ファイル16 私の恋は実らない

〔あの、ユミーさん少しいいですか?〕

「う、うん!なに?」

過去のことを打ち明けた後、

〔少し離れたところで話したいことがあるんです〕

「あ、わかった」

私たちは少し会議室から離れる。

なぜなら、少し話さなければいけないことが私にはあった。

私はV。

ユミーさんの情報係だ。


私の本名は夏帆乃葵かほのアオイ

17歳。

私は大体5際の頃、旅行で他国を訪問していた際に、拉致され、私は生物兵器として、実験施設MSRの支部に送られた。

被験隊09号。

それが研究所での、私の名前。


私は被験隊として、苦しい実験を虐げられた。

毎日、細胞が死んで、毎日、新しい身体が作られた。

その末に、私が獲得した能力は、魂を消滅させる能力と、いつでもどこでもどんな時も、幽体離脱できる能力だった。

どんな時も。もちろん実験中も、幽体離脱が可能となり、私はこの能力を使い、実験施設から、脱出した。

そして、実験施設MSRの情報を能力を駆使して集めた。

その際、私は何の罪の無い人たちを散々殺して行った。

その時、「情報さえ手に入れば良い」なんて考えていたところなんて、散々正義正義っていていた、自分はただの人殺しでしかない。

今考えてみると、多分何か焦っていたのかもしれない。

そして、私はユミーさんと出会った。

電脳特殊捜査隊第六課だったら誰でも良いなんて、思ってはいたけど、最初に出会ったのが、ユミーさんで本当に良かったと思う。

私は最初、ユミーさんが納得してくれたら何でも良かった。

だから、大臣はまだ悪に染まっていた私に殺された。

トラックの操縦者を殺して、魂を乗り換えて、私は大臣を殺した。


そして私はユミーさんの為に、人を殺し続けたある日、

「ねえ、V。Vって正義のためなら、人を殺すのか?」

と聞かれた。

その時、私は、「はい。」と答えた。

私が即答したせいか、ユミーさんはまるで私を理解したかのように

「焦らなくてもいいんだぞ?」

と、言った。

その時の私は言葉の意味が理解できなかったが、今になれば、超能力を使っているのかとも思った。

そしてユミーさんは

「人を殺してまで得られる平和って、本当に平和なのか、よく考えてみて欲しい。」

と、言われた。

そこから私は情報を集める際、人を殺める際、何故か手が震えるようになった。

今だって、手の震えを我慢している。

その震えを見たのか、ユミーさんは私の頭を撫でて、

「安心しろ、俺も、同じだから」

と言ってくれた。

私はその言葉に、救われた。

でも、死人は私を許してくれず、いつまでも夢に出てきた。

昨日、ユミーさんと寝た時はぐっすり寝ることができ、久しぶりにまともな睡眠が取れた。


そして、私はできるだけ、人を殺めずに、情報を集めた。

そしてついに、MSRのある情報を掴んだ。

それは、被験隊01〜被験隊07までの制作者。

アリジアルの情報と副署長のデトラルの情報だった。

天才科学者アリジアル。

彼はIQ458という破格の頭を持っていて、私が実験施設に入る少し前に、アリジアルは死亡していた。

そして、副所長デトラルはアリジアルの研究を引き継ぎ、私を被験隊として、生物兵器の開発をしたらしい。

だが、実験は被験隊の逃走によって失敗。

私とユミーさんはMSRの後を追っている。


「それで、話って何?」

〔昨日、ユミーさんの言っていた、MSRの支部はもうありませんでした。確認しては見たのですが跡形もなく消え去っていました。〕

「そうか、分かった。ありがとう。俺ももうちょっと探ってみるよ」

〔まだ…やるんですね〕

「ごめん。もう俺は戻れないと思う。このことが終わったら、俺もこの世からは去る事にするよ…」

〔ユミーさん!!!!!!〕

「Vを一人にはさせたくないけど、ごめんね」

〔でも!貴方は!!!これから多くの命を救わないといけないんですよ!!!!!!〕

「でも、俺が殺した人達は蘇らない。罪は消えない。ごめんね」

〔わかりましたよ。でも、約束してください。逝く時は一緒にいいですか?〕

「え…」

〔私も、ユミーさんを一人にできません。私も一緒に逝きます。だって私たちはもう、戻れないんですから〕

「そうだね。分かったよ」

〔ならよかったです〕


私がインターネットに行けなくて良かった。


ユミーさんにこの泣き顔は見せられないから。

マイクをミュートにして、私は泣き叫んだ。


多分、ユミーさんが死んでしまったら、私も、同じように死ぬと思うから。


今だって画面の中のユミーさんは笑っているけど、本当は悲しいんだろうな。


「本当に、ごめんね、葵《》。」

ニコっと笑顔だが、少し悲しそうな顔をしていた。

私は鳴き声を我慢して、

「いいんですよ。」

と、言った。

多分だけど、ちゃんと隠し切れていると思う。

ミュートにもう一回した後、また涙が溢れかえる。

涙は止まないようだ。


今は未来のことは考えないようにしよう。


できるだけ、できるだけ…










〔それじゃあ、また明日。〕

「やっぱ今日は無理かな…」

〔ごめんなさい…私も、一緒に居たいのですが、弟のこともあるので…〕

本心で言った。

もう、ユミーさんと過ごせる時間も少なくなっていっているのだから。

本当はずっと一緒に居たい。

ずっと、ずっと。

でも、私にはまだ家族がいるんだ。

大事な弟が

「それじゃあ、また明日。」

ユミーさんは少し悲しそうな顔で言った。

それに私は「また明日」とだけ言って私はパソコンを閉じた。

自分の部屋を出て、夕飯の支度をしに行く。

リビングに向かうと、そこには弟がいた。

「あ、もう帰ってきてたんだ」

水色の髪が目立つ弟は、テレビを見ていた。

「うん。ただいま!」

私の弟。

夏帆乃蒼かほのソウは私の能力や、私が情報屋をしていることを全て知っている。

そして蒼も、情報屋だ。

蒼は特に何の能力も持ってはいないが、どこからか情報を持ってくる。

情報源は謎のままだが、それでも、その情報は的確だ。

「姉ちゃん!もう夕飯も完成したから、ご飯食べよう!」

蒼は私の唯一の家族で、私が研究所から脱出をした際、その後何故か、帰ってきた。

突然のことだし、何より私は、拉致された時の年齢は5歳。

弟に関しては生まれたてだった。

そして拉致されてから7年も経ち、顔もしっかりしてきたが、それが本人なのかは分からなかった。

でも、蒼は生まれたてでも水色の髪の毛をしていたので、まあ、正真正銘とまではいかないが私の弟なんだろう。

でも、どうやって研究施設から脱出できたのかは分からなかった。

本人に聞いても、答えてはくれなかったし、とことん弟は謎に包まれた人だった。

それでも、この純粋な性格には裏があるとは考えにくかった。

「お姉ちゃん?どうしたの?ご飯食べないと冷めちゃうよ」

「え?あ、そうだね!」

私は箸で白米を掴み、口の中に放り込む。

今でも、これからのこととか、考えたくない。

ユミーさんと会えなくなるなんて、考えたく無い。

私は必死に涙を堪えて、笑顔を貼り付けた。

弟のためにも、ユミーさんのためにも。

「そういえばさ!!MSRの今の本拠地が分かったよ!!!!」

「え?」

「だから!!MSRの今の本拠地の居場所が分かったよ!!!!!あとは準備をすれば、母さん達の仇が取れるかもなんだよ!!!!!!」


聞こえていた。


耳を塞ぎたかった。


あってほしくなかった


もし、MSRの本拠地にユミーさんが行き、MSRを解散させたとしたら、ユミーさんは自殺するだろう。


嫌だ。


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!!!!


嫌だ!!!!!!!!!!!!!


ユミーさんに、死んでほしくない………



ずっと一緒に居てほしいのに…………


「そうだ!もうユミーさんに場所送っておいたよ!」

え。


もしかしたら、まだ隠せたかもしれないのに…


一度だけ、蒼はユミーさんにあっている。

そして、LINEの交換もしてある。

まさかそんなことが仇になるなんて…

もう、ユミーさんと一緒にいられる時間はないということだ。


「ありがとう!」

私は笑顔で蒼にそう言った。


「あれ?おねちゃんどうしたの?」


「え?』


涙が頬を伝って落ちていたことに気づく。


「あれ?な、なんでだろう。どうしてかな?」


止まって。


「な、なんか止まらないや」

泣き声で言った。


「大丈夫?お姉ちゃん」


止まって!!!

もう、止まってよ!!!!


「あはは、止まらないなあ…どうして、こんなに溢れてくるんだろう…」

私は箸を置いて、さっき全て出し切ったはずの涙をまたいっぱいに出す。


「どうしたの!?だ、大丈夫!?」


悪くないんだ。


こんなに私を心配してくれるのはこの子は。


でも、どうしてか、心の奥では憎悪が誰かに向かって生まれている。


憎悪と悲しみのぐちゃぐちゃに入り混ざった感情が、私の心の中で渦巻いて、本当に私は自分の正義しか認めない、どうしようもない悪だ。


私はそんな感情の中、悲しみから生まれたこの涙はどうしても、止めることは出来なかった。

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