ファイル8 心の拠り所

ファイル8

ポケットの中のスマホが震える。

どうやら、葉月さんからの電話のようだ。

そういえば、そろそろアズキが葉月さんの大阪から帰ってくる時間帯か。

じゃあこの電話は報告の電話か。

「はい、もしもし、ユミーです」

「ユミー?俺だ」

「司令官」

「とりあえず、ユミーの言ってた通りに、カプセルの仕組みだけは説明したが、特に何もなかったぞ」

「そうですか。分かりました、ありがとうございます」

「本当に言わなくても良いのか?あの事」

「今はまだ良いです。それに言っちゃうともしかしたらアズキは…」

「まあ、たしかに一理あるな」

少しの間、沈黙が続く。

「それじゃあここら辺でな」 

「はい!ありがとうございました!」

「それとユミー。全部一人で背負うなよ。俺らは家族なんだからさ」


「そうですね。また、いつか話します」

電話を切ると、マンションの窓から夕日が差し込んできた。

俺はスマホの電話帳を開き、「V」という名の相手に電話をかける。


「俺だ。報酬を受ける。いつもの場所で」




「今回も頼んだ奴持って来てくれたか?」

俺は夜の電車の橋の下でパーカー姿の火男ひょっとこの仮面を付けた「V」という名の人物と話していた。

被っているフードからは、ショートの髪が揺れる。

「ええ。もちろん。能力の発現源の5589のデータ。全ての書類をコピーしました」

「ありがとう。助かるよ」

「何も私に頼まなくても、自分で何かのデータベースに入ればわかるじゃないですか」

「残念なことにデジタルの書類は全て消えているみたいなんだ。お前を分かったことだろ?」

Vは両手を上げてお手上げポーズを取る。

「じゃあ今度の任務も言いますよ。次も潜入捜査です。任務が完了次第スマホに送っておくんで、それと、今回のやつは個人で行ってきてくださいよ?」

「何でだよ。俺が仲間を連れて行くことくらいいいじゃないか」

「今回は貴方一人だけで向かってもらいたいのですから」

「なんでわざわざそうしないといけないんだよ」

「この前に調べてくれた組織のGK04が少し怪しい動きをしていてね。日本にもしもの事があったら、他の待機してる連中だけでその「もしもの事」を解決してほしいんですよ」

「ま、まて!日本って国ぐるみのものなのか!?」

「まあ、そうですね。そういう事なので、あんまり六課のメンバーに離れてほしくないんですよ」

「わ、分かったが、お前、前から気になっていたんだが、本当何者なんだ!?」

「だから前も言ったじゃないですか。僕はただのですから」



Vと出会ったのは高校に上がり、東京に来た時の話だった。

俺が夜道を一人で歩いていると、突然、仮面を被った不審者が俺を待っていたかのように、電車の橋の下のフェンスに座っていた。

俺は流石に怪しいと思ったので、引き返そうと思い、踵を返した時

「こんばんわ。電脳特殊捜査隊第六課のユミーさん」

と、裏の顔をペラぺラと喋ったのだ。

防衛省のホームページにも載っていないし、極秘としてその存在を保ってきた俺らの電脳特殊捜査隊第六課の情報をVは知っていたのだ。

「そ、その情報どこで!?」

「そんなの簡単に探せば分かりますよ〜」

淡々と話すそいつは、パーカー姿に火男ひょっとこという今と何の変わらない姿で立っていた。

「そんな、探せばって!!俺らの情報は極秘なはず!!」

「別に私は防衛省の上の連中とは違って正義にしか興味ないですから」

「どういうことだ!?」

話が噛み合ってないように思い、質問したが、彼女の話はよく分からなかった。

「私は情報屋なんです。政治をしてる連中がどれだけ欲望に塗れているか。私は知っているんです。あなたは只のマリオネットに過ぎません。どうです?私を情報屋として、扱ってくれませんかね?」

「えーと、まずその政治をしてる奴らの欲望について知りたいんだが」

「良いですよ?ただし!その情報を聞いたら、私を情報屋として、扱ってくださいね?」

「分かったよ。その情報が正しいと判明したら扱ってやらんこともない」

「ひー、厳しいですねー」

そして、その情報屋、V当時のは防衛省の大臣の経歴、裏でやっていること、権力の悪用などの情報を教えてくれた。

「そ、そんな事を!?」

「誰しも仮面を被って可愛こ振るんですよ。私はね。そんな奴がどーうしても許せなくて、こうやって正義の方に情報を売っているですよ」


後日、俺は大臣と連絡を取り合い、Vが集めた証拠をもとに大臣を追い詰め、俺は防衛省大臣を退職。

その後、防衛省大臣は麻薬によって逮捕

今は釈放されたが、麻薬の幻覚作用によりトラックに轢かれ、今は亡き人となっている。


「まさか、本当だとはね。第六課の権限で、逮捕にまでも追い詰められることができたよ」

「それは良かったです」

「ああ。そうだな。でも一つ気になることがあるんだが、トラックに轢かれたのって、Vは何か関わっているのか?」

何となくだ。

何となくの勘がそんな事を言っていたのだ。

「はは、鋭いですね。情報屋は時に、人伝えで、情報を獲得することがあります。なので、当然人脈がとても広いです。それに私は相手との交渉を上手く進めるために、人の心理学を学んでいますので、大臣を悪く思う人を誑かすなんて余裕ですよ」

「やっぱりか」

「私の事、悪だと、思いました?」

「いや、正義を執行するには悪にならないといけないから俺は何も思わないよ」

「そうですか、良かったです。それじゃあこれからは情報屋として、私を使ってくださいね?何でもしますんで」


こうして俺は、情報屋のVを頼るのようになった。

Vは俺らの幼い頃の事や、俺が記憶のなかった4歳までの出来事全てを知っていた。

俺はいつしか彼女を防衛省や政府などよりも彼女を信用するようになっていった。




「テロ組織が国を狙うなんて事あるのか!?」

「はい。ないとも言い切れません」

「その理由は!?」

「この書類を見てください」

そう言ってVは俺に一つの紙の束を渡した。

その紙の束の表紙には「Top secret《極秘》」と書かれていた。

「この書類にはGK04が目的としている、テロの詳細について書かれています」

「その内容は?」

「人類の存続です」

「ど、どういうことだ?」

「読み上げますね」


人類は昨今人口80億人という人数の中、地球という小さな星で生きている。

人類は身勝手な行動が目立ち、地球の資源をどんどん蝕んでいる。

地球の資源は限りあるので、80億人を支えることはできない。

なので、人類を減らす。

人類が減ることによって、使う資源の量は当然減り、人類存続の鍵となるだろう。


「だそうです」

「なるほど。つまり地球の人口を減らすことによって、人類の存続を促すと。合理的ではあるな」

「別に意見を出すのは良いですけど、日本が死ぬことだってありますからね?」

「分かってるよ。俺だって、日本が死ぬのはゴメンだからな。それで今回の依頼は要するにこの計画の阻止か?」

「ま、端的に言うとそうですね。もし、潜入中に何か、失敗でもしたら、六課のメンバーには動けるように連絡は出来る様にしといてくださいね。一応、日本の危機なんですから」

「分かったよ。報酬は?」

「とりあえず、どんな情報でも差し出しますよ」

「よっし!分かったよ。それじゃあ、依頼徳と受けましたよ」

「ありがとう」

彼女は仮面の上からでもわかる位の笑顔で俺を見つめた。

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