第12話

 不思議なものがあるんだなぁ、さすがは異世界。

口の中のシュワシュワの余韻にひたっていると、目の端になにかが動いたような気がした。

え?と思ってそっちを見ても、そこには誰も座っていないテーブルセットがあるだけ……?。

「!誰かいる?キルミースさん、あそこに誰かが座っているようなのですが、誰なんです?」

私が指さす方を見て、キルミースさんが答えた。

「あの人たちは、この世界の住民ですよ。みな、この館に住んでいます。この部屋は、住民たちの交流スペースなのです」

 

 さっきは、誰一人いなかったようなのに。

そういえばこの屋敷に来た時、廊下の両側のドアの向こうに気配を感じたけど、あれってこの人たちの気配だったのかしら?

改めて周りを見回して驚いた。

広間いっぱいにあるテーブルセットのすべてに誰かしらが座っている!

みんな影にしか見えないけど、たくさんの人がこの部屋の中にいた。

そしてその視線が、すべてキルミースさんと私が座っているテーブルに注がれているのを感じた。

 

 「皆に紹介しよう」

突然、キルミースさんが立ち上がって話し始めた。

よく響く美声にうっとり……。

「私は皆も周知のとおり、神より試練を与えられた。当初は困難な試練かと思われたが、幸運にも協力者を得ることができた。先ほど、一緒にひとつの試練を解決してきたところだ。皆にも、その協力者を紹介しておこう。ニーナ、立ってもらえますか?」

私に向けられた最後の一言に、はっとして立ち上がった。

「この方が、協力者ニーナだ。ニーナは協力者である以前に私の嫁でもある」

……何か、あいさつしたがいいのかな?と思ったけど、言葉が出てこず、お辞儀をするだけで終わってしまった。

ああ……マナー講習、もっとまじめに受けておけばよかった。

 

 「ニーナ様は、夜目がきくらしいの。だからキルミース様のお嫁様だしお夜目様でもあるのよ」

マオが言った。

おぉ……といったような感嘆のささやきがどこかしこから聞こえてくる。

でも、急に口をはさんだマオを咎め立てする声は誰からも出てこない。

キルミースさんをこっそり見ても、にこにこと笑っている……ように感じる。

主様の言葉の途中で口をはさんでもとがめられないくらい、自由な風潮なのか。

「そのとおり。私の嫁でだ。これより共に試練を超える助力をしてもらうゆえ、よろしく頼む」

パチパチパチ……

おそらくは拍手の気配。

「では、行きましょうか。ニーナ」

キルミースさんに促されて、私は広間を後にした。

私たちが座っていた席の真後ろにもドアがあったのだ

最初から、こっちの扉を案内してくれたらよかったのに。

広間を出たところで、キルミースさんは言った。

「この勢いでもう一か所……と言いたいところですが、やめておきましょう。部屋でゆっくりとくつろいで下さい」


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