第3話いざ!魔法高校へ!
蒼埜、ガル、吽刀、真瀬は共通の目的地である
「それで、どうやって行くんですか?」
「ちょっと遠いから、自動運転車で行くよ」
「自動運転車?」
聞きなれない言葉に蒼埜は疑問を抱く。
「えっ!?自動運転車知らないの?」
「はい」
しかしどうやら一般的に知れ渡っているものらしい。
「その名の通り、自動で目的地まで運んでくれる車だよ」
「へーー」
自動運転車という未知の存在に目を輝かせる蒼埜。
「ふ~ん。中々可愛い顔するじゃん。
「真瀬さんは表情豊かでいいですね」
「そう?ありがと」
主に蒼埜と真瀬が雑談を交えつつ歩いていると、駅のような場所に辿り着いた。
まるでベルトコンベアのように、次から次へと線路に沿って自動運転車がやってくる。
少し順番待ちをしてから自動運転車に乗ることができた。
そして座席の前にあるパネルに目的地を入力すると、その車が勝手に動き出した。
「おーすげー」
「ふふ。なんか初めて乗った子供みたいだね」
窓を乗り出すように外を見る蒼埜を、真瀬は優しい目で見ていた。
「そういえば、空飛ぶあれはなに?」
蒼埜の指さす先には、今乗っている車よりも少し小さめのものが空中を飛んでいる。
「あれは飛行車だね。自動運転車に飛行機能を追加した感じかな」
「へーー。2つとも科学?魔法?」
「科学だよ」
そこで、今まで静観していた吽刀が口を開く。
「漣はどういう出身なんだ?」
蒼埜の常識の無さに疑問を抱いたゆえの質問だろう。
「うーん。どこで産まれたかも知らないし、親の顔も知りません」
「えっ…」
蒼埜の思いもよらぬ発言に驚く2人。
「気づいたら山にいて、山で血の繋がってないじいちゃんに育てられました。多分捨てられたんでしょうね」
「…そうか。変なこと聞いて悪かったな」
「いえ」
吽刀は自分の無闇な発言に反省した。それと同時に淡々と語る蒼埜に少し違和感を覚えた。
「お!着いた!」
空気を変えようと少し大袈裟なリアクションを取る真瀬。しかし到着したのは本当である。
「おいガル起きろ」
「んあ?やっと着いたか」
ずっと寝ていたガルを起こし、蒼埜一行は車を降りる。
「ようこそ
凪目第一魔法高校。
魔法が浸透したこの世界の未来を担う優秀な魔法師を育成する機関。
「おーー」
顔を上げると目の前には広大な土地が広がり、立派な校舎が立ち並んでいた。
1つの小さな町かと疑うほどだ。
「確か校長室に用があるんだったよね」
「はい」
「じゃあ私に着いてきて」
「俺は別の用があるから先に行かせてもらう」
「は~い。またね~」
吽刀と別れ、蒼埜とガルは真瀬について行く。
大きな正門をくぐり少し歩くと、目の前には1本の大木があった。
どうやら桜の木らしいがもう枯れてしまっている。
「そういえば真瀬さんは何故学校に?」
「ちょっと魔法の特訓をね」
「魔法警備隊の人って学校で訓練するんですか?」
「魔法警備隊?」
「え?」
「ん?」
噛み合わない会話に2人とも首を傾げる。
「どう見ても学生だろ」
そこでガルが口を挟んだ。
「え、学生なんですか?」
「そうだよ?…あ~、あの時は偶然現場に居合わせたから対処しただけだよ」
「なるほど」
あの時とは宝石強盗事件のことである。
「私も吽刀くんも高校3年生の17歳。2人は?」
「15です」
「15ってことは高1か。ん~、でも今年の新入生にこんな子いたかなぁ~」
そう言いながら真瀬はまじまじと蒼埜、ガルの顔を覗き込む。
「新入生じゃないですよ」
「ふ~ん。転校ってわけでもないよね~。うち、そういうの禁止だし」
まあできれば入学したいけど、と蒼埜は心の中で呟く。
すると真瀬が何かを思いついたかのように、右掌を左拳でポンと叩いた。
「あ、そうだ。日本では法律で、自衛目的以外の魔法無断使用は禁止されてるから気をつけてね」
「え…。生活魔法で水を飲むのもですか?」
日頃、自分の水魔法で水分補給をする蒼埜は、やっちゃった、というようなジト目で質問した。
「いや~。それくらいは大丈夫だよ。まあだからこそ合法と違法の境目が曖昧で、中々検挙が難しいんだけどね」
蒼埜はホッと安堵のため息をつく。
「因みに私と吽刀くんには、これがあるから大丈夫!」
真瀬はポケットから取り出した自分の顔写真付きのカードのようなものを取り出し、蒼埜の眼前にビシッと差し出す。
「これは?」
「魔法警備隊の仮免許!これがあれば一般人よりも広い範囲で魔法の使用が可能になるんだ!」
「へー」
2人の話を聞いてガルは少し考え込む。
蒼埜が収納リングを取り返した後、店員に謝る真瀬と吽刀のそばで、拘束した犯人を連行する大人が何人かいた。
その時はまだ真瀬と吽刀は魔法警備隊だと思っていたが、2人が生徒と分かった今、何故大人たちは2人と一緒に謝らなかったのかという疑問が浮かぶ。
仮免許といえど完全に自己責任なのだろうか。そもそも魔法警備隊は一つの組織ではなく、様々なチームがあり、犯人を連行していたのは2人と違うチームなのか。
いや、犯人を連行するだけの別組織が──
…この世界についてしっかり学ぶ必要があるみたいだな。
◇
「あ、着いたよ」
とても広い校舎をよく迷いもなく歩けるな、と蒼埜が感心しているのも束の間、3人は校長室に到着した。
「ありがとうございました」
「うん!また会えるといいね!」
真瀬は2人を送り届けた後、元気よく手を振りながら帰っていった。
「はぁ、やっとうるさいのがどっか行ったぜ」
「入るか」
「俺は外で待っとく」
「そうか」
さっぱりとした会話の後、蒼埜は厳かな扉を開ける。
「失礼します」
「扉はノックして返事を待ってから開けなさい。もう一度出直しなさい」
扉を開けた瞬間、その正面から少し低めの女性の“声”がした。
「失礼しました」
蒼埜は言われた通りに扉を閉め外に出て、出直す。
「…ん?」
「どうした?」
ノックをしようとせず、何かを考えている蒼埜を不思議に思うガル。
「今、声は聞こえたけど人いなかった」
「は?」
唐突な訳のわからない発言に、ガルは素っ頓狂な声を出した。
「扉の真向かいにある窓の前に立派な机と椅子があって、そこから声が聞こえた気がするけど…」
「まあもう一回開けてみるか」
「ノックしろよ」
「あ。危なかった」
ガルの忠告のおかげでまた追い返されずにすんだ蒼埜は、しっかりとノックをする。
「どうぞ」
すると先ほどと同じ声が少し高くなったトーンで、扉越しから返ってきた。
「失礼します」
扉を開けると、さっきまで誰もいなかったはずのその椅子に、スーツを着こなした綺麗な女性が座っていた。
(どこから出てきた?)
「さて、どちら様でしょうか?」
「漣蒼埜です」
「漣…?」
その女性は一瞬目を細める。
「どうかされましたか?」
「いえ。私はここの校長をしています
火威と名乗ったその女性は、一度立ち上がって丁寧に礼をする。
「それで何のご用でしょうか?」
「手紙を預かってきました」
「手紙…ですか」
「はい、渡せば分かると」
蒼埜はじいちゃんから受け取った手紙を、目の前の女性に手渡す。
「!!この書き方は…!」
火威は封筒の裏の名前を見た瞬間、少し手荒に封筒を開け始めた。
中には手紙2枚と、収納リングが入っていた。
「…やっぱり…。師匠……」
「師匠?じいちゃんのことですか?」
火威は蒼埜の問いに反応せず、手紙を広げ、先ほどまでのクールな様子とは一転し嬉々として手紙を読み出した。
しかし読み進めるうちに、徐々に顔が青ざめていく。
そして1枚目を読み終えた後、こうべを垂れた。
「…師匠が……死んだ……?」
蒼埜は一度深く瞬きをした。
「…はい」
「嘘です!だって師匠は──!」
「強奪。確かにじいちゃんの固有魔法は、植物や動物の生命力を奪うことで実質不老不死を可能にします」
でも、と蒼埜は続ける。
「──その力は俺のせいで失われました」
「…は?」
言葉の意味を理解できず、火威は目を見開いたまま硬直した。
そして徐々に文面上の意味を理解し、爪が手のひらに食い込むほどに強く拳を握った。
「…帰りなさい」
「できれば入学したい──」
「帰りなさい。そもそもここは途中入学、転校、編入全てを禁じています」
「これが最後の忠告です。帰りなさい」
「…分かりました。失礼しました」
蒼埜は、仕方ないか、といった感じで校長室を後にする。
「おいこれからどうすんだよ」
「んー。とりあえず寝る場所探そう」
「金もねぇのにどうやって?」
「あれやってみたい。民泊?みたいなやつ」
「は?」
ガルは、蒼埜がいきなり変な提案をするのはある程度慣れているが、それでも驚くものは驚く。
「毎度毎度お前の好奇心に付き合わされる俺の身にもなってみろ」
「とか言っていつも楽しそうじゃん」
「お前、目くり抜いてやろうか」
「まあいいや。とりあえず街に出て誰か家に泊めてもらえないか聞いてみよう」
「…俺は近くの公園で寝るわ」
「分かった」
結局、蒼埜は誰かの家に泊まり、ガルは公園で1夜を過ごすということに決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます