log09...HARUTO強襲作戦(記録者:強化人間INA)

 あたしが、この機体・九頭龍くずりゅうMARK Ⅱのパイロット。鞭使いINAイナだ。

 今、相対している敵パイロットのHARUTOハルトとは、これまで三タイトルのVRゲームを共にした旧知の仲だった。

 但し、仲間であった事は無い。

 敵――とも言えないけど。プライベートではMALIAマリア共々親交があるし。

 より正確には好敵手?

 勝率は、0勝3敗。

 今の所、僅差と言える。

 けれど、そのたった三勝差があいつを増長させるかも知れない。このオルタナティブ・コンバットで連勝を阻止しなければならないだろう。

 この際、プライドは抜きだ。

 タールベルク社を選んだあいつに対し、あたしの方は、そのタールベルクに対して優勢、且つ、隣接勢力のタイニー・ソフトウェアに所属した。

 当然、強化人間手術を受けた。

 神経系を光ファイバー化して、手足の筋肉や骨格もちょっと弄った。正直、かなりきつい手術だった。

 頭部パーツは、特にターゲット補正に優れたスパコン搭載機にした。

 結果的に、タイニーの“社風”は、あたしの戦闘スタイルとも親和性が高かった。

 あたしは、初めて彼と――HARUTOハルトと出逢ったゲームの時から“鞭”を得物に戦い続けて来た。

 最初のゲームでこそ「鞭を使った時のみ自分が強くなる」ユニーク・スキルをたまたま、棚ぼた的に得たから、成り行きで鞭を使っていたけれど。

 紆余曲折あって、ユニーク・スキルを手放して以降も“鞭”はあたしにとって“信念”と同義となった。

 だから、この九頭龍にも、鞭状の武装しか搭載していない。

 ロボットもののゲームで、愚かな装備でしか無いのかも知れない。

 それでもあたしは、この道を絶対に外さない。

 事実、装備が揃って強化人間となって以降、相手が余程のベテランでも無い限り負けなくなっていた。

 それは勿論、二人の仲間――ロイヤルガードに乗ったRYOリョウと、モスコミュールに乗ったKENケンの助けがあっての事でもあるけれど。

 

 エネルギー切れの警告がコックピットを満たす。

 一撃必殺の電磁パルスEMPビュートに、高出力のプラズマ投射機まで振るってしまった。ブラフマーの間に合わせジェネレータでは供給が追い付かない。

 強化した自分の手足でフットペダルとハンドルを操作し、機体の四本脚を忙しく動かす。

 慣性に囚われないフットワークは、地上戦においても奴らの二脚に対して有利に立ち回れる筈だけれど。

《うわあ! 殺される、殺される、殺される!》

 モスコミュールのKENケンが、情けない事を叫びながら、襲い来るHARUTOハルトから逃げ惑って居る。

 ここまで、一度として攻撃出来ていない。

 彼も彼で、強化手術は受けている。

 HARUTOハルトの二刀流フルオートと、その仲間の黒い奴からの射撃を躱し切ってはいるので仕事をしていない訳では無いのだけれど。

 前回、クトゥルフもののゲームでは、豊富な知識で一番頼りになった仲間だったのだけど、このオルタナティブ・コンバットでは苦労しそうだ。

 逆説的に、自分が強化人間でも無いのに、強化人間KENケンの、三次元的に飛び回る高機動機体に食らい付けているHARUTOハルトの方が人としておかしいとも言える。

 それも、中距離以遠の間合いでは集弾性の劣悪であろう機関砲で。どうやら、機体全体にサブ・ブースタまで仕込んでいるらしい暴れ馬に乗りながら。

 彼こそ、リアルで強化人間なのでは無いかと疑いたくもなる。

 兎に角、このままにはして置けない。

 あたしの九頭龍も、ようやくジェネレータが復旧した。

 モスコミュールを助けに行きたい――が、黒い奴のビームライフルがあたしに放たれた。

 予備動作を見てから水平にブースタを噴かせて回避。

《強化人間って言っても、ビビるコトは無いよHARUTOハルト。動きを見るに、アンタも分かってるだろうけど》

 聞こえよがしに、無差別回線で黒い奴のパイロットが言った。

 女か。擦れた感じのキャラを演じているのが、光ファイバー化した神経に障る。

《目で追う必要は無い。“予測”すれば生身でも勝機はある》

《……了解した》

 あたしにマシンガンを撃ちながらの談義。

 挑発か。

 あたしが新参者だと言う所まで察して、侮っている。

 HARUTOハルトが殊更そんな事を吹き込むとも思えない。

 あの女、端から決め付けて来ているのだ。

 挑発に乗るものか。

 あたしは真上に跳んだ。黒い奴はともかく、アルバスは垂直方向での勝負には若干不利な筈だ。

 赤熱したヒートウィップを黒い奴へ鞭打ち、間髪入れずに急降下、再び着陸した上でアルバスに迫ってプラズマヨーヨーを投げ付ける。

 アルバスが、全身のブースタを蒼く煌めかせながら後退。

 モスコミュールが跳躍し、その頭上へ陣取り、ようやくショットガンを発射した。

 拡散する前の散弾をまともに浴びて、アルバスの機体があちこち歪み、所によって装甲が剥がれた。

 だがアルバスは、微塵も落とされる恐怖を見せず、あたしに、チェーンガンを向けて来た。

 二本の“鞭”を振るった直後で脚が止まった、コンマ秒以下の硬直に、冷酷無比な正確さで、それを撃って来て――戦車タンク脚部をドリフト走行で滑らせて乱入してきたRYOリョウのロイヤルガードが、これを受け止めてくれた。

 それこそ彼も、アルバスの動きを“予測”してあたしを護ってくれたのだ。

 パルスシールドと爆発反応装甲の蒼紅入り乱れた火花を纏いながら、ロイヤルガードはアルバスを砲撃した。

 流石に、成形炸薬弾とは言え、砲身本体はオマケ程度の安物だし、相手も悪過ぎる。難なく躱された。

 けど、あたしへの銃撃を断念させた事の方が大きい。

 彼らに助けられ、あたしが仕留めれば良い。

 8時方向から熱源反応。知覚と同時にあたしは再び跳んだ。

 最前まであたしの居た地点にバズーカ砲の着弾。

 黒い奴だ。

 あたしが奴を視認した頃にはもう、バズーカを投げ捨てて手早くビームライフルに持ち替えて居た。

 何と言う速さ。自分が強化人間である事も忘れて、あたしはそう思ってしまった。

 モスコミュールが、さも当然のように軌道を読まれ、ビームライフルの偏差射撃でコックピットを貫かれた。

 固体じみた爆燃を膨らませ、モスコミュールは四散した。

 彼の破片は殆どが消し飛び、なけなしの欠片が炎と煙の尾を引いて降り注ぐだけだった。

 そんな中で、あたしは第四の“鞭”を展開。

 ほぼあたしの前後に分断されていたアルバスと、黒い奴を遠くからなぞるように、それを振り抜いた。

 音無き爆音と、無数の爆炎が戦地を埋め尽くした。

 ワイヤーに多数の爆弾を取り付けた装置、爆導索だ。

 本来は地雷撤去の為の物だけれど、あたしはこれを“鞭”として見る事で、この様な範囲爆撃、或いは敵機単体に巻き付けての一撃爆殺の兵装とした。

 手応えはあったけれど、これで決まった訳でも無い。

《ホント、けったいな機体だわ》

 黒い奴のパイロットが、余裕綽々に通信して来る。

《パイロットにセオリーも無いと来た。

 覚えておきなHARUTOハルト。こう言うヤツが、敵としては一番タチが悪いんだよ》

 必要性も無いが、やはりあの女にあたしの事は話していないのか。

《……良く理解して居る》

 それは何処まで本気の言葉なのか。

 気になるけど、今はそれ所でも無い。

 爆炎と煙と砂塵が晴れる前に、スキャン機能を走らせる。

 黒い奴とアルバスの位置を検知。

 アルバスはまた、あのショットガンウイングを展開していた。だが、威力は先に把握している。この距離なら、致命傷にはならない。

 畳み掛ける、

 そう毎回、恐れてやりはしない。

 あたしは、黒い奴へヒートウィップを振るった。

 回避された。想定内。

 本命は、こちらのプラズマヨーヨーだ。

 まずは、この黒い奴を落とし――アルバスから迫る熱源反応を知覚した時。

 あたしは、自分が謀られた事を瞬時に理解した。

 あいつの背部ショットガンから放たれたのは、この熱源パターンは、散弾では無くて、

 

 一粒スラッグ弾。

 

 途方も無い熱と衝撃が、あたしを九頭龍ごと、瞬時に爆散させた。

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