第11話

 館に戻るまで、どちらも口を開かなかった。

それでもなんとなく、二人でだったら試練を乗り越えられそうな予感がしていた。

少しだけ、キルミースさんとの距離が縮まったようにも感じた。

私が勝手に思っているだけだろうけど。

館の前では、カロルとラムレアそしてマオが待っていた。

「お帰りなさいませ。キルミース様、ニーナ様。いかがでしたか?」

……今声をかけてくれたのは、多分ラムレア?

「出迎え、ご苦労。うまく解決できたよ。ニーナが謎を解いてくれたんだ」

「ニーナ様、すごい。さすがはお夜目様だわ」

「ありがとう、マオちゃ……マオ」

 

 「キルミース様、ニーナ様。お疲れでしょう、中へお入りください。マオが素敵なものを届けてくれたんですのよ」

これはカロルかな?

「そうか?マオ、なにを届けてくれたんだい?」

「それは、見てのお楽しみですわ、キルミース様」

クスクスと笑いながらマオが答える。

この子、ほんとよく笑う子だなぁ。

かわいい。

 

 案内された部屋は、私の部屋でもキルミースさんの執務室でもない広間のような広い部屋だった。

たくさんの大小さまざまな大きさのテーブルと、その大きさに見合った数の椅子がそれぞれ置いてある。

「キルミース様、ニーナ様。こちらへどうぞ」

そのうちの一つ、広間の一番奥の真ん中あたりにあり、向い合せに二人で座るように椅子が配置されているテーブルを示され、座るよう促された。

テーブルの上には銀色のボウルのような器が置いてあり、中にはふわふわした半透明のものが入っていた。

「おお、これを持ってきてくれたのか、マオ。これは、ありがたい」

「これは、なんなのですか?」

 

 初めて見るモノ。

食事が必要ないという世界なのに、おそらくは口に入れるものだよね?これ。

「これは、食物しょくもつではありません。口から摂取するという点では食物になるのでしょうが。ためしにひとつ食べてみませんか?きっと驚きますよ」

キルミースさんのすすめに、私はふわふわをひとつ指でつまんだ。

綿をつまんだようにふわふわしている。

おそるおそる口の中に入れる。

入れた瞬間に、消えるように溶けていった。

 

 「……甘い!おいしいわ、これ。これって、何かの実なんですか?」

「ニンゲン界で言う実とは少し違いますかね。私たちはイーマウと呼んでいます。館の周りの森の中にあるものなんですが、が分からないものなのです。見つけた時すぐに摘み取ると、こうやって置いておくことができますが、取りそびれるといつの間にか消えてしまうのです。マオは、これを見つける名人で、見つけるとこうやって持ってきてくれるのです」

「キルミース様が出かけられるというので、私も森に入ったの。そうしたら、こんなにいっぱい見つけられたんです」

「そうか。ありがとう、マオ」

うふふとマオが照れくさそうに笑っている。

そういえばまた三人とも立ったままだわ……慣れないなぁ、こういうの。

 

 「おもしろいことを教えてあげましょうか?」

キルミースさんが言った。

「もうひとつ、イーマウを食べてみてください」

おもしろいことってなんだろう?疑問に思いながら、もうひとつ口に運んでみた。

「!!今度は甘くないわ。いえ、美味しいのは美味しいんだけど、今度はシュワ~って……」

「それが不思議なところ、なんですよ。口にしたその時々で味わいが違うのです。食事は必要ありませんが、たまの気分転換として、私たちは口にしています」

「いつも味わいが違うなら……意図しない味に当たるということも?」

「それは、ありません。口にした本人が無意識に欲している味わいとなるようです。その仕組みは、私にもわかりません」

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