第2.5話 後片付けの夜(モノローグ)

俺は、鳥海拓弥とりうみ たくや

ちょいとヘビーな過去を背負っちゃいるが、

今はこれでも、かなり前向きに生きてるつもりだぜ?


だが災難ってのは、突如降りかかるもんだと痛感する。


今、俺は部屋の片付け真っ最中だ。

まさに嵐の後の静けさ。強盗にでも押し入られたような惨状だ。

…まあ、近いことがあった訳だけどね。


窓ガラスが思ったよりも四散して、部屋がぐちゃぐちゃだ…。

いまさらヘコむぜ。


さっきバケモンに襲われた後、激しい音を聞きつけて、寮の連中が集まって来た。


とっさに言い放った言い訳が…


「いやあ、ホラーゲームやってたらパソコンに醤油こぼしちゃって、その後、急にゾンビが出て来たもんだから、ビックリしちゃってさー! そのまま思い余って、窓に突進しちゃったのよ…! テヘっ」


一同から漏れ出るため息。

呆れられたが…意外と信じられた? 何とか切り抜けられそうだ。


少し遅れて到着した寮長の指示で、皆は部屋に戻り、

俺には、ひとまず今夜中に片づけと、明日、学校に報告する様に言われた。


…まあ、当然だわな。


で。あの小動物はというと…。

今は『炎の書』の中に潜り込んでやがる。

…ってことは、こいつはまさに『本』から出て来たってことだな。


しかし、なんで俺はこんなに冷静なんだろうか。

普通はパニックになるはずだろう?


…2年間生死をさまよって、舞い戻って来た奇跡からか?

…オヤジが宝探しなんかもする考古学者だから?…その血か?


とにかく、冷静なことは今はありがたい。

色々起こりすぎて整理する時間も欲しかった。


それにしても、俺を襲ってきたやつ。

よく見えはしなかったが、明らかに人間じゃなかった…。


そして『本』の中のアイツ。

赤毛のイタチみたいな風貌だったが、さっきのアレは何なんだ。


なんつったけ? “エンリュウケン?”

急に本から短剣が出て来て、あの木の化け物をぶった切って燃やしやがった。


本の中の世界? 異世界ファンタジー? 

いやいや。現実に起きれば、ただただアブナイ事件だよ。


考えを整理しながら、部屋の掃除を進める。

ついでに、旅行用の身支度も整えている。

なんせ、いきなりの来訪者、しかも窓からガッチャンだ。


また、いつ襲われるか分からんし。

あのイタチがどこまで信用できるかも分からんしな。


「……………………」


今、相談がてら連絡を取りたい人物が二人いる。


一人はオヤジ。鳥海航大とりうみこうだいといえば、考古学の第一人者として、

結構テレビにも出てる有名人だ。今は別居中で数年会ってないけど。

電話やメールはちょいちょいしてたから、別に抵抗は無い。


もう一人は「生沢舜太郎いくさわしゅんたろう」。

この「炎の書」を手に取った時に、説明書き(対訳)を添えていた人。

カバンが燃えた時に、この人の対訳も灰になっちまったから、

もう本の内容は追えなくなった。


実は、スマホでもう調べてみたんだが「光岡出版みつおかしゅっぱん」というところの記者らしい。明日、電話してみようと思う。


ふぁぁ…。急に疲労が襲ってきた。

だが、今夜は寝れそうもない…。

意外に冷静だって言ったって。

…あんなことがあって、寝られんよ、そりゃ。


そう思いながら警戒心は解かず、片づけがある程度落ち着いた後、

座りながら少しだけ身体を休めた。


<今度こそ、第三話へ続く>

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