第15話

 「ここが最後の石碑ですね」

「とうとう最後……なんですね」

石碑の前に立ったキルミースさんは、丹念に石碑の文字をなぞり、読み取っていく。

今回も少し時間がかかっている。

「いいですか?『まんざいをきいたときいちばんうごくのはいずこ』と、書いてあります。これも謎解き、でしょうか」

 

 ……最後の最後まで謎解きと言うかなぞなぞというか。

よくもまあ、こんな変な問題ばっかり考えつくわね。

それも、すべてキルミースさんにはわからないことが問題文になってる。

三個目の石碑のも知らなかったらしいし。

私でなくても誰かの手助けがないと、絶対解けなかったんじゃない?だいたい石碑をキルミースさんたちでは読みにすら行けない場所に設置している時点で、なにかの嫌がらせ?って思っちゃうわ。

神様は願いをかなえる気なんてないんじゃないかって疑っちゃう。


 それはさておき、謎を解かないとね。

まんざい、あとに続く言葉が聞くだからおそらく漫才なんでしょうよ。

いちばん動くのは……ウケる漫才聞いたら、おかしくておなかを抱えて笑っちゃうから、おなかかなぁ?

「キルミースさん、ひとつ思いついたものがあるので試してもらっていいですか?おなか、でお願いします」

「おなか、ですね」

キルミースさんが石碑に向かって答えを告げる。

……いつもだったら瞬時に光りだす文字が一向に光る気配がない。

え?不正解?

「違うようですね」

「ご、ごめんなさい!だったら……」

笑う、笑う……肩をふるわせて笑うって言う言葉もあったわよね。

「キルミースさん、今度は、かたでお願いします」

「かた、ですね。わかりました」

 

 でも、石碑は反応してくれなかった。

二回続けてハズレるなんて。

沈黙が、重い。

笑う……動く……ほっぺた?

でも大笑いの時は、そんなに動いてないわよね。

口をあけて笑いだす最初の時に動くだけだもの。

口か、ほっぺたか……まさかの笑い声、つまりは喉か。

ここでも三択……いいわ、女は度胸よ!

まさか回答権は三回なんて言わないでしょうし。

「キルミースさん、今度は、くちでお願いします」

 

 キルミースさんが石碑にくちと告げる。

途端に文字が光りだし、石碑がまぶしく輝いた。

「よかった。正解みたいですね」

キルミースさん、すごくほっとしたように見える。

「……ニーナに伝えそびれていたのですが」

「なにを、ですか?」

「実は石碑の謎への回答を三回間違うと、それまでの石碑の正解も無効になると神から伝えられていたのです。二巡目からの試練は内容がすべて変更されるとも」

え?え?え?それって、さっきの答えが間違っていたら、イチからやり直しだったってこと??

うわ……冷えた、めちゃくちゃ冷えた。

寿命が百年くらい縮まった気分だわ。

「……ほんと、よかったです(最初に教えてもらってたら、決められなかったわ)」

「ええ、私も安心しました」

 

 「これで、試練はすべてクリアできたんですよね。神様はどんな形で願いをかなえてくれるのでしょうね」

「それは、私にもわかりません。館に戻ったら、なにかわかるかもしれません」

舘までの帰り道、私とキルミースさんは当たり前のように手をつないでいた。

謎解きのために通った森の小道。

今度は散歩しながら手をつなぎたいな。



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