第1話 考古学者の息子



---その『神』とは、もしかすると『人』だったのかもしれない---



その存在は「白き壁」から現れ、

それに続き、世の理(ことわり)全てはやって来たとされる…。


それは紛れもない『原初の白』。


我々の宇宙は、その『白』によって形づくられ、

ひとつの箱庭となり…絶えず見られ…試されている。


我々を監視している者が居るとすれば、それが神と呼ばれる存在なのだろう。


「………………………」


「なんだって?」


≪神の根源とは“質”であり形が無い。

それゆえ、飽くなき“創造”を続けるのである≫


「…さっぱり分からん」


ここは、東京の都立図書館。

学校のレポートが明日までなんで、焦っているのだが。


…おっと失礼、俺は「鳥海拓弥(とりうみ たくや)」17歳。

普通は高校2年ってトコなんだろうけど…。


少々、生い立ちに難がありまして(笑)、特別な学校に通ってるんだよね。


★都立「自由徳心学校」★


略して自徳。聞いたことないでしょ?

制服もあり、一見、普通の高校生に見えるのだが。


物騒な話、実は全員に「自殺未遂」の経験があり、

共通して「臨死体験」をしているのだという。


親御さんの了承を得て、精神的なバックアップも兼ねて、

この学校を紹介されるそうだ。


「自由徳心学校」は都立だが、実質国立である。

文部科学省の管轄からは外れていて、なぜか内閣府直属となっている。


理由は分からないが、厳選した生徒を募って、

「強く生きる力」を育てるのがモットーなんだとか。

厳選って言っても「自殺未遂」が共通項っていうのは、アブナイ匂いがしますが。

俺の場合は…って、まあ、これは、何だ。

…また機会があればまたお話しましょうっ!


で、この学校、学費はタダだが全寮制で、毎日課題が出される。


不合格や未提出が続くと、掃除や外出禁止、

休日返上などのペナルティが課されるのだ。


「このレポート飛ばしちゃうと、次の週、小遣いゼロになっちゃうんだよね…」


小銭入れのチャックを開けると、頼りないジャラジャラ感。


「…う~ん。123円。あと1週間これじゃあ」


はぁ。何としても「エリコ先生」がひっくり返る様なレポート書かないと。


今回のテーマは『隠れた神話を探そう』。

なんだよ、それ。新しいオリエンテーションか。


考えてみると、この学校、

宿題のお題が何とも荒唐無稽というか、

SFじみてるんだよなー。


「幽霊」「宇宙船」「古の遺跡」とか。

何か、将来役に立つんだろうか。

まあ、取り組むには面白いテーマなんだけどね。


「…何かないか。何かないかな、って何かあれよ!!」


なるべくマニアックな「おとぎ話」的なネタを探しているのだが…。

もう18時で閉館時間だから、そろそろヤバイ。


「ええい、クソっ。考古学コーナーなんかどうだ!?」


こんな時に、考古学者のお偉いさんであるオヤジがいると助かるのだが。

あと10分も無い。


手当たり次第に手を伸ばしていると、ふと見慣れない、

装丁が真っ赤に染まっている分厚い本で指が止まる。


「…これなんか、どうだろう? …うわっ読めねぇ」


「なんだよ、このヒモみたいな文字は…。あれ、付録本が付いてる。

 なんだ、日本語に対訳してあるじゃん」


翻訳者は『生沢 舜太郎』(いくさわ しゅんたろう)

タイトル『炎の書』…ってそのまんまかいっ!


「なになに…?」


≪訳注:この書は遠い昔のおとぎ話として伝承されていた内容が、実話だったことを示している。

対訳は途中までとなっているが、読者諸君の興味は十分に満たされる内容になっていると思う≫


「へぇ、おもしろそうじゃんか。

 何か、分からなかったらオヤジに聞けばいいし。これにしよっと」


こうして俺は、運命の出会いとなる「炎の書」を借りて、

図書館を後にしたのだった。


<第二話へ続く>

---------------

<予告>

人生、普通に生きていても、なかなかドラマティックな出来事って

やってこない。

やってきたとしても、厄介事だらけ…。

それが、まさに今回起きた出来事だった。


次回『本の精霊(?)』

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