、スライムや一角ウサギなどが多かった。


「クリでも採ろうか」

「はい、エルダ様」


 メルシーちゃんと朝の用事が終わったリーチェを連れて庭へ。


 いろいろな果物の木を植えてある。

 クリもそうで、この辺では珍しい。

 これも昔、バレル商会に探してきてもらったものだ。


「桃栗三年柿八年」


 とは言うけれど、まだ三年か。

 小さい私がこれもせがんで植えてもらった。


 リーチェに長い棒を取ってきてもらい、木になっている実を落とす。


「うわっ」

「落ちてきましたね」


 足で踏んで開くと、中のクリの実を取り出す。

 まだ十個ないくらいかな。


 ナイフで半分に切ってもらってスプーンで食べる。


「美味しいわ」

「おいち! クリ!」


 クリを食べる。うん、まあまあ美味しい。

 初収穫だ。

 クリにもなにか薬効があるのだろうか。

 地球とも違う可能性があるので、あとで調べなければ。


「はい、クリ。メルシー」

「え、ありがとうございます。エルダ様」


 メルシーにもおすそ分けをする。

 急いでスプーンを取ってきて食べていた。


「美味しいです!」

「そう、よかったわ」

「はいです!」


 メルシーちゃんもかわいいな。


「メルシーちゃんの家ってどんな感じなの?」

「私ん家ですか?」

「うん」

「そうですね。それはですね。――」


 私のお父様と同じ、文官のお家だそうだ。

 貴族ではないが同じ派閥に所属しているんだって。


「オイルの話聞きましたよ。ホワイト・ハーブのオイル」

「ええ、あれね。リーチェ、取ってきて」

「はい、かしこまりました」


 メルシーちゃんも後を追う。

 家の中のどこに何があるか把握してもらわないとね。


「ありがとう」

「いえ」

「で、これが元祖ハーブオイル」

「いい匂い」

「でしょ」

「在庫も半分以上使っちゃったけど、計画範囲内ね」

「計画とは?」

「ほら春しか取れないから年間を通して消費量を調整してるの」

「へぇぇ。エルダ様って頭いいんですね」

「ま、まあね」


 前世チートがあるからね。これはさすがに言えない。

 まだ誰にも言っていない秘密だ。

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