第6話『2冊目』のラストバード

こうして、俺は香澄かすみたちに救出されたのだった。

ヘリに乗り込むとすぐに身体検査され、スマホはバキバキに破壊された…。

例の本も見られたはずなんだが…、特に何も言ってこないな。

まだ、ドキドキが止まらない中、ヘリで1時間くらい飛んだだろうか。

そろそろ着陸するという時に、目隠しと耳栓をされた。


「わりいな、商売がらアジトを知られるとまずいんでね」

「ごめんね」


抵抗はあったが、助けてもらったこともあり、大人しく従うことにした。

あと、この2人、年齢も近い同年代だ。17~18歳くらいだろう。


10分くらいだろうか…。連れられた先で目隠しを解かれた。


「うっ!!」


強い照明に照らされた密室。どこだここ。なんだか軍の秘密基地みたいな…

けったいなマシンやモニターが部屋一面に並んでいる。


「よーこそ、カスミ様の秘密基地へ!」

「ちょっと、あたしもでしょ!」

「るせーな、俺が金出してんだから、俺んだろうが」

「掃除だったりメンテはあたしがやってるでしょ!」


ぽかんとして、そのやり取りを見ていると…あっ。

いつの間にか、シーランが表に出て来ちまってる!


「ぼくシーラン、あなたは、カスミ?」


「おっ、そうだぜチビ介」

「思ってたより小さいわね」


…なんだ、こいつら? 全然驚いていないぞ。

それどころか、シーランが何者か知っている様な口ぶりだ。


「こっちも紹介しないとな…おい、出て来いよ」


そういうと香澄は指を鳴らす。


辺りが一気にひんやりしてきた。何だ、クーラーでも入ったのか。

すると、目の前に真っ白いカラス(?)が現れた。


でかい! なんだこいつは!!


「お前んとことおチビさんと、おんなじさ」


「我は、ラストバードの一羽(いっぱ)、ヒュリザ様の使徒、クロカである」


…俺は思わず身構えて、戦闘態勢かと思ったのだが…?


シーランは何事もなく、ゆったり毛づくろいしている。…ってことは大丈夫なのか?


「驚かせてわりい。でも、見せるのが一番手っ取り早いと思ってな」


すると、彼はリュックを開けて、中から一冊の本を持ち出してくる。


「!…これは!」


「お前も、そこのカバンの中に入ってんだろ? これの色違いの本」


そう言って、俺の前に本を差し出す。

…確かに、色彩こそ違えど、『炎の書』と瓜二つだ。


「…説明してくれ」


まだ混乱が大きく、それしか言えなかった。


「まずは、自己紹介からだな。さっきも名乗ったが俺は真堂香澄しんどうかすみ、こっちは助手の立華亜衣たちばなあい。世界を股にかけたトレジャーハントをやってる」


「トレジャー…ハント?」


「まあ平たく言えば“宝探し屋”さ。ある南国で部族につかまって命が危ないところを、 航大さんに助けてもらった恩があってね。今回は航大さんからの緊急のオーダーなんだ。礼金は既にたんまりもらってる」

「なにカスミ、またお金の話?」

「うるせーな。とにかく、恩もあるし、礼金分はキッチリやらせてもらうぜ」


「…俺をどうするつもりだ」


「端的に言うぜ。俺と一緒に東ヨーロッパのある国に行ってもらう」

「ある国?」

「悪りぃが全部は話せねえ。着いたら教えてやるぜ。一つ言えるのは、そこは聖地って呼ばれてる場所だ」


…聖地。西園寺さいおんじ先輩が言っていたところか。シーランからも本を渡して欲しい人がいるっていうし、何か関係があるのかもしれない。今はヤバい連中にも追われているし、オヤジにも会えないとなると…。


「分かった。ただし条件がある」


「条件?何だよ」


「道中、ラストバードについて可能な限り全て教えてくれ。

おれも、もう当事者だ。この本やシーランとの関係もハッキリさせておきたい」


「いいぜ。俺も航大さんに教わったしな。その点は全て教えてやるよ」


そういって、屈託くったくのない笑顔。意外と子供っぽい奴だな。


「亜衣、一晩寝て、明日出立だ。ヘリのメンテ頼んだぜ」

「人使い粗いわねぇ。報酬はずんでよね!…すぐにやるわ」


香澄は、またキリッとした表情になり、


「じゃ、しっかり寝ておけよ。航大さんに恩があるとはいえ、まだお前さんを正式に仲間と認めたわけじゃねえ。足を引っ張る様なら置いていくからな」


そういって、香澄はクロカを連れて部屋を出て行った。

俺は亜衣さんに部屋を案内され、とにかく、ベッドに横になる。


や、やっと…休める。


怒涛の一日だった。というか、まだ思考が追い付いていない。

この場所にも驚きだったが、何より、香澄も本を持っていたことが驚きだった。

…青白い本だ。さっき出て来たクロカって奴から察するに「水」か「氷」といった属性なのだろう。シーランに言わせれば、俺と同じ「ゲーム参加者」か。


とにかくオヤジとの接点が見つかった。

今は一人になるより、香澄たちと行動を共にした方が得策だ。


こうして俺は、奇妙な本に導かれて、一路、見知らぬ土地を目指すことになった。


<続く>


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<予告>

こうして、俺は香澄たちと、東ヨーロッパを目指すことになった。

ただ、俺は既に「自由得心学校」を敵に回してる。ひいては内閣府、政府をだ。

まっとうな手段では国外に出られない。

香澄のアイディアで、ある島にヘリで向かう。


次回『地図に無い孤島』へつづく。

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