log11...タイニー・ソフトウェア社との決戦に纏わる考察、反省、今後の展望(記録者:KANON)
手早く結論から話そう。
タールベルク本社要塞は陥落した。
タールベルク所属だった我々は敗戦し、その瞬間を以て我々はタイニー・ソフトウェア社の傘下所属となった。
寧ろ、単騎としてはかなりの奮闘を見せたが……サガルマータを落とされ、孤立無援の籠城戦。彼女独りで覆せるような、甘い情勢では無かったと言う事だ。
負けた以上、早々に切り替えて今後の方針を考える方が生産的だろう。
戦勝後の待遇が精々Bランク止まりが確定した事で、元タールベルクのプレイヤーは何人もゲームを辞めたと言うが……私は、そこには興味が無い。
ここからは、開発者プレイヤーとしての観点から解説させて貰おう。
これまで安価で最先端の武器を作れていたメリットの……“安価で”の部分が消えた。さりとて極端に高騰した、と言う程でも無いが。
資金面では厳しくなったものの、タイニー・ソフトウェア社の専売特許であった分野も開発に取り入れる事が可能となった。
頭部パーツ、及び、そのコンピュータ。
また、兵器への神経接続システムと、パイロットの強化人間手術。
勝敗がどうあれ、タイニー・ソフトウェア社との併合が近いと予期してから、幾つか構想は練っていた。
やはり、私の得意分野は武器であるし、私のFCSと彼等の腕前があれば、頭部パーツのアップデートは後回しで構わないと判断する。
まずは妥当に“オービット”兵器を何種類か。
発射すると
平たく言えば「ガンダムに出て来るファンネル」とも。
これの操作系統を二案提出した。
また、この分野については特にタイニーの深い技術供与を要し、私やチームの財力では厳しい出費を強いられる筈だったのだが。
如何なる訳か、タイニー直属のプレイヤーから匿名での技術供与があった。
それも無償。
結成間も無い、マイナー極まり無い我がチームを、名指しで。
胡散臭いにも程があるが、無形の技術を貰う弊害など無いので、有り難く頂戴した。
謀られたのなら、その時に考えれば良い。
実際、オービット兵器製作で完成に漕ぎ着けたのは「扱いが簡単な物」と「扱いが難しい物」の二種。
と言うよりは、
……簡単な物を応用する能力は自分の方が優れ、難しい物について行く能力は彼女の方が優れている、と。
あの二人は、私とこのゲームで出会う以前に二タイトルも死線を共にした仲だ。
私としては、異論を挟めた立場でも無い。
チームにとって最善の采配であるなら、それで良い。
さて。
本当の問題はここからだった。
パイロットの強化手術について。
これも対象は
キャリアの長い
タイニー傘下であれば安く行えるが、強化人間化にメリットを感じる者であれば大金を積んででも行う事だ。
それで。
強化レベルは十世代
神経系の光ファイバー化と幾つかのパイロット支援システムのインプラントを中心に、後は最低限。
強化人間化すらも“道具”の一つくらいにしか思っていない。ある意味でイメージ通りだ。
一方の
「……
「はい。過不足なく」
正直、凛としてすらいる。
私も、彼女から寄越された強化人間の仕様書を見た瞬間、我が目が信じられなかった。
第十世代の、現状で考え得る限界レベルの強化だった。
「ここまで身体をイジったら、まあSB乗りとして考えうる最適化だろうね。けど」
「アンタ、戦闘以外の日常生活がまともに送れなくなるよ。良くても車椅子生活だ」
ここまでの強化をしてしまえば、寝たきりになるのは免れない。
自分を、SBのコックピットに嵌まったパーツに貶める様なものだ。
そして、世の上位ランカーSB乗りには、そこまでの強化はおろか、未強化のパイロットすらごまんと居る。
特に彼女が元々持ち合わせた戦闘技能を思えば、ここまで突き詰める意味が、まるで無い。ともすれば変な癖すら付きかねない。
「車椅子、ですか」
「許容範囲内です」
「最悪、
そう。
現実でこんな手術があれば、取り返しがつかない。
だがこれは、飽くまでもVRゲーム。
撃墜されて死んでも復活するし、
これは、現代のVRMMOほぼ全てのタイトルに言える不文律だったが。
「甘いね。一度強化人間の使用感にハマったヤツが“真人間”に戻れなくなったケースを、アタシは多数見ている。あれは麻薬も同じだ」
「戻る気、ありませんから」
「アンタ――!」
「最善をつくしたいんです。この
彼女は、真っ直ぐな目でそう言った。
「陳腐な、腐るほど聞いた言葉だ。アンタさ、何をそこまで」
「このチームの“生産”管理は私の管轄だ」
気付けば私は、殊更声を荒げて割り入っていた。
「オービット兵器開発で浮いた資金はある。金銭的には可能だ」
二人の女が、私をじっと見る。
各々何を思ってか。
「本人の決意が固いのであれば、私に止める気は無い」
これで、本当に良いのか?
私は、何かを見落としているのでは無いか。
正直な所、不安が胸を渦巻いて、正常な思考力を欠いている気すらする。
「構わないか? リーダー」
私は、それまで黙していた
向けて、しまった。
駄目だ。土壇場で、彼に責任を分担させようと言う意識が働いた、これが私の限界か。
対する彼は、
「構わない。やってくれ」
こんな時に限って、あの長考癖も見せずに答えた。
「私も責任は取る。私生活のフォロー等は、引き受ける」
それだけを誓うので精一杯だった。
「ありがとう。
彼女はただ、真摯に頭を下げた。
私も同じヘアスタイルなのだが……流れ落ちるその髪が、闇夜の清流のように透き通って見えた。
「アタシにまで礼を言うかね」
本当は、ここで納得出来る程、軽く考えてはいないだろうに。
筆舌に尽くし難い、苦難の施術となるだろう。
だが、彼女にとっては、目先数時間程度の苦痛など問題でも無いのだろう。
私も既に、肌で理解してしまっていた。
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