log12...うちの足手まとい共を半殺しにしたヤツの雑魚ぶりを晒してやろう(記録者:TERU)
コロッセオでは、自軍のプレイヤー同士で模擬戦を行うこともできる。
当たり前だが、“味方”同士の勝負であるから、企業間戦争や選手のランキングには一切影響が無い。
せいぜい、相場相応のファイトマネーが出るだけだ。
おれ的には、こんなところで稼いでも効率はよくない。
なに、うちの足手まとい共を中破させたっていう
コロッセオの“待合室”で対戦募集中のプレイヤーを検索したら、そいつはすぐに見つかった。
好戦的なヤツで、コロッセオによく出入りしていることだけは、
Bランクか。旨味も教訓も得られそうにない。
なお、おれは当該機体の情報を何一つ知らないことを先に断っておく。
【交戦開始を承認 戦闘システム最適化 出撃します】
ただただ無機質なマス目で四方をおおわれた、テスト用の仮想空間が今回のステージだった。
早速、遠目に敵機体が見えた。
おれは手早くヤツの画像を抽出し、別ウインドウに拡大表示させた。
軽量四脚。目視できる武装は、ヒートウィップであろう近接武器だけか。
ショボい武器をコソコソ内蔵して虚をついているつもりの間抜けってとこか。
さっさと片付ける。
ブースタ点火。
おれが手早く全速前進すると、九頭龍のヤツも愚直に突き進んでくる。
バカと正面衝突の趣味はない。
にわかにブースタを止める。
それでも慣性で押される機体を踏ん張らせ、足から火花を散らせながら、逆関節の脚をたわめて大きく跳躍した。
アラームと赤いマーカーがカメラに表示。
九頭龍から何かデカい攻撃がくる。頭部パーツの予測機能だ。
おれはヤツの挙動を注視、ボディから何かを展開する挙動、ブースタを噴かせて回避。
朱色まじりの不自然な色合いに放電する鞭状の装置が空を切った。
その正体に興味はない。当たらないまま、本体を始末すれば同じことだ。
気が進まないがもう一押しブースタを噴かさせて、おれはいよいよ九頭龍に肉迫。
同時に、腕部に装備したブレード“サンセット”の、オレンジ色のブレードを展開。
再び跳躍して、宙を翻り、九頭龍の背後頭上を取る。
対する九頭龍はどうにかこちらに振り返り、機体を上昇。空中で滞空。
回り込んだおれについて来れたまでは良かったが……いや、強化人間にまで改造したんなら当然だろ。
おれを目で追うまでがヤツの限界だ。
この時すでに、おれは“サンセット”で袈裟懸けに斬りつけていた。
九頭龍のヤツは苦し紛れに見えているほうの鞭を加熱し、投げつけてきたが、おれはこれを掻い潜る。
伸びきった鞭を即座に切り返しておれを打ち落とすつもりだろう?
そこまでお見通しなんだよ。
そうされる前に、おれはもう一方の金色のブレード“サンライズ”を出力。
逆水平に振りかざすと、ヤツはやはり、慌ててヒートウィップを格納しながら退避した。
前にも言ったが、SB戦の
エナジー剣でつばぜり合いは成立しない以上、手数を出したもの勝ちだ。
さて、ここからは極力ブースタに頼らない。
逆関節の脚力だけでステップし、踏み込み、ビームの双剣を振るう。
左右のタイミングをずらし、フェイントを交え、
頭部COMが、再びコックピット内に危険を予告。
九頭龍が、ここまで勿体ぶっていた左手の武器を振るった。
蒼みがかった白光の、有線式の分銅のような、プラズマ投射機か。
はい見てから回避余裕でした。
自前の脚力で立ち回る事を旨とするこの
ヤツの必死な反撃をいなす片手間、おれはモニタの端に二本伸びたゲージを横目で確認した。
まあ、それなりに順調のようだ。
何の事かって? こちらの話だ。
さて、九頭龍がヒートウィップで牽制しつつ、もう一方の手に性懲りもなく新たな武器を取り出していた。
ゴテゴテ何かの弾頭か装置みたいなものが連結されている、これまた有線式の武器か。
何となく読めてきた。
この九頭龍のパイロット“
……おれが最も嫌いなタイプの舐めプ野郎だ。虫酸が走る。
さっさと視界から消してしまおう。
そもそも鞭だの有線式武器だのは、懐に張り付いてやればおいそれと振るえない。
あの“数珠繋ぎ”の武器が何かは未だにわからんが、その物理法則まではひっくり返せない。
事実、九頭龍はあからさまに着陸と上昇、前後左右の動きを強めて来た。
小回りのきくヒートウィップをおれに掠めさせ、威嚇しているつもりか。
限界まで軽量化を突き詰めたこの機体だから、鞭の先がカス当たりしただけでも結構な衝撃が来るし、薄い装甲が一部剥がれ飛んだりした。
プラズマ投射機だとか、ボディ内蔵の電気鞭をちらつかせ、プレッシャーをかけているつもりらしい。
事実、この形勢が続けば、おれはそのどちらかに捉えられるだろう。
望み通り、背中を向けて距離を離してやろう。
ブースタを最大出力で噴射。
プラズマ兵器も兼ねたこいつが戦闘フィールドを蹂躙・充満、屁のように九頭龍にも襲いかかる。
貴様には放屁が似合いだ。
目端で、さっき確認したゲージを再見。
一本まるごと、凄まじい勢いでエネルギーが枯渇してゆく。
まあ、当然だろう。
推力が尽きた。
ブレードの供給もとっくに止めて、刀身が消えていた。
最低限、軟着陸に必要なエネルギーになったあたりで、おれは地に足をつけた。
さて。
おれの“エネルギーダウン”を見るや、九頭龍は浅ましいまでの喜びようで、例の“数珠繋ぎ”を振りかぶる。
まだだ。
この為に、この機体はジェネレータ動力に依存しない軽量逆関節脚部を選んだんだ。
真っ直ぐに踏み込み、左のアームを突き出し、透明な“水流”を噴射。
一瞬遅れ、水流は膨大なオレンジ色の大火に変じた。
これもジェネレータに依存しない、火炎放射器だ。
アーム内蔵型の小振りなものだが、直撃すれば軽量機くらいなら熔解する。
初見に限るが、大抵のヤツは、このおれの“エネルギー切れ”からの隠し火炎放射器で沈むのだが。
ま、あくまでも最底辺を振るいにかけるルーチンワークだ。アテにはしていない。
動物的カンは備わっているのか、これを予測していたらしい九頭龍が、多少焔に巻かれながら再び上昇、中空に厚かましく陣取った。
なおもしつこく、例の“数珠繋ぎ”をけしかけようとしてくる。
対するおれの火炎放射器は、早々に燃料が尽きて、残りカスみたいな灯火を銃口に燻らせていた。
これが、軽量機の内蔵兵器の限界だわな。弾数が少なすぎる。
そして、九頭龍が満を持してあの“数珠繋ぎ”を振りかぶり――、
おれのほうの“チャージ”が終了した。
また、横目でモニタのゲージを見た。
枯渇して、涙ぐましくも復旧しようと奮闘している左のゲージ。
今や満タンになった、右のゲージ。
右のブレードを捨て、腕が銃身の形状に変形。
“備蓄エネルギー”最大出力。
レールガン、発射。
亜光速で撃ち出された実体弾は何ものにも遮られる事はなく、九頭龍のボディを一発で貫通し、その衝撃を北斗神拳よろしく内側から放射。
九頭龍は爆発四散。
本体の爆風があの“数珠繋ぎ”に誘爆し、爆発が連鎖して弾け乱れる。
これは、おれもさすがにヤバいので、復旧したなけなしのエネルギーで後ろに飛び退いた。
なるほど、あの数珠繋ぎは、おおかた爆導索とかあのあたりか。
な? 正体なんぞわからなくても、瞬殺すれば同じだ。
おれのジェネレータ“
ゲージが二本あったが、それで総量が増えるわけでもない。
ただ、余剰エネルギーの蓄積と復旧性能に特化したこのジェネレータは、いざと言う時、瞬間的に大容量の出力を行う為に“貯金”しておく事に長けていた。
重武装の難しい軽量機体でも、やりようによって瞬間火力を引き出す事が可能となる。
ちょうど、今のレールガンのようにな。
やっぱり、九頭龍はクズ龍だったな。
これで証明された。
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