第2話 『本』の精霊 (?)

日も暮れて、町の街灯が一斉に灯り始めた。

早く寮に帰って、レポート仕上げないと。


…「炎の書」…


ベタなタイトルだが、内容は神話っぽくて面白そうだ。


とにかくレポートのネタになればいい。そんな軽い気持ちで帰路を急いだ。


10分も歩かないうちに、カバンがやたら熱くなってきた。

別にタブレットや電気製品など入れてはいない。


9月の夕方にしては明らかに熱い。冬ならカイロで丁度良いほどなんだが。


急いでカバンを開けてみると、、、、焦げ臭いっ!

レポート用紙などから一斉に火が上がっていた。


咄嗟とっさにカバンを放り出して、辺りの土砂を引っかけるが、炎はどんどん大きくなる。


「“炎の書”で火事かよ。笑えねーって!」


学生服の上着を脱いで、カバンごとかぶせる! 熱っ!


そのままじっとしていたら、何とか1分ほどで鎮火した。


「よしっ…鎮火。ふう。…なんて日だ!」


…ってギャグが生まれたのが分かる気持ちになったよ。


「…あー、見たくねーなー…」


焼け焦げたカバンを開けると、ほとんど炭になっている中、

例の本だけが無事だった。耐火素材なのか?…んなバカな。


燃えカスになっているカバンの中を探っていると、

何か、奥の方でうごめいている物体を見つけた。


「何だ…?…って! 何だ! この、見たことのない小動物は!?

うぉっ、動いた!!」


赤毛のイタチ…? じゃないよな。見たことのない生き物だ。


「あなたは誰? 僕は誰?」


…しゃべった。


「オーマイ、ジーザス。ついにおかしくなったのか、俺」


「あなたは誰? 僕は誰?」


……空耳じゃないんだよな……これ。


「あなたは誰? 僕は誰?」


「あー…。えーと、俺は拓弥っていうんだよ」


「あなたはタクヤ。 僕は誰?」


「…知らん」


「あなたはタクヤ。僕はシラン。プログラムを起動します」


「へっ?」


次の瞬間、辺り一帯にビカッと閃光が走ったかと思うと、俺は意識を失った。


……………………。

……………………。

……………………。


気が付くと、俺は寮の自分のベッドで横になっていた。


一体どうなってる。

時刻を確認すると夜8時。あれから2時間程度か。

身体は、よし。痛くない。


段々思い出してきたが、図書館でレポートのネタ本を借りて、途中で…?

…そうだ火事だ。

火を消したはいいが、中から確か…、中から??


そーっと、布団の奥に目をやる。


「いた」


布団の中で丸くなって、キツネともネコとも取れない “謎の真っ赤な小動物”。

夢だと信じたいが、確かコイツしゃべってた様な…。


「あ、そういえばカバンは…? …あった! …燃えてない…。うそ」


カバンの中身もカバンそのものも、全くと言って無事だった。


「どっからどこまでが本当なんだよ~!」


「こいつどうしよう。起こして大丈夫なんだろうか。

ちょっと、そーっと横に置いて」


ネコの子って、こうやって持つんだろうな、って感じで持ってみる。


「タクヤ!」


うわっと。

思わず手放してしまったが、自力で着地。


「ぼく、シラン。こんごともヨロシク」


…やっぱしゃべってる…。すげ。


「タクヤ、いそがなきゃいけないよ」


「…え」


「プログラムが起動したから、奴らが追ってくる」


「はい?」


「本を守って。あの人まで届けるの」


「ちょっ…なにがなんだか」


半分ボーッとしながら、この良く分からん生物に応えていると…


≪ガシャーン!≫


窓ガラスが割れて、何者かが侵入してきた。

しかもよく見りゃコイツ…、人間じゃありませんぜ!


「ヒヘヒヘ…ようやくスタートしたか。存分にやらせてもらうぜ」


暗くてよく見えないが、2メートル以上の巨体。

手足がなんだか木の枝っぽく見えるが、明らかにヒトじゃない!


しかも、コイツもしゃべってる。そんなに日本語ってポピュラー?


「コォォォォ------------------」


小動物がキンキン声で唸りだした! うるさい!


目と耳を閉じてやりすごす。何が起きてるんだ!?


…音が止んだ。おそるおそる目を開けてみると、そこには…!


「人間の…子供?」


なにやら昔の西洋の鎧をまとったプチ剣士…みたいな。

5~6歳くらいじゃないのか、あれ。


「立ち去れ!このゲームは神聖なものである!

権利あるものからの挑戦を待つ」


あ、小動物を同じ声だ。


「ヒヘヘヘ、関係ねいよ。ヤッタもん勝ちさ。

俺が一番のりだぁ」


そう言うと突然俺に襲い掛かってきた!


「タクヤ! エンリュウケンって叫んで!」


「なにそれーー!」


「いいから早く!」


「ぎゃーやられるー。わ、わかった。エンリューケン!!」


その途端、棚に置いてあった例の本が燃え上がり、一本の短剣が飛び出してきた。その子はそれを掴んだかと思うと…。


「古の3戦士復活の兆しと伝えよ! “炎流剣えんりゅうけん 斜ノ斬しゃのざん” !」


おぉ! 剣から炎がそのまま刃となって、木の怪物みたいな奴が燃え上がって………、消えた。


「死んだ…のか?」


「コォォォォ------------------」


うわ、またキンキン声!


目と耳を塞いで、何とかやりすごす…と。


「タクヤ」


ちょこんとした小動物に戻ってる。


「タクヤ、いそごう。また来る」


「いったい、何がどうなってるんだよ…」


普通なら、パニック状態になるんだろうな。

だが俺は不思議と冷静な方だった。

ま、一度は死の淵を見て来た人間だからかな?

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<第3話 予告>

おかしな奴らに狙われるハメになった俺、拓弥。

同じく、このおかしな小動物は、

今度は俺の学校へ連れていけ、と言う。


次回『都立 自由徳心学校』

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