第2話 『本』の精霊 (?)

帰り道、てくてく歩いている。

日も暮れて、辺りの街灯が一斉に灯り始めた。

歩いて15分。早く寮に帰って、レポート仕上げないと。


…「炎の書」か…


安易なタイトルだけど、内容は神話っぽくて面白そうだな。

とにかくレポートのネタになればいい。そんな軽い気持ちで帰路を急いだ。


急ぎ足だったからか10分も歩かないうちに、やたら身体が熱くなってきた。

汗もにじんできて…って? あれ?

カバンがやたら熱を持っていることに気が付いた。

別にタブレットや電気製品は入れてはいないのに。


次の瞬間『ボッ』という音と共に、カバンから火の気が上がる。

慌ててカバンを道路に投げ出した。


「アチチチチイ! どうなってるんだ」


結構な火力。イタズラにしては行き過ぎだ。

思い当たる節はない。とにかく消火しないと大変だ。

学生服の上着を犠牲にして、鎮火を図る。

何とか、ものの数分で火は収まった。


「ふう」


軽くため息をついてから、おそるおそる内情を確認する。

案の定、レポート用紙やら、参考書、筆記用具まで一通り全滅…。


「“炎の書”で火事かよ。笑えねーって」

「誰かのイタズラか? まさかライターでも入っていたとか」


焼け焦げたカバンを逆さに振る。

ほとんど消し炭になっている中、例の本だけが無事だった。

まさか耐火素材?…んなバカな。本だぞ。


「んな?」


何かいる…。何か、奥の方でうごめいている物体を見つけた。


「! この、見たことのない小動物は!? うぉっ、動いた!!」


これは、赤毛のイタチ…? じゃないのか。見たことのない生き物だ。


「あなたは誰? 僕は誰?」


まさか…しゃべった! 思わず固まったまま、背筋が寒くなる。

「オーマイ、ジーザス。ついにおかしくなったのか、俺」


「あなたは誰? 僕は誰?」


……空耳じゃないんだよな……これ。


「あなたは誰? 僕は誰?」


「あー…。えーと、俺は拓弥っていうんだよ」


「あなたはタクヤ。 僕は誰?」


「…知らん」


「あなたはタクヤ。僕はシラン。プログラムを起動します」


「へっ?」


次の瞬間、辺り一帯にビカッと閃光が走ったかと思うと、俺は意識を失った。


……………………。

……………………。

……………………。


どのくらい時間が経ったのだろう?

気が付くと、俺は寮の自分のベッドで横になっていた。


「…痛ッ」


起き上がろうとすると、まだ頭がクラクラする。

一体、何やってたんだっけ?

とりあえず部屋の掛け時計を確認する。夜8時。

だんだん思い出してきた。

レポートの本借りて…図書館から出て…途中で…。

…そうだ火事だ。帰り道にカバンが燃えて…!


「カバン!!」


あった。机の上。

…間違いなく消し炭状態だ。夢なんかじゃなかったんだな。

そうなると、もうひとつの記憶がよみがえる。

周りをおそるおそる見渡すと…


「いた」


布団の中で丸くなって、キツネともネコとも取れない “謎の真っ赤な小動物”。

夢だと信じたいが、確かコイツしゃべってた様な…。


「こいつどうしよう。起こして大丈夫なんだろうか。

ちょっと、そーっと横に置いて」


ネコの子って、こうやって持つんだろうな、って感じで持ってみる。


「タクヤ!」


うわっと。思わず手放してしまったが、自力で着地。


「ぼく、シラン。こんごともヨロシク」


…やっぱしゃべってる…。すげ。


「タクヤ、いそがなきゃいけないよ」


「…え」


「帰還プログラムが起動したから、奴らが追ってくる」


「はい?」


「本を守って。あの人まで届けるの」


「ちょっ…なにがなんだか」


半分ボーッとしながら、この良く分からん生物に応えていると…


≪ガシャーン!≫


窓ガラスが割れて、何者かが侵入してきた。

しかもよく見りゃコイツ…、人間じゃありませんぜ!


「ヒヘヒヘ…ようやくスタートしたか。待ちわびたぜ。存分にやらせてもらうよ」


暗くてよく見えないが、2メートル以上の巨体。

手足が木の枝っぽく見えるが、明らかにヒトじゃないだろ!

しかも、コイツも日本語しゃべってる。


「コォォォォ------------------」


小動物がキンキン声で唸りだした! ビリビリ振動してうるさい!

目と耳を閉じてやりすごす。何が起きてるんだ!?


…音が止んだ。おそるおそる目を開けてみると、そこには…!


「人間の…子供?」


なにやら昔の西洋の鎧をまとったプチ剣士…みたいな。

5~6歳くらいじゃないのか、あれ。


「立ち去れ!このゲームは神聖なものである!

権利あるものからの挑戦を待つ」


あ、小動物を同じ声だ。


「ヒヘヘヘ、関係ねいよ。ヤッタもん勝ちさ。俺が一番のりだぁ」


そう言うと突然俺に襲い掛かってきた!


「タクヤ! 本を開いて! エンリュウケンって叫んで!」


「な、なになになに!?」


「いいから早く!」


「本、本だな? わ、わかった」


と、机の上にある本を手に取った瞬間。

本はまばゆい光で包まれ、勝手にページがめくられていき、

あるページでピタリと止まった!


『第一の章、1節、壱の段。炎の継承者ファイに代わり命ずる』


なんだ、口が勝手に…!?


『炎流剣(エンリュウケン)!』


その途端、本が燃え上がったかと思うと、一本の短剣が飛び出していった。

その子はそれを掴んだかと思うと…。


「古の3戦士復活の兆しと伝えよ! “炎流剣えんりゅうけん 斜ノ斬しゃのざん” !」


おぉ! 剣から立ち上った炎がそのまま刃となって、

木の怪物が燃え上がってる……………消えた。


「死んだ…のか?」


「コォォォォ------------------」


うわ、またキンキン声!

目と耳を塞いで、何とかやりすごす…と。


「タクヤ」


ちょこんとした小動物に戻ってる。


「タクヤ、いそごう。また来る」


「お前いったい…? 何がどうなってるんだよ…」


普通なら、パニック状態になるんだろうな。

だが俺は不思議と冷静に状況を見守っていた。

ま、一度は死の淵を見て来た人間だからかな?

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<第3話 予告>

「帰還プログラム」とかいう、おかしなゲームに巻き込まれて、

人間じゃない奴らに狙われるハメになった俺、拓弥。

どう考えても、コイツのせいだろ。

この奇妙な小動物は、今度は俺の学校へ連れていけ、と言う。


次回『都立 自由徳心学校』

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