log10...とある本社死守作戦における、さる戦闘について(記録者:MALIA)
《サガルマータが撃墜された》
個人が“戦術”でがんばっても、勢力単位の流れ――“戦略”を変えることはできない。
どこの
《アルバス・サタン、アンマークド・グッドプロダクト、両機共に中破。
そうなると、
《アテにしてない。ヤツらがたどり着いた頃には、勝負はついてるだろう》
そうですね。
戦いはつねに、不利な想定で考えないと。
本社要塞内の、わりと拓けた場所にきました。
ちょうど、本社から出撃したわたしたちタールベルクと、外から入りこんできたタイニー・ソフトウェアの軍勢がぶつかる中央地帯でもあります。
つまり、両陣営30機くらいずつが入り乱れる、主戦場です。
十人十色、個性さまざまな
わたしは、目に入る全敵機体のロックオンをなんとなく想像しつつ、味方の前線へも意識を向けます。
レーザーブレードなどの近接武器で切り結ぶ敵味方。
味方の一機に斬りかかる敵機体へ、バズーカの照準をあわせ――って考えるわたしを狙おうとした、敵後方の重四脚機体へバズーカを向けなおし、砲撃。
重四脚の右肩あたりに着弾。直撃こそまぬがれたものの、いっしょにいた何機かを巻きこんで体勢をくずしました。
スキを突くつもりが先に撃たれて、動揺しているのが機体の動きから感じられます。
もちろん、彼自身の技量もありますが、やはり自分の身体ではないSBに可能な限りそれを再現させるには、いい頭部コンピュータかいいFCSは必須です。
わたしは、さっきの砲撃で足並みの乱れた後衛めがけ、アサルトライフルとバズーカ、そして胸部マイクロミサイルを一斉発射。
大小いくつもの爆風が飽和して、わたしの機体も大きく揺れます。
敵後衛の援護が途切れたところへ、ほっそりとしたフォルムのSBが敵前衛を、オレンジ色のレーザーブレードで斬り、怯んだところを蹴り飛ばしました。
あざやかな紺色とオレンジをベースとした、スポーティなカラーリングですね。
人型というには腕が長く、手が足下までとどきそうです。
頭部も、ヒトというよりは、アーモンド形の鳥にも似たフォルムです。
禍蛇は背中の大きなブースタから、紫色をしたプラズマまじりの噴射をほとばしらせ、退避した敵機になおも迫ります。
前屈みの姿勢で走りながら、脚ほども長い腕――さっきとは逆の左手を――横なぎに振りました。
さすがのリーチですが、一歩とどかず。薄金色のブレードが帯のような残像を描いて空を切りました。
敵機がマシンガンを構え――それよりも
わたしの目算ではとどかな――にわかに出力を増したオレンジのブレードが、がら空きとなっていた敵機のコックピットをまっすぐに貫き、爆破しました。
禍蛇の右手が内側から煌めき、光が漏れています。
そういえば
“武装”という主語の大きさから見るに、恐らくそれは、ブレードの出力に限った話ではないのでしょう。
けれど、さすがに敵のどまんなかに踏み込みすぎです。このままでは、圧殺不可避です。
ふつうなら、ですが。
禍蛇のブースタが、紫がかった光を瞬時に膨張。
禍蛇はすごい勢いで垂直に飛んで、ブースタから翼のように噴き出した光の奔流が地上を蹂躙します。
ほとんどの敵機は散開、退避しましたが、追撃をかけようとしてしまった目算三機がバラバラに爆発四散しました。
それでも、禍蛇が大勢の敵機の捕捉範囲に身を曝していることにちがいはありません。
エネルギー消費も相当のはずです。
わたしも、敵陣に飛び込むことにしました。
両手の武器をパージ、タンク脚部を変形、レーザーサイズのグリップを用意。
近接形態にスイッチ。
レーザーサイズ・ムーンライトにエネルギーを供給しつつ、全速前進します。
目指すは、禍蛇にビームライフルを向けていた重二脚の機体。
レーザーの長柄武器をことさら見せつけて圧をかけ、まずは禍蛇を撃つのをあきらめてもらいます。
ビームライフルの銃口がこちらへ向けられました。
アーテル背部のウイング・リフレクトクロークを起動。
わたしに向かって撃たれたビームが、霧散。
そのスキに踏み込んで、下段の構えから敵機体を縦一文字に両断。爆散しました。
「っ……」
ここまでの操縦模様は、はぶいて、説明しましたが、やはり、体力的にキツい、ですね。
はやくも、息が、あがってきました。
やっぱり、ファンタジー世界とちがって、ただのひ弱な女ですから。
帰ったら、もっと
しかし今、その泣き言はあとです。
敵陣のどまんなかで孤立したのは、わたしも同じ。
重SB解体用らしき、とほうもなく大型のチェーンソーを持ったタンク機体が飛び込んできます。同時に、ショットガンを持った中量二脚も。
わたしは後退しながら、ムーンライトを横なぎに振りました。
あちらも、アーテルがこれだけ俊敏なスウェーを見せるとは予想外だったのか、ムーンライトの蒼い光に吸い寄せられるようにお腹を切り裂かれました。
タンクが爆発。
最初の
ファンタジーゲームで大鎌使いの魔法戦士をやっていたのですが、あの頃と遜色のないレスポンスにまで仕上がっています。
また、並のFCSではバズーカと大鎌のロックオンシステムを瞬時に切り替えるような親切さはありません。
FCS……火器管制システムとは言っても、人型機動兵器であるSB戦では銃火器の操作に限りません。
極論、丸腰でグーパンする動作を管理するのも火器管制システムの仕事なのです。
あっ、SBのマニピュレータはとても繊細な機械なので、よほどのことがないかぎり、パンチに使うのはやめてあげてくださいね。
って軽口を言いたいとこですが、
「ぅ……ぅ……」
パイロットのほうが、順調に、へたってきております。
もう一機のショットガンがまともに直撃して、自分の推進力もあって、機体が大きく揺らぎます。
わたしは、ほうほうの体で、機体の揺らぎを無理やり目算。
むしろ、ショットガンを撃ってきた機体へ、上段の構えからレーザー鎌を振り下ろしました。
頭部を溶断したものの、機体そのものは無事(?)でしたが。
次の機体、二機、左右から来ました。
息が浅いです。
「はぁ、……はぁ――」
吸っても、吸っても、肺に空気が入った気がしません。
頭が朦朧としてきました。
右からブレードを振ってきた機体へ水平斬り。パルスシールドを壊しただけに終わりました。
もう一方の手でアサルトライフルの大口径弾が横殴りの雨となってアーテルを打ちます、
機体の姿勢制御が完全にダウン。
もう一機、ガトリング砲を回転させはじめた音。
一寸おくれて、装甲のひしゃげる音と無数の火花、金属の嵐がコックピット内を満たして、わたしの
《誰も援護なんぞ頼んでいなかったんだがな》
最後に聴こえたのは、
肝にめいじておきます。
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