第5話 「真堂香澄」登場
18時を回り、そろそろ辺りも暗くなって来た。
西園寺先輩と別れて、今、俺は一路、山梨行きの電車に乗っている。
オヤジの携帯電話が留守電だったので、
オフィスも兼ねている「竜条研究所」に連絡してみた。
オヤジは不在だが、帰ってくるまでオフィスで待たないか、ということだった。
どのみち寮には「外泊届」を出しているから問題ないが、
まさか山梨の山奥にあるとは…。
地図とGPSを頼りに、研究所に着いたころには21時を回っていた。
裏口からインターフォンを鳴らす。
「いらっしゃい。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
案内されたのは、地下1階の応接室。20畳くらいあって結構広い。
ラベンダーのいい匂いがするなか、ハーブティーが運ばれてきた。
「博士が戻るまで、ゆっくりくつろいでくださいね」
はー。おねーさんがキレイだなぁ。紅茶もうまい。疲れが和らぐぜ。
さて、そういえば少し放置気味だったが、ヤツはどうしてるだろう。
おそるおそるカバンの中をのぞいてみると、シーランは丸くなって熟睡中だった。
こいつがリラックスしてるってことは、ひとまずこの場は安心だって言えるだろう。
西園寺先輩の言うことが正しければ、
オヤジはこの類の本のことを、もう知っているということになる。
もしかして、オヤジも同じような経験を?
もうすこし、考えを整理してみるか…。
❖ ❖ ❖
そういえばこの部屋、時計が無いな…。
スマホは…ってもう22:30か、もう一度電話して、…あれ?圏外? おかしいな。
ん? 今気づいたが、この部屋には窓が無い。そういえば地下だったか。
…なにやら嫌な予感が走る。
ドアを開けようとするが、鍵が掛かっていて開かない!
≪ドンドン≫
「すいませーん。今日のところは一旦帰りたいんですけどー」
…なんの返事もない。
その後も、何度呼びかけても応答がない。
仕方がない。
≪ドガッ≫
体当たりでドアにぶつかるが、全くビクともしない。
「くそ! 閉じ込められた!」
…言ってて自分が情けなくなる。竜条の研究所って時点で疑うべきだったか。
そうしていると、壁にかけていた絵画が巨大なスクリーンに変わった。
『鳥海拓弥くん』
「あっ!」
スクリーンには、校長室で警備員と紹介を受けた、あの長身の男が映っていた。
「どういうことだよ! ここから出せ!」
『全てをお話してくれれば、お帰り頂きますよ』
「だから、昨日のことは知らねーって」
構わず、ヤツは話を続ける。
「鳥海博士が実は行方不明でね。我々も追っているところなのだよ。
そんな時に君の方から出向いてくれたのは、ありがたい。何か聞いていないかね」
…今度はオヤジの話か。何もかもが唐突すぎる。もちろん、何も聞いちゃいない。
そして、気が付くとリュックが熱くなってる。シーランも気づいたな。
だが、今出て来るのは何かとまずい。
俺は思念で「出て来るな、まずい」と送ってみた。
すると『気を付けて』と返って来た。
やっぱ実際に喋っている訳じゃなかったんだな。
だが、今は便利なスキルだ。
「…あんた一体何者なんだよ」
『お答えする義務はありません。ただの警備員ですよ。しばらくそこで大人しくしていてください』
長身のエセ警備員は、さらに大きくため息をつき、
『物騒ですが、博士への人質になってもらいます』
そういって、モニターは元の絵画のビジョンに戻った。
まずいな。完全にやられた。
部屋にはおそらくカメラも設置されているだろう。
むやみにシーランを出すことも出来ない。
とりあえず、さっきのテレパシーで…。
『閉じ込められた。何とか出る方法はないか』
『本のチカラがあれば、たぶんできる』
『例のアレか。だけど、今はちょっとまて。様子を見たい』
どうしても必要な時は呼ぶから、それまでは静かにしておいてくれるか』
『わかった。シーランも起きてる』
『オッケー』
…通信終了…ってか。
まずはダメ元でこの部屋を調べまくって、出口を探してやる。
しかし、何とも物騒なマネをしてくれたな。
すぐに校長の耳にも入るはず…ってことは学校側も味方じゃなくなるのか…。
オヤジは一体、どうしちまったんだ?
最後に電話したのは1週間ほど前。その時は普通だったのに。
「!」
…突然、部屋の電気が全部いっぺんに消えた。
真っ暗闇だ。電気スタンドもTVも冷蔵庫も、部屋の電気がすべてダウンしている。
ん? 遠くでサイレンみたいな音が聞こえるな。事故でもあったのか?
すると、大きな足音が段々近づいて来た。
「離れてて!」
と、ドアそばから大きな女性の声。とっさにドアから距離を取る。数秒後…
≪ドーン≫
大きな爆発音とともにドアが大破した。
そこには覆面をした女性が一人。
「なにやってんのよ。早くここから出るわよ」
強く手を引かれる。すごい力だ、この女。
ともかく、オレも走り出す。リュックごと引きずられる様に上の階へ向かう。
階段の踊り場で警備員数名に出くわす。
その女は、手際よく、スタンガンらしき武器で、失神される。
…プロだな、こりゃ。
「こっちよ。はやく!」
向かう先は…2階…いや3階…もっと上だ。 出口じゃないの?
とにかく、追手の足音も聞こえてくる。
今はただ、ついていこう。ひたすら階段を駆け上がる。
「ちょっと、そこにいて」
そういうと、お尻のポケットに忍ばせていた粘土の様な物体を取り出し、ヒモに火をつけた。
これってもしかして…
「さあ、急ぐわよ」
再び駆け上がる。数秒後…
≪ドドーン≫
階下から大きな爆発音。思わず喉をゴクリ。TNT爆弾ってやつか。
ついて行って大丈夫なんだろうか。
不安を抱えながら、屋上へ到着した。
そこにも覆面の男が一人。近くでヘリコプターがホバリングしていた。
なんと自動操縦だ。パイロットはいない。
「おそかったじゃねーか」
「いつも通りでしょ」
そういって、女は俺の背中をヘリの中に突き飛ばす。
「助けに来たぜ。鳥海くんよ」
「あんた、誰だ?」
「説明は後だぜ。まずはトンズラだ。アイ、操縦まかせた」
「オッケー」
アイと呼ばれた女性は、操縦席に乗りこみ操縦桿を上げた。
≪グオーン≫
ヘリは一気に高度を上昇させ、雲の中に突入した。
すごい。普通のヘリじゃない。
覆面を取る男女。
「航大さんから頼まれてな。お前、鳥海拓弥だろ?」
「…そうだけど」
「俺はカスミ。
「あたしは
…なんだ。まだ頭がクラクラする。
事態がまったく飲み込めていないのだが、あの部屋からは無事出られたから良かったのか…な?
<続く>
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<予告>
俺は、カスミとアイと名乗る2人に助けられた。
オヤジの依頼で俺をある場所に連れて行くのだという。
この二人、どうみても俺と同世代なのに、明らかにカタギじゃない。
一体、何者なんだ??
次回 【2冊目のラストバード】
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