青く、清く、脆い

@The-Little-Cat

序章 物書きの少年

リアリズムだとかユートピア主義だとか功利主義だとかが入り混じった無秩序な心を抱えながら、少年は机に向かって筆をはしらせている。


縁に金メッキが施された木製の重厚な机には塵一つなく、丁寧に使われていることが分かる。


その様は少年の几帳面さを端的に表していた。


しかし、清潔感溢れる部屋は時にその者の心を変に虚無感で一杯にする時がある。少年もその被害者の一人であった。


創作活動をする傍ら仕事もこなす彼の心には平穏など存在せず、ただ無為に生き延びるのは難しいとする固定観念が居座っているのだった。


そんな状態で創作される物語はどれも完全なる夢の世界を演じられず、中途半端に含まれるリアリティはその世界を蝕む。そして最後にはその世界ごとゴミ箱の中へ放り込まれるのだ。


少年はただ自分の居場所を求めているだけであった。


創作活動という物の意義をそんなに難しく考えた事もないし、それに完全なる夢物語を描く人の顔もはっきりとは見たことも会ったこともないのだ。


少年は繰り返し繰り返し世界を創造していく。


その内今は見えぬ楽園、。エデンがそこに現れる事を願って。


少年の創作活動は長らく続いた。


まだ見ぬ夢、まだ見ぬ深淵。


その入り口は今、開かれた。


創作活動を開始してから早10年。ようやくその物語は完成した。


そしてまた崩れた。



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