第2話 あなたは異世界転生しました
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お姉様の階段落ちを経験して、少しは聞く耳を持ってくれるかな?
これからSFちっくな仰天話をするけど、頑張ってついてきてね。
仕組みをぐだぐだ考えたりしても無駄だから、『そういうものだ』と納得したほうが楽。
えーと……あなたが今生きている『そこ』はね、『君と秘密の部屋』っていう乙女ゲームの世界なんだよ。
本やゲームの世界に入り込んでしまうというストーリーは、昔からあるよね。
あなたは元々、物語の『外』にいた人間なの。だけど今は『中』に入ってしまっている。
あ――今あなた、それはおかしいって思ったでしょ。
自分自身、物語に入り込んだ記憶がない、って。
現時点では確かにそうでしょうね。今のあなたには『外』にいた時の記憶がないから。
けれどあなたはそのうちに、すべてを思い出すんだよ。
自分の前世の記憶を。
前世のあなたは平凡な女子中学生だった。『君と秘密の部屋』というゲームが好きで、よくそれで遊んでいたの。
そしてある日事故で亡くなり、好きだったゲームの世界に転生してしまった。
それでさ。すべてを思い出すタイミングが最悪でね。
もっと早ければ色々対策も立てられただろうに、クライマックス場面で思い出しても、時すでに遅しなんだよね。
あなたは断罪されて、負ける。婚約破棄され、すべてを失う。
そこからの挽回はさすがに不可能なんだ。
『君と秘密の部屋』の世界で、あなたは『ヒロイン』のポジションにいない。
――順を追って説明しましょうか。
この物語はね、大小様々な『秘密』がキーワードになっているの。
乙女ゲームというからには、見目麗しい男性が複数出て来て、『ヒロイン』が彼らを攻略していくわけだけど、手に入れた『秘密』をいかに上手く使いこなすかで、結果が変わってくる。
いってみれば情報戦だね。
あなた、こと、西大路綾乃の役どころは、ヒロインをいじめる『悪役令嬢』。
西大路綾乃がどうして最後に負けてしまうか分かる?
――心根が醜いから? ヒロインをいじめたから?
いいや、違うね。
西大路綾乃が負けたのはね、無知だったから。
無知なせいで、あなたははすべてを失うことになった。
愛する婚約者も。大切な姉も。
失くしてから泣き叫んでもさ、覆水盆に返らずなんだよ。
これを読んでいる『あなた』はそうならないでね。
ああ、そうそう――
破滅回避策として、婚約者と結ばれるのを諦めて身を引くとか、無駄だから。
このゲームはね、『ヒロイン』が誰を選んだとしても、あなたは高確率で不幸になります。
だから気を抜かずにいきましょう。
――打倒、ヒロイン!
悪役令嬢・西大路綾乃が生き残るには、ヒロインを完膚なきまでに叩きのめす必要があるんです。
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予言のとおり、姉の階段落ちは実現した。
つまりこの本は、真実を語っている。
――本物の『予言の書』だ。
綾乃はそれを確信した。
あの階段落ちは、仕込みでどうこうできる内容じゃない。突き飛ばしたあの女子生徒の目は血走っていて、真実のすごみがあった。
あの場にいた全員がグルで、協力し合ってあの状況を作り出したのでないかぎり、やらせはありえない。そして全員がグルではないのは、状況からして明からだった。姉は後ろ向きで落ちたのだし、下手したら死んでいたからだ。
芝居なら下に分厚いマットを敷き、ワイヤーで体を吊って実行するだろう。けれど目の前で起きたあれは、そういった作りものとはまるで違った。
姉は奇跡的に助かったが、それはあくまでも結果論。
落下した時点で、綾乃は階段下に誰もいなかったのを目視している。
あの駆け込んで来た男子生徒は、助けた姉の顔を見て嫌悪の表情を浮かべていたから、たまたま偶然あの場にいて、咄嗟に助けただけのようだ。
運動神経が良すぎて、落下してくる人を遠目に見て、何も考えずに飛び出したのだろう。
それで間に合ってしまうのがすごいけれど。
とはいえ……あの方、性格は最悪だったわ。
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