第17話

 「与えられる姿は、皆がそれぞれ希望した姿となる。ここに来る前の姿となるもよし、なりたい姿を希望するもよし、ということだ。ただし、一度得た姿は変更がきかぬ。しかと考えろとのお言葉だ」

めちゃくちゃな試練を出す代わりに、気前はいい神様なのね。

ふとキルミースさんが手をあげて、何かを取り出し、テーブルの上に置いた。

あれって、砂時計?

「これは、神より下されたもの。これをひっくり返し、中の砂が落ちきるまでになりたい姿を心に決めろとのことだ。落ち切ると同時にこの室内が霧に満たされ、晴れたときには姿を持っていると。それぞれどのような姿を持ちたいか、考えよ」

 

 ざわざわざわ……。

住民のみんな、考え込んだり、ぶつぶつつぶやいたりしてるわ。

みんなどんな姿になるんだろう? 

それにしても、この世界の住人全員同時に姿を与えるって、部屋の中に何人いるのかわからないけれど、神様スペック高すぎ。

あ、神様だから全能か。

まあ、いいわ。

私はもう、決めているし。

「……そろそろ決まったか?」

キルミースさんの問いかけに、影たちがうなずく。

「では」

声とともにキルミースさんは砂時計をひっくり返した。

さらさらさら……小さな器の中で流れない時間が落ちていく。

砂が落ちきったと同時に、広い室内が真っ白な霧に埋めつくされた。

夜目がきく私にも、何も見えない。

目の前にかざした手すらも。

 

 ……どのくらい経ったのか。

霧がだんだんと晴れてきた。

周りがはっきりと見え始め、室内を埋めていた影たちが姿を持ってあらわれてきた。

「皆、思い思いの姿が手に入れられたようだな」

すっかり霧が晴れたのを確認したキルミースさんが言った。

みんなそれぞれに手を目の前に持ってきたり、隣同士で姿を伝えあったりしている。

そういえば鏡もなかったのよね。

……キルミースさんは、どんな姿なのかな?

横目で姿を確認して、慌てて眼をそらした。

いや、これ、反則でしょ?

空想してたし、ちょっとは期待もしていたけれど。

キルミースさん、イケメンすぎる!

長身でスタイルいいのは影の時からだけど。

つややかな、前髪長めの黒髪・長髪で。

切れ長の目に黒い瞳。

鼻は高くてスッとしてるし、唇は厚すぎず薄すぎず。

もちろんひげなんてない肌はすべすべしてそうで。

 

 そんな感想を持ったのは、私だけではなかったみたい。

姿を取り戻した住人さんたちも、口をポカンと開けて私たちの方を見ている。

正確にはだけど。

そこに、一人の少女がかけよってきた。

あの背格好は、マオちゃん?

想像していた通り、背中まである薄茶のふわふわした巻き毛。

くっきりと大きくまつげが長い茶色い瞳。

鼻も口も、かわいく整っている。

めっちゃ、かわいい。

まるでお人形さんみたい。

「キルミース様!姿を与えてくださって、ありがとうございます」

「与えたのは神だよ、マオ。私ではない」

「いいえ。神様に交渉してくださり、試練を乗り超えてくださったのはキルミース様ですもの、姿を与えてくださったのと同じです」

マオちゃんが口火を切ったからか、広間からは口々に感謝の声が聞こえてきた。

声が共鳴して、わぁぁぁぁんとしか聞こえないけど。

そのざわめきも、キルミースさんが片手をあげるとピタッとやんだ。

 

 「皆の希望は叶ったようだな。先ほども申したが、希望を叶えたのは私ではなく神だ。そのことを忘れぬよう」

そして私の方を向いて言った。

「ニーナ、行きましょうか」

「は……い」

特に退出の挨拶もしないまま、キルミースさんはすたすたと広間を後にした。

あわてて後に続いて広間を出ると、二人の女性がすっと近寄ってきた。

ひとりは肩までのボブ。

キラキラ光るきれいな銀髪で、少しつり目で青い瞳。

もうひとりはストレートの黒髪をポニーテールにしている。

ちょっとたれ気味の二重で緑の瞳。

「ニーナ様、カロルとラムレアです。改めてお見知りおきを」

予想した通り、銀髪がカロルでポニーテールがラムレアだった。

こんな美人さんたちが私のお世話役だなんて……目の保養になるわ。


   



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