第5話 もう1つの条件
勝負を終えた
「さて、これで入学手続きは完了です」
蒼埜とガルはタブレットで書類を書き終え、この魔法高校に入学する手筈を整えた。
しかし
「ですがまだ入学を認めることはできません」
「は?」
入学の是非を決める勝負で、蒼埜たち2人が勝利を収めた。だからガルの反応は当然である。
「どういうことですか?」
蒼埜が冷静に聞き返す。
「あくまで今回決定したのは仮入学までです」
「仮入学?」
「はい。ここからさらに条件をつけます」
「約束とちげぇな」
「申し訳ありません」
「…ちっ」
反論しない火威を見て、ガルはそれ以上の追求をしなかった。
「それでどんな条件ですか?」
「まずこの学校には“魔法向上科”と“普通科”の2つのコースがあります」
「基本的に魔法向上科は、固有魔法を持つ者が自身の力を向上させる場。普通科は生活魔法のみ使える生徒と、そもそも魔法を使えない生徒が学ぶ場です」
「悲しいことですが」
そう繋げた火威だが、蒼埜が質問する間もなく話を続けた。
「そしてあなた方2人に仮入学してもらう魔法向上科には“決闘”という制度があります」
「学内にある闘技場という施設で、生徒同士が1対1の勝負を行い、勝った方がポイントをもらえます。そしてその合計ポイントが高いほど様々な待遇を受けられるという仕組みです」
「なんか俺のイメージしてた“学校”とだいぶかけ離れていますね」
蒼埜がイメージしていた学校は、勉強、部活そして友達と遊ぶといったものだ。
「そうです。ここは特別な学校です。魔法を使える者、特に固有魔法を有する者が憧れる魔法学校です」
火威がより真剣な表情をする。
「今在籍している生徒たちは、数々の難関な試験を乗り越えやっとの思いで入学を果たしました」
「ですからそう易々と異なる方法での途中入学を認めるわけにはいかないのです」
校長室内の空気が張り詰める。火威の、この高校に対する強い思いが空気にも伝わった。
「条件はたった1つ」
「5月が終わるまでにその決闘で5勝してください」
「なんだ。楽勝じゃねぇか。それでいいぜ」
「俺もいいですよ」
蒼埜たちは火威の提案をあっさり承諾した。
「決まりましたね」
「漣さん、一氏さんひとまずは仮入学おめでとうございます」
◇
日も暮れ始め、蒼埜たちは校長室を出て寮ーー
「それでは俺たちはこれで失礼します」
「あ、漣さん。少し残っていただけないでしょうか?」
しかし蒼埜だけはそれがかなわなかった。
「分かりました」
「じゃあ先に行っとくぜ」
「うん」
ガルが校長室を後にする。それから数秒後火威が口を開けた。
「…昨日の夜、師匠からもらった手紙の2枚目を読みました」
火威が、先ほどとは打って変わって優しくゆっくりとした口調で話を進める。
「漣蒼埜くん。あなたの過去について綴られていました」
「…そうですか」
蒼埜はいつもと変わらぬ無表情で返答する。
「だから当然知っています」
「なぜ実質不老不死である師匠が死んだのか。そして」
──あなたが固有魔法を持たないことを
──あなたの異常な身体のことを
異常な身体。その言葉の意味を蒼埜はもちろん理解できている。
「その上であなたにはもう1つ条件を付け加えます」
蒼埜にだけ課す、入学するための追加条件。
「あなた自身の生活魔法と武器ないし魔道具のみで5勝してください」
蒼埜は固有魔法を持たない。にも関わらず火威はそのような言い回しをした。
「分かりました」
しかし蒼埜にはその意図が伝わった。
「でも俺、生活魔法が戦闘に使えるって最近知りました。後、魔道具ってやつも知りません」
「そうですか…。では…」
火威は、指輪をつけている右手人差し指で、空中に向かって何かを押す動作をした。
すると、空中に先ほどのタブレットのような画面が表示された。
「なんですかそれ」
初めて見るものに好奇心が止まらない蒼埜。
「ああこれですか。これはスマートリングと言って、これをつけてる指で空中をタップすると、いつでもどこでも様々な情報が得られるんですよ」
「へーー」
画面をまじまじと見つめる蒼埜に少し困った顔をする火威だが、何かを思い出したのか引き出しを開ける。
「そうでした。これ同封されていた収納リングの中に入っていましたよ」
火威が差し出したのは2つのスマートリングだった。
「やった。ありがとうございます」
「お礼は師匠に言ってくださいね。あとで一氏さんにも渡しておいてください」
そう言い終えた火威は、再び何かを操作しだした。
「では魔法の件なんですが、明日朝10時20分にもう一度ここへ来てください」
「その時に魔法について色々とお教えます」
「分かりました。でもなぜその時間に?」
蒼埜は10時20分という少し微妙な時間に疑問を抱いた。
「10時30分から闘技場で試合が行われるんです。それも学校No.1の生徒、ここの生徒会長が出場しますよ」
「おーー」
「それを見ながら色々お話ししますね」
火威と話終えた蒼埜は帰り支度をする。
「あ、最後に3ついいですか?」
「どうぞ」
「生徒たちはどんな志を持ってここに入学してるんですか?」
火威の言葉から察するに、魔法向上科において人気度、入学の難易度は高い。
その魅力はどこから来ているのか。蒼埜自身のモチベにもなるかもしれない。
「そうですね、一言で言えば“魔法警備隊になるため”でしょうか」
凪目第一魔法高校は、過去たくさんの優秀な魔法警備隊を輩出している。
それだけ魔法警備隊になるためのカリキュラムや設備が整っているのだ。
「なるほど。では2つ目。なんで俺も魔法向上科なんですか?」
魔法向上科には歴史を見ても固有魔法を持つものしかいない。だから蒼埜の疑問は最もだ。
「生活魔法しか使えない生徒たちの星になって欲しいんですよ」
「…逆効果だと思いますけどね」
何かを思い出すように蒼埜はそう呟く。
「そこは心配ありませんよ。あとは漣くん次第です」
どこか不敵な笑みを浮かべる火威。火威には何か考えがあるらしい。
それを悟った蒼埜は最後の質問に移る。
「じゃあ最後に3つ目」
「──なぜいきなり俺たちに入学のチャンスをくれたのですか?」
蒼埜は明らかに昨日と態度が変わった火威を、ずっと不思議に思っていた。
「あ、門前払いは大人気ない、というのは無しですよ」
先ほどの戦闘の際、火威が用いた言い分をあらかじめ制する。いち学校の校長が気分で重要な判断を下すはずがないことは、蒼埜にも分かっていたからだ。
逃げ道を失った火威は考え込むように頭を垂れる。
2人の間に少しの沈黙が落ちる。
そしてしばらくして、火威が顔を上げた。
「…そうですね。では、漣さんが見事入学できた暁にお教えしましょう」
「分かりました」
その提案をあっさり受け入れた蒼埜は、どこか軽い足取りで部屋の出入り口へ歩いていく。
この答えを知りたいという好奇心が、蒼埜に大きなモチベーションを与えたのかもしれない。
「それではまた明日」
「はい」
お辞儀をし、校長室を去っていく蒼埜を、火威は複雑な表情で追っていた。
──漣さんを見送った後、窓際にある自分専用の椅子に疲労をぶつけるように、勢いよく腰掛ける。肘掛けは木製だが、座面と背もたれ部分は低反発のクッションでできているため、身体にダメージはない。
ダメージ……
──例え針山に勢いよく飛びついても彼は…漣さんは無傷なのでしょうね。
『異常な身体』
これは決して私が命名したわけではありません。師匠の手紙にこう記してあったのです。
私はもう一度確認すべく机の引き出しから手紙を取り出す。
何せ何度読んでも信じられない内容ですからね。
ただ師匠はお調子者であれど、ふざける時のTPOはしっかり守る人です。
だからこそ、この事実を信じるしかないのです。
──異常な身体とは何かって?ではもっと簡単に教えてやろう。
“無敵”じゃ
まだまだ手紙の続きはあるが、火威はそれを確認し終えるとすぐに元の引き出しに手紙を戻した。
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