ファイル20 成本葉月司令官

俺は元々、気弱な少年だった。

高校生の時、そんな自分を変えたくて憧れていた自衛隊に入った。

自衛隊では、そんな気弱な自分を叩きのめし、高校生活の後半に差し掛かると、中学の時のような気弱な自分はどこにもいなかった。

ハズだった。

あんなことが起きるまでは、そんなことをずっと信じていたんだ。




8月3日

いきなり防衛大臣に呼び出されたんだ。


「今回はどのような要件でしょうか?」

俺がそう言うと、防衛大臣は目の前の椅子を指さして、

「まあ座りたまえと、言った。」

俺は「失礼します」と言って座り、防衛大臣を見て、椅子に座った。

「それで、今回はどのような用件で?」

俺は防衛大臣に聞き返す。

「まあ、そう急ぐな。まず、ここ最近に、イラクの様子が怪しいのは知ってるかね?」

「い、いや。初めて知りましたね。」

「まあ、そうか。知らないかもな。イラクはこれまでに大量の化学兵器を使って他国を苦しめていたんだ」

「確かに、イラクの化学兵器といえばマスタードガスやサリンなど、色々ですが…それは終わった事なのでは?」

「昨日、クウェートにイラクが侵攻を始めた。」

「な、なんですって!?」

俺は身を前に出して言った。

「あ、失礼。」

すぐに座り直す。

「1990年、8月2日。昨日のことだ。イラクは化学兵器を使用し、クウェートに侵攻した。」

クウェートとはイラクの隣国で、原油産出量は世界有数の、石油に浮かぶ国と言われている国のことだ。

「もしや、原油目当てでしょうか?」

「そうかもしれない。原油による、財産の確保。とでも言うところだろう」

「それがどうしたのですか?」

防衛大臣は少し前かがみにして言う

「実はな、少し前に、現金を大量に積み込んだ、航空機がイラクから、ロシアを通ってシベリアに着地したことがわかったんだ」

「シベリア?それって…」

「あの雪原だ。その雪原には、何かしらの施設のようなものが確認できた。現金を大量に詰んだ航空機だぞ?シベリアの怪しい施設に現金なんて運ぶのになんの意味があるかね?」

「そうですね。理由は何かわかっているんですか?」

「まだなんだが、憶測では、化学物質の研究所があるんじゃないか?なんて言われている」

「ほう?理由は?」

「昨日、クウェートに侵攻された時に光を放つ手榴弾に溶かされたという兵士がいたらしく、このことはどこにも公開されていないのだが、成分的に放射線を利用しているとか」

「なるほど」

「だが、今までにそんな一発で人を殺めるような武器はなかったわけだ。そして、もしそれが新兵器となれば値段は高く付く」

「つまり、新兵器の導入によるコストを稼ぐために、イラクはクウェートの石油を狙ったと言いたいんですか?」

「ああ。それに、イラク国内にあるわけではなく、シベリアだぞ?もしかしたら、民間人の研究所かもしれん」

「民間人の研究施設?そんな団体どうしで、新兵器なんて作れますかね?」

「もしも、アインシュタインのような天才でもいたら、無い話では無いんじゃないか?」

「また、ご冗談を」

「だが、イラクの様子が怪しいことには変わりない。もしかしたら、新兵器を使って第三次世界大戦なんて起こそうとしているんじゃないか?そんなこと、あっては御免だ。だから、成本くん。君にはシベリアにある謎の研究施設に特殊部隊で捜査をしてもらいたいんだ。国連に頼んで、今はロシア、アメリカ、フランス、ドイツ、その他の国が参戦している。ロシアに関しては、シベリアには民間人の研究団体の本拠地があるなんて言っていたぞ」

「それは、まあ、ほぼ確定ですね」

「だろ?それじゃあ、成本くんよろしく頼むよ」

「はい!了解しました!!」

「ああ、よろしく頼むよ。27歳にして、陸上自衛隊に総司令官として昇進された若き天才くんよ」






そして俺は、後に知ることとなるが、研究施設MSRに日本の陸上自衛隊が秘密裏に参戦することとなった。


襲撃当日。

オペレーション室にて…

「日本軍準備良し!」

『了解。これより作戦を開始する!!!』

「日本軍、前進!!!!!!」

通信が切れると俺は勢よく、言った。

オペレーション室の横に立っている副司令官は俺の顔を伺っているようだった。

「真面目にしないか。命がかかっているんだぞ!」

「す、すみません。だが、君が若きエースの成本さんですか…あえて光栄です!私よりも、年下なのに、司令官とは…憧れてしまいますからね!!成本さんが居れば、どんなことでも対応できそうですね!!!」

「しっかりしろ。それに、俺はなんでもできる人間じゃない。一人一人の人間は弱いもんだ。だが、1人1人の人間が個々で努力をし、そして団結のし合ったこの特殊部隊が居れば、なんでもできるだろうな」

「そうですね!!!!団結力を強めるのが僕らの仕事ですし、頑張りましょう!!!!」

「ああ、そうだな」

俺はそう答える。

もちろん、俺はその時、俺ら自衛隊の団結力といえば、生半可なものではないし、国との連携も取れるだろう。

つまり、この襲撃作戦は成功するのが当たり前だったんだ。

俺も、油断大敵と言いながら、この戦いは勝つのが当たり前だと思っていた。

あの怪物を見るまでは…………


「特殊部隊半数死亡!!!!!!!どうしようありません!!!!!!」

青く光った剣、ミサイルですら傷つかない甲羅、巨大な体系、それに反した攻撃速度。

まさに怪物の2文字で表せる化け物が戦場に立っていた。

あんなデカさの怪物なんて、特撮でしか見たことなかったのに、現実に現れたのだ。

俺らの軍事レベルではどうしようもない、怪物。

俺は口が開かなかった。


「グワアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


怪物は唸り声をあげると、体から赤い光線を放出し、あたりの戦車、戦闘機、歩兵。

全ての戦力を根こそぎ、殺するとモニターに映っている映像のほとんどが消え去り、残っていたのは、一つの部隊のものだけだった。


「部隊、8割死滅!!!!司令官!!どうしますか!!!!!!」


たったの4分。

怪物が姿を現して、4分たっただけで、全ての国の軍事兵器が殺された。


「司令官!!!!!」


あんな怪物に勝てるわけがない!!!!!


「司令官!!!!!!!」


「た、退避を……!!!」


「退避!!!!!!」


『退避ー!!!!!』


次の瞬間、怪物が赤く輝き、モニターが砂嵐に包まれた。


「あ…ああああああ……!!!!!!!!!!!!」


もし、相手の実力を見破れたんだったら…

もし、俺が満身創痍でなければ!!!!!

もし、俺がもう少し早く、退避の命令を出せたなら!!!!!!!!




仲間は死ななかったのかも知れない………




俺は自分の判断により仲間を殺してしまったことが何よりも悔しかった。


27歳で総司令官?現場を踏みなれてない奴なんて、素人と同然だ。


俺は自衛隊を去ることにした。


そこから、ゆったりと人生を過ごそうなんて思っていたら、ある日、昔の友人から連絡がきた。


『引き取ってもらいたい子供がいるんだけどいいかな?』


なんで俺なんだろうか…

こんな俺に…


『私の願いだから聞き入れて!!!お願い!!!!』


………


俺はせめての罪滅ぼしにと、子供を引き取ることにした。


『わかったよ。麻依。それじゃあ、今度家に連れてきてくれ』


『え!いいの?ありがとう!!!!それじゃあ、今度の週末に連れてくるね!!!!』


『わかったよ』


それからと言うもの、麻依は合計で8人の子供を連れてきた。


そして、俺はこの子供達に「司令官」と呼ばせることにした。


俺のせいで死んでいった仲間たちの想いを晴らすべく、俺は怪物の正体を探るようになり、俺はあらゆるカプセルを世界から集めていった。









そして現在。


「さてと、一丁行きますか!」

俺は陸上自衛隊、八尾駐屯基地へと、向かった。



俺は自衛隊で、若き天才として、名を馳せ、そして司令官という役職についてしまい、あんなに仲間を失うこととなってしまったが、名を馳せていたおかげで俺はすぐに、ヘリコプターなどを貸してもらえることに関しては後悔はなかった。


俺は、この時のために、天才なんて呼ばれ有名になっていたのかも知れないな。

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