第16話

 館に戻ると、多くの影が出迎えてくれた。

「キルミース様、いかがでしたか?」

カロル?が問いかけてきた。

「ああ、無事にすべての石碑の謎を解くことができた。このあと、神よりなにか知らせがあるやもしれぬ。私は部屋に戻る。ニーナを労ってやってくれ」

「承知いたしました。ニーナ様、こちらへ」

案内されたのは、ベッドがある部屋でもテーブルセットがある広間でもなく、もちろんキルミースさんの執務室でもない部屋。

シンプルなソファセットが部屋の中央に置いてある。

「こちらにおかけください」

三人がけのソファをすすめられたのでこしかける。

「しばらくお待ちいただくことになるかと思います。こちらをどうぞ」

 

 さしだされたのは、イーマウが数個のっている小皿だった。

「ありがとう」

「私は外に出ていますので、ご用がございましたら遠慮なくお呼びください」

「あ……」

サクッと出て行っちゃった。

ちょっとくらい雑談につきあってくれてもいいと思うんだけど。

確か私が生きていた時代よりも未来に死んだって言ってたわよね。

どんな未来になっていたのか、聞いてみたかったなぁ。

イーマウを一個、つまんで口に入れた。

……懐かしい味。

炭酸の刺激と酸味とアルコール感と。

ひさしぶりの味だなぁ……。

 

 「ニーナ?どうしましたか?」

声とともに、体を揺さぶられた。

「う~。大丈夫、ちゃんと、ふとんで寝るから」

ん?ふとん?

はっと目を開けた。

目の前にキルミースさんの姿があった。

「部屋に来てみたら、ニーナがソファに倒れてたので。なにかあったのですか?」

「え……と。特には何も。イーマウを口にしたら、どうも酔っちゃったみたいで、寝落ちしてたみたいです」

 

 「イーマウでよっちゃった、とはどういったことなのでしょう?」

「よく、わからないんですけど。口に入れたらレモンチューハイの味がして、気がついたら寝てたみたいなんです」

「れもんちゅーはい?」

「お酒、です。もしかしてお酒もご存じないのですか?」

「そのようですね。知らないことばかりで、なさけないですね」

「そ、そんなことないですよ。お酒とか、知らなくても全然生きていけますから」

──ここでそんなこと言っても説得力無いけど……生きてないんだし。

 

 「よかった。体調が悪いとか、そういうわけではないのですね」

「ええ、大丈夫です。ところで、この部屋は初めて入る場所だと思うのですが、応接室か何かですか?」

「ここは、私の私室です。執務室ばかりではさすがに息が詰まるので」

私室……高校時代に初めて彼氏の部屋に行った時のことを思い出して、一瞬ドキッとしてしまった。

「ところで、キルミースさんは、私に何か用事があられたのではないですか?」

動揺を隠そうと、私はキルミースさんに聞いた。

「ああ、そうでした。神からの知らせが届きました。今から広間で皆に伝えるつもりです。ニーナも一緒に来てください」

キルミースさんの後について歩く。

『主様がいらっしゃいました』

声が告げ、扉が両側に開く。

来てすぐの時は自動ドアかと思ってたけれど、ちゃんと開けてくれる人がいるんだ。

 

 広間の中に進む。

広間中が人影で埋めつくされていた。

大きさも影の濃さも様々。

その影たちの視線がキルミースさんと私とに注がれていた。

「神より、知らせがあった」

冒頭のあいさつなし?!

いや、さっさと用件を伝えてくれるのはありがたいことなんだけど。

「結論から言う。神は、私の願いをかなえてくれる。皆に姿を与えてくれるとおっしゃった」

ざわざわとした気配が影たちから感じられる。


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