ファイル7 かえでの日常

「おはよう」と僕は鏡に向かって言った。

まだ眠たい朝方。

僕は伸びた髪、ボサボサの髪をきちんとセットしてからリビングに向かった。

僕はかえで。

高校1年生だ。

僕は群馬の前橋高校に通っている。

今日は平日なので、もちろん登校日となっている。

「おはよー」

僕がリビングに向かって言うと

「お、かえでおはよー」

「おはよーかえで!」

リビングでは先に起きていた、アクサンとまつが朝ごはんを食べていた。

「あれ?もう、そんな時間?」

普通朝食の時間は決まって7時、つまり今の時間は7時な訳だ。

「あれ?兄貴とツヴァイとタタは?」

この3人の姿が見つからない。

まだ起きていないのだろうか。

「えーと、まずタタがバイト行ってて、兄貴は早めに学校行きたいって出ていって、ツヴァイはまだ起きてないのかな?」

「なるほど」

「じゃあ俺ツヴァイ起こしてくるわ」

「あ、ありがとう。アクサン」

そう言って食器を机の上に残して、アクサンはリビングからツヴァイの部屋へと向かった。

僕はアクサンの残した食器を食洗機の中に入れて、自分の分のご飯とツヴァイの分のご飯を用意する。

ユミーとアズキ以外の六課のメンバーの住んでいるこの家では、基本的に僕とタタで切り盛りしている。

みんなには時々手伝ってもらったりする時もあるが基本はこれだ。

タタはみんなを引っ張ってくれるようなリーダー的な存在だから頼りになるである。

「おはよぉー」

寝ぼけたツヴァイの高い寝ぼけた声がした。

「ツヴァイ、髪がすごいことになってるよ!!」

「え?本当?まつ、どこら辺?」

「とりあえず鏡見てきたら?ご飯は用意しておくからさ」

「ありがとう、かえで」

そう言うと、ボサボサ頭のツヴァイは洗面台の方へ向かって行った。

「じゃ、私そろそろ行くね!」

まつが学校に行く準備ができたらしい。

「今日は早いね、なんかあるの?」

「今日は中学のみんなと一緒に行きたいから少し早く出ようかなーって!」

「なるほどね。行ってらっしゃーい」

「はーい!言ってきまーす!」

元気な声と共に、ドアの閉まる音が聞こえた。

一番末っ子のまつは中学3年生。

そろそろ受験勉強をしなければいけない時期だろうな。

まあ、勉強したくないと言っていたが、基本的に、六課のメンバーは意外と頭が良い人が多い。多分大丈夫だろう。

ちなみに、六課の中で一番頭が良いのはアズキだ。

アズキは最年長(19歳)のこともあるが、僕と同じくらいの時にはいつも、学年一位の成績に加え、テスト全て100点。実技教科は体育や美術以外は好成績で、入試や全国模試では100点を取るのが当たり前だったらしい。

こういう流れで行くと生徒会長とかになりそうだが、それには手をつけなかったらしい。

ちなみに、その次に高1で学力が高いのは、なんと驚いたことにこの僕なのだ。

全テスト100点まではいかないが、毎回のテストで最高で5つ、最低でも3つは100点を取るのだ。

意外と僕たちは頭が良いのだ。

自分で言うのも違うと思うけど。



『行ってきまーす!』

家の中に誰も居ない事を確認して僕は鍵を掛ける。

「そういえばタタは鍵持ってるのかな?」

「多分持ってると思うよ」

「なら良いんだけど」

僕、アクサン、ツヴァイで僕たちは前橋高校に向かう。

ちなみに、僕とアクサンとツヴァイと兄貴は全員1年生だ。

赤から青へと移り変わる歩道を僕たちは渡る。

「そういえば、この前の呪術見た?」

「え、私まだ見てなかった!!」

「僕はもう見た。まさか五条が…」

「あー!!待って!!だから私見てないんだってぇ!!」

「あー!そうそうあそこでサトルン、伏黒パパに肩から切られるのはエグかったよねー」

「亞亞亞亞亞亞亞!!!!アクサアアアアアン!!!まだ私見てないんだてえええええ!!!」

「あーやばかったよねーあそこ。てか、アクサンって五条悟のことサトルン呼びなんだ」

「うん。かえでもこっち側に来いよ?楽しいぜ!」

「うん。気持ちだけ貰っとくわ」

僕らが、そんな事を喋っていると、あっという間に前橋高校に着いた。


僕らは玄関で別れを告げると、各々のクラスに入って行った。

ちなみに僕は1-3で、一年だけではクラスは7組もある。

ちなみに、六課のメンバーが被ってるクラスは無く、双子はクラス別々になりがちの原理のように、兄弟はクラスが別々になりがちのようだ。

だがこれは、孤児で拾われた、血の繋がってもいない兄弟の僕らにも適応するものなんだろうか?

まあ、別に昼休みには一緒に昼飯を食べるし、良いのだけどもね。


4時間目最後のチャイムがなり、とうとう昼休みだ。

昼休みは大体1時間あたりで、昼ごはん休憩も含まれている。

そして!

昼ご飯では六課の間では名物となっているあのイベントが昼休みに必ず開催される!!

その名は!!!

個人対決!!お弁当バトル!!!である。

これは個人個人で作った弁当でどれが一番、技術力が高く、美味しく、完成度が高いかを、競い合うというバトルである!!

会場は前橋高校の校舎外!!

このバトルは意外にも、色々なクラスの生徒が見に来るという、今では前橋高校1年では流行っているとも言える行事である。

ちなみに、出場選手は僕とツヴァイと、アクサンで、兄貴は解説兼審査員役である。

「所詮は子供だ」なんていう理由で、手を抜いていると、一瞬にして瞬殺されるので油断はできない。

ちなみに、今日の僕の弁当は秘密兵器をいくつか仕込んであるので、意外と自信があるのだ。

さて、ツヴァイとアクサンはどんな弁当を見せてくれるかな?楽しみだ!!





「激闘!!手作りお弁当バトル!!!!」

響く歓声と、兄貴の気合の入ったナレーションから始まるこのバトルはたったの一つの昼休みの遊戯ゲームだ。

「解説はこの私、兄貴がお送りしたいと思います。前回はツヴァイ、かえで、を抜いてアクサンが優勝しましたね。さて、今回の優勝者は誰になるのでしょうか!それでは始めたいと思います。よーい、スタアアアアアアアアアト!!!!」

このゲームは3人で順番に弁当の説明を行い合うという至極簡単なゲームだ。

というか、兄貴はこのゲームのためにわざわざ早く学校に来てあの今片手に持っているメガホンを調達したのだろうか。

まあ、いいや。まずは1人目、ツヴァイのターンだ。

「私の弁当はーー!!こちらです!!」

ドンと中央の今は使われない机にツヴァイのお弁当が姿を露になる。

「私のはこれ!!彩り野菜弁当!!」

『い、彩り野菜弁当!?』

ギャラリーの人間と兄貴が息ぴったりに弁当の名前を反復した。

「この彩り野菜弁当はその名の通り、彩り野菜で、健康を考える弁当にしました!!」

たしかに、ツヴァイの用意した彩り野菜弁当には「ほうれん草の味噌漬け」や「トマトのハム巻き」など、多彩な色が使われている。健康の面も考えられていて、僕的にはとても美味しそうな一品なのだが、弁当を見て僕は一つ懸念点があった。

「あのーツヴァイ?ちょっと良いですかね?」

兄貴がツヴァイに質問を吹っかけようとする

「なんだい?兄貴!」

それをツヴァイは自信満々な顔で聞くが、

「そのー、白飯はどこ?」

「・・・

ゔぉ婆アアアアア亞亞亞亞亞亞亞!!!!!!!」

実はこの、「激闘!!手作りお弁当バトル!!」にも幾つかのルールというものが存在する。

その一つに「白飯は必ず持って来ること。白飯を持ってこないと、即、失格となる」というルールがあるのだ。

つまり、僕は気づいていたのだが、ツヴァイは白飯を持ってこなかったため、優勝どころか、「審査する」という可能性が完全0%になってしまったのだ。

自分の凡ミスで膝を落とし、泣いているツヴァイに僕はそっと、慰めをし、ツヴァイのターンは終了。

ツヴァイは失格となった。

後、残すは僕とアクサンだけ!!

今日こそは行けるかもしれない!!

次にアクサンのターン!

「それじゃあ俺のターンだ!俺の作った弁当はまさに弁当の醍醐味と言って良いほどの王道!!キャラ弁だああああ!!!」

中央の机にドン!!と出されたのは2つの弁当。

一つは白米にふりかけが掛かった物。

もう一つはおかずの上に顔だけで目元と思われる場所に海苔が巻いてあり、目を隠すようなスタイルのあの有名なキャラクターだ。

「俺の弁当は呪術キャラ弁!五条悟verだ!!」

わかりやすい様に作られた五条悟は最近の高校の心を掴むようで、ギャラリーからは「おー」という声や、「意外と上手いな」などの褒め称える言葉が後を絶たない。

「おーっと!アクサン、ギャラリーからは人気が高い様だぞー!!」

兄貴が超がつくほどのノリノリでナレーションをする。

「味も大事だがギャラリーへのパフォーマンスも重要だぜ?」

クッ!アクサン!一丁前に勝った気にもうなっている!

「それではいざ、試食!いただきます!」

まずは五条悟の髪の毛の白い部分をパックっと一口食べた。

「ん?これは何?はんぺん?」

「正解!この肌のところはチーズで、目元の所は海苔ですね!」

「ふえー」

兄貴は他のおかずも食べると、

とりあえずは箸を置く。

「まあ、結果はかえでのお弁当を食った後にするわ」

「ぬ、ぬううう」

そして!最後、ようやく回って来た僕のターンだ!

僕は基本的に、家の家事を任されることが多く、その家事の中には、買い出しも含まれている。つまり、冷凍食品の買い出しが自由にできるのだ!

「それじゃあ、行くよ僕のターンだ!来い!僕の弁当!!」

ドンと現れた。

少しセコイ気がするけが、まあ、良いだ。

大人の力、見せてやる!!

「これは超、彩り野菜だ!美味しさのバランスもちょうど良く、おまけに野菜も美味しさ満点!非の打ち所がない!」

「ほう?本当か?美味しそうではあるな。

ギャラリーからは歓声の声が聞こえた。

「どうぞ、ご試食ください」

兄貴はまず、ケチャップのパスタを一本。

「ん!美味しい!」

次に若鳥の唐揚げ。

「すごい!うめえ」

この反応を見る限り、僕は勝ったな。



「結果発表ー!!!」

ついに来た、運命の時が!!

「それでは発表します。今回の優勝者はーーーーー

なんとアクサンです!!!」

何いいいいいいいい!?

「ちなみに今回で、アクサンは50連勝です」

やはり今日も負けてしまったか…

「これにて、激闘!!手作りお弁当バトルを終了します。あざましたー!!!」

「うう、また負けちゃったよお〜」

僕はアクサンにそう言うとアクサンは少し笑って、

「ふ。俺にはまだまだ敵わないな。後10年は修行してこい!!」

「く、クソォ!!」

「はーい3人ともお疲れー。今回はみんな意外と良かったよ。特にこの2人は今までに比べたら良かったと思うよ」

兄貴がメガホン片手に俺らに喋りかけてきた。

「今までに比べたらでも、アクサンに勝てなきゃ意味ないよ〜」

「ま、まだまだ、道は長いってことよ!さ!さっとこの弁当食おうぜ!」

『そうだね』

僕たちは昼休みが終わるまでお弁当を味わい尽くしたのだった。



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