ファイル6 心のファイル

ファイル6

俺が初めて葉月と会った日は雨が酷かった。

でも誰かが、俺を連れ出して、傘もさしてない俺を家の中に入れてくれたんだ。

あの時のタオルの温もりは今でも覚えている。








2011年 6月18日。 大阪府

「こんなところで何をしているんだい?」


誰だろう。誰かの声がする。


「寝ているのかな?死んでは…いないよね?」


僕を心配している?知り合いなのかな?


目を開けてみる。


曇りの天気の空と、コンクリート製のかべが目に映る。いつもの風景だ。

でも、いつもとは違う見知らぬ人がそこには立っていた。


「あ!おはよー!こんな天気にこんなところにいたら風邪ひいちゃうよ?」


「すみません。僕、実は帰る場所がわからなくて…」


「ど、どういうこと?」


どうもこうも僕は


「記憶がなくて」


「き、記憶が無い!?そ、それって記憶喪失したってこと!?」


「は、はい。そうなんです」


「き、君、自分が何歳ってこととか知ってるの?」


「そ、その、自分の名前と、今の年齢は、何となく、分かるんですけど…」


「もしかして、なんか自分のした行動とかわからないの?今までのこととか」


「は、はい」


「じゃあさ、名前と今何歳か、わかる?」


「えーと、小林雄和、4歳です」


「よ、4歳!?親の人とかは?」


「その、両親の顔も声も思い出せなくて」


「た、大変だね」


その人は少し大きな息を吐くと

「それじゃあ、とりあえず、私について行かない?今から知り合いの家に行くんだけどさ。こんなところにいたら風邪ひいちゃうでしょ?ほら、傘入って!」


「は、はあ」


僕はその人について行くと、大きな家に案内された。


「ここ!ここが私の知り合いの家!」


成本と書かれた表札の家からは騒がしい子供の声がした。


「おーい!葉月ーちょっと頼みたいんだけどー」


その人がドアチャイムを鳴らすと鍵が解除される音がドアの向こうからした。


頼みたいこと?何だろうか。も、もしかして!!


ドアが開くと黒い長袖を着て、ポリポリと頭をかいている男の人が立っていた。


「な、何だお前。もしかして、嫌な予感しかしないんだが…」


「あ!葉月!よかったー!私からのお願いなんだけどさ!この子、保護してくれない?」


「ま、またか…これで8人目だぞ?お前さあ、流石に俺以外に頼るところないわけ?てか、まずは俺じゃなくて警察に電話しろよ?」


「まあまあ、こんな話、嘘見たいでしょ?とりあえずいつもみたいにやってあげて?」


「はあ、いつまで続くんだよこれ…」


「だ、大丈夫!今回で最後だと思うから!」


ドアから覗いていた男の人は

「とりあえず、中、入れ」


「ぼ、僕ですか!?」


「ああ。そうだ」


「えと、僕ってこれからどうなるんですか?」


「とりあえず、俺らと一緒に今後の人生を歩むことになるだろうな」


「それって…」


「俺がお前を保護する。少年、お前の名前は?」


「えっと、小林雄和です」


「雄和、そうか。じゃあ今日からお前はユミーだ」


「え?ど、どうして?」


「俺らはな、ニックネームをつけて信頼関係を築くんだよ」


「は、はあ」


「ちなみに俺は、司令官だ。わかったか?で、このお前を連れてきたこいつが、麻依だ」


「もう、何で私にはニックネーム無いの?」


「え、必要ないかと思って」


「ぬうう!」


これが恋というやつか。


「ごめんね、葉月、ちょっと厨二病が酷くて」


「悪かったな!」


「それで自分のこと司令官とか言ってたり、自分の家族にはコードネームとかつけたりするから」


「ということは僕のコードネームはユミーですか?」


「そう!それで、たまに、政治してくるわとかいう時あるんだけど。ただの仕事だから。絶対に政治家とかにはなれない人だから」


「おい、聞こえてんぞ」


「でも、まあ。ちゃんと大人だし、頼れる時はいくらでもあるから。困った時は葉月を頼って。絶対何とかしてくれるから!」


「ま、そうだな!俺はいくらでも頼れるだからな!」


「本当、こだわり強いなあ。いつか、地下に秘密基地とか作っちゃいそう」


「ふん、わかってるじゃないか。俺の夢は家を本当に秘密基地にすることだ。今でも、ちゃんと建築技術を勉強してるんだ。いつか作ってみせるよ!」


なんか、変な人だけど楽しそうな人だな。


「司令かぁぁん!!!」


玄関まで同じくらいの身長の女の子?が来た。


「お、かなで、どうした?」


「ま、またアクサンが!!」


「え、また!?」


「あれ?なんかアクサンしたの?」


「さ、最近、スパーボールを溶かすのにハマっててな!と、とりあえず言ってくる。じゃあ、また今度な麻依!」


「あ、うん!また今度!」


「あ、えと」


僕が少し口こもっていると


「じゃあ、また今度くるよ。ちゃんとみんなと仲良くしてね」


「み、みんな?」


「そう。みんな。じゃあ、バイバイ!」


そういうと麻依さんは雨の中を走って消えていった。


僕は「よろしくお願いします」と言いながら家の中に入っていった。


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