log18...こちら管制塔。私が唯一広域から戦況を俯瞰可能であるから解説させて頂く(記録者:KANON)

「敵機・モスコミュールの機体反応ロスト」

 私は現場の三機にAIロボットのような抑揚で告げた。

 現場の状況をミニマムに納めたレーダーと、多方向からの衛星撮影の映像を俯瞰ふかんしながら。

 此方こちらのアルバス・サタン、アーテル・セラフ、UMGPアンマークド・グッドプロダクトは、丁度、シャールク・ジャバダ(6時方向を機体正面とする)を中心に1時方向・6時方向・11時方向のV字型に取り囲んで居た。

 ロイヤルガードはUMGPの後方、九頭龍くずりゅうMARK Ⅱはシャールク・ジャバダの頭上を取って居る。

 私は直ぐに、味方三機へそれを伝えてやる。

 やはり、アーテルとアルバスが真っ先に合流しようと互いに移動した。

 言葉の要らない、相手が見えてすら居なくてもお構い無しの阿吽の呼吸だ。

 これが、二タイトルのゲームを共にした関係性なのか。

 そんな機体マーカーの動きを見ると、少し、胸に疼痛を覚えるが、今はそんな余裕は無い。

 兎に角、このシャールク・ジャバダは全方位をカバー出来る筈だ。

 包囲しても無駄だろう。

 結局の所、AIが操作するNPCと言うのは、どさくさ紛れにそんな理不尽を押し通して来る。

 シャールク・ジャバダがリング状のミサイルユニットを分離し、その場に投棄した。その落下だけで直下の基地に甚大な損壊が生じているが。

 兎に角、ミサイルは撃ち尽くしたのだろう。

 ミサイルユニットと入れ換わるように、もう一つのリング状ユニットが起動。

「マルチプル・レーザーキャノンが回転を開始、高出力エネルギー反応。各機、射線から離れ――」

 私の警告がにわかに途切れた。

 シャールク・ジャバダが更に別の武装を解放したからだ。

 あの、射出されてから意思ある物のように整列し、シャールク・ジャバダの頭上に侍った物は。

「敵機がリーズン式オービットを八基射出! 回避しろ!」

 私の、殆ど役に立たない叫びの直後、とうとうマルチプル・レーザーキャノンが発射された。

 回転するリングから伸びた無数の銃口の一つ一つから、重SBが主砲として担ぐレベルの高出力レーザーが高速で伸び、天地を間断無く薙ぎ払う。

 基地の彼方此方あちらこちらが抉られ、溶断される地獄絵図を、我が方の三機はどうにか無傷で潜り抜けたようだ。

 ついでに九頭龍も同様。

 ロイヤルガードは……更に後退しつつ被弾。

 やはり、重装タンク型には機体相性からして厳しい相手だ。

 何人なんぴとも、不利な相手にはまず勝てない。

 これがオルタナティブ・コンバットの非情な現実でもある。

 機体相性をも覆し、好きなデザインの機体で戦い抜きたいのであれば、英雄的な操作技術を身に付けろ、とは良く言われる警句だ。

 それに、シャールク・ジャバダの武装はマルチプル・レーザーだけでは無い。

 依然、ハープーン砲が高弾速で殺到し、パイロットにマニュアルコントロールされたリーズン式オービットが、実質、独立するちょっとしたSBのような精度で付け狙って来ていた。

 先の撃墜競争から此処ここまで比較的大人しかったアルバス・サタンが、大きく動きを見せた。

 マルチプル・レーザー、時々ハープーン、更にオービットからの紅いビームを紙一重で躱しながら、的確に背部装備のウイングをショットガンに変形。

 前面を埋め尽くす物量の散弾を、シャールク・ジャバダ目掛けて放出。流石に本体やレーザーユニットは強固なパルスシールドに覆われているらしい。被弾箇所の空間が、蒼い光を伴いつつ蜃気楼のように屈折して見える。

 あの一粒一粒が砲弾じみた口径の散弾を浴びても機能に支障が無いらしく、第二波のエネルギーチャージが着々と行われている。

 だが。

 アルバスの散弾にオービットの何機かは別だった。

 AIならではの超反応で直撃こそ免れたものの、その矮小な質量が空中で大きく制動を失う。

 アルバスもまた、殆ど横たわるような無理な姿勢で弾幕の隙間を縫いながら、ビームマシンガンでオービットの一つを集中砲火、その装甲が赤熱する程のエナジーを叩き込んで破砕した。

 しかし、もう一基のオービットがアルバスの頭上から狙いを定める。

 アルバスの方は、全身のサブブースタで自分を吹き飛ばし、シャールク・ジャバダのハープーンを回避したが、オービットの狙いからは逃げ切れて居なかった。

 撃たれる――寸前、駆け付けたアーテル・セラフのレーザーサイズ“ムーンライト”が、そのオービットを唐竹割に両断した。

《……済まない、助かった》

《どういたしまして》

 私は、胸元で拳を握りながら、それを眺める。

 肉眼ですら無い、隔絶されたこの場所から。

 雑念を、捨てなければ。

 今の瞬間、私は、ある予測を立てていた。

 先程、YUKIユキも利用したらしい兵器データベースにアクセスして、その仕様を擦り合わせる。

 シャールク・ジャバダ自体の外観から、構造を――つまり、装弾数を推理。

 そして、アルバスら、五機に対するシャールク・ジャバダの挙動を注視。

 やはりだ。

 奴の攻撃パターンが変化している。

 より正確には、

「敵機、ハープーン砲の弾切れを確認」

 ここで断定した私は、味方三機に通達した。

 ゲームの大ボスとは言え、流石にVR世界で定められた“質量”と言うルールに逆らう事は出来ない。

 先のミサイルユニットもそうだが、実弾武器はいずれ、物資が尽きるものだ。

 まして、“各国政府”の落ちぶれた成れ果てが組んだ“国家予算”でかけられる金など、そう潤沢でも無い。

 所詮はゲーム内のオブジェクトであるから、ファンタジー世界で無限湧きするモンスターよろしく、再配置リスポーン処理をしてしまえば弾無制限にも出来よう。

 だが、一応“リアルロボット”ものを謳うこのゲームでは、ゲームそのもののブランドイメージ、信用を損ね、客を失うだけだ。

 これ迄に、オルタナティブ・コンバットで弾切れの概念を無視された前例は無い。

《……チャンスは来る。ずは防戦しつつパルスシールドを落とす。総員、極力戦力を温存。撃墜されるな》

 HARUTOハルトが、私の言おうとした事を無粋にも先取りした。

 そう、ミサイルもハープーンも撃ち尽くしたここからは、敵は弾無制限のエナジー兵器を主軸に切り替えて来るだろう。

 先のサガルマータを見ても分かるように、実弾の弾切れを誤魔化さない一方で、エネルギー面についてはかなり無茶な物理演算が行われて居る。

 結局の所、こんなゲームをやる様なプレイヤーのニーズとは「リアリティがあるか否か」では無く「ロマンが守られているかどうか」なのだ。

 実弾はしっかり弾切れをして欲しいし、レーザーブレードには一太刀でSBを両断して欲しい。

 現実なら街一つを賄うエネルギーを浪費するような大型機動兵器に、長く俊敏に飛び回って欲しい。

 とは言え、流石にエネルギーも無限と言う前例は今の所は無かった。

 一応、これについても、永久機関があからさま過ぎれば流石にゲームの信用を落とすからだろう。

 兎に角、シャールク・ジャバダにもいずれエネルギー切れが訪れる。

 例え本体に余裕があろうと……外付けで動くオービットの方は別だろう。

 必ず本体に戻り、エネルギーの補給を必要とする。

 其処そこが、正念場だ。

 それは単純に、止めを刺すチャンス、とも言い切れない筈だ。

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