第8話
闇……。
私にとっては薄明るいこの場所を薄暗いと感じるキルミースさんたちには絶対なにがどこにあるかわからないよね。
せっかく授けてもらったこの眼が活かせるんだったら。
「わかりました。私でよければ、お手伝いさせてください。ううん。お手伝い、したいです!」
私が同意すると、待っていたかのように執務室のドアが開いた。
入ってきたのはカロルとラムレア。
「お出かけの準備をお手伝いさせていただきます」
そう言ったのはどっちなんだろう?
たしかにね。
このふたりだけ見ていても、声を出さなければ見分けがつかないのだから。
見分けがつく姿がほしいと思うのは当然よね。
本人も、周囲も。
あれ、そういえば聞いてなかったような。
「あの、キルミースさん?」
「何ですか?ニーナ」
「ひとつ気になっていたのですが。私の姿ってキルミースさんやここの人たちに、どんな見え方をしているんですか?」
「ニーナの生前の姿は、私は知りません。でも、おそらく今私の目の前にいる姿そのものがそうなのでしょう。くっきりとしたふたつの目。あまり高くなく、丸くかわいらしい鼻。大きすぎない口、そして髪の間からのぞく耳。髪はショートなんですね。よく、似合ってますよ」
私の生きていたときの見た目そのものを、キルミースさんは言い当てた。
と、いうことは。
私は誰が見ても私とわかるこの世界唯一の存在ってこと?
「私が、
もしかして姿があってキルミースさんの嫁である私って、妬まれ対象?。
ヒトの感情って、生死関係ないのね。
「では、早速ですが行きましょうか」
「はい!あ、書くものとかないんですか?」
「書き写す道具は、ないのです。石碑まで連れて行っていただければ、私が直接触って読みます。何が書いてあるかわかりませんが、ニーナはその謎を解いてください」
「わかりました。私で解ける謎だとありがたいですが」
一日ぶり?に館の外に出た。
睡眠……は取ったけれど、食事も摂らずトイレも行かず、時間に縛られない過ごし方って悪くないかも。
生きているときって、食事だの何だのってずいぶん無駄な時間過ごしてたのね。
館の周りには広場があって、その向こう側はぐるっと森に囲まれていた。
「では、まいりましょうか」
キルミースさんが声をかけてきた。
「はい。とはいうものの、行くといってもどちらの方角に行けばいいのですか?」
「方角ではありません。館の四隅より森のほうへまっすぐ進んでいくと、自然と道が開けていくのです」
そんなものなのか。
便利だなぁ。
道に迷う心配がないなんて。
「わかりました。では、まずどの角から出発しましょうか?」
「そうですねぇ……」
キルミースさんが考えていたその時、どこからか女の子の声が聞こえた。
「キルミース様!お出かけされるんですか?」
少し高めの、幼い声。
声がしたほうを見ると、小さな、私の胸くらいの背丈の影が立っていた。
キルミースさんよりも少し薄い感じかな。
「その声は、マオですね」
「はい。あ……」
少女が私のほうを見て首をかしげている。
そりゃそうよね。
初めて見る珍しい姿をした誰かがキルミースさんと一緒にいたら、疑問に思うのも当然だわ。
私は彼女にどのような反応を返したらいいかわからなくて、とりあえずにっこり笑って会釈をした。
……少なくとも生きていたときはこれで乗り越えてたからきっと大丈夫。
「ああ、そうだ。ニーナとマオは初対面でしたね。ニーナ、この子はマオといって、館に住んでいます。マオ、この人はニーナ。私の嫁で、私の使命を手伝ってくれる人です」
「はじめまして、マオです。ニーナ様、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
きっと、かわいらしい子なんだろうな。
「こちらこそはじめまして。マオちゃん。どうぞよろしくね」
「マオ、と呼んで下さい。ニーナ様」
……様って呼ばれるの、やっぱり調子が狂うなぁ。
「わかったわ。改めてよろしくね、マオ」
にっこりと笑った……気がしたマオはさらに続けた。
「ニーナ様がキルミース様のお手伝いをされるということは暗闇でものを見ることができる、ということなんですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます