第7話
「私は、神に願いました。こんな薄暗い世界ではなく、もっと明るい世界に暮らしたいと。でも、それは叶いませんでした……私たちの存在の特異上、しかたがないことですね。そこで、せめて個々人が特定できるような姿……こんな薄暗い場所でも誰だかわかるような見た目が欲しい。こんな存在でもニンゲンとして生きていた時期があるのだからと」
「それで、どうだったのですか?神様の回答は」
「姿を授けてもらうのは、許可していただきました。ただ」
「ただ?」
「それには条件があると」
「条件?」
「ええ。無条件に与えるのはたやすいこと。だがそれではいずれ、姿を得た有難みを忘れるであろう。よって、試練を与える……と」
試練……こういっちゃなんだけど、意地悪な神様だな。
そんなことしないでさっさと与えてあげればいいじゃない。
ワシのことを末代まで崇め讃えよとでも言ってさ。
そんなことを考えてしまった。
「その試練は、誰が与えられたのですか?ここに住む全員?それとも誰か特定の人?」
「私ひとりに、ですよ。ニーナ」
「えぇ!キルミースさんひとりに、ですか?」
「そうです。私はここを治めているものです。みなのために動くのは当然でしょう」
うわぁ……理想的な統治者。
こんな上司のもとでだったらサービス残業でも何でもしちゃいそう……あのバイト先のバカ店長にキルミースさんのつめの垢でも飲ませてやりたい!!
「私ひとりで試練に立ち向かう。そのことは全然かまわないのですが、いざ実行しようとしたときに問題が生じたのです」
「問題、ですか?」
「ええ。試練そのものは大した内容ではないのです。この地にある四つの石碑の謎を解くこと。私は統治者ゆえ、あらゆる時代の文字と言語を読むことができます。もちろん話すことも。石碑に刻まれた文字が私の知識内のものであることは、神が約束してくれました。いかに試練といえども、全く不可能な試練は与えずにいてくれたようです」
「でも、問題があるんですよね?。どんな問題なのですか?」
「試練を与えられてすぐ、私は行動にうつりました。ああ、石碑の場所も教えていただいていました。その場所に到着するまでは何の問題も起きませんでした。この世界には魔物も魍魎もいませんからね。でも」
「でも?」
「私には石碑に近づくことができなかったのです」
「なにかに邪魔されたのですか?見えざる力だったり……」
「そうではありません。もっと単純なこと、物理的に近寄ることができなかったのです。そのときは一旦、諦めました。だが、そんなに簡単に諦める事などできるはずがありません。私は更に神に頼み、協力者となる嫁を迎え、共に試練に立ち向かう許可を得ました。そののちルケッヘに依頼し……結果としてニーナがこの地に来てくれたのです。私と一緒に石碑の謎を解きに行ってくれますね?ニーナ」
キルミースさんの頼み……聞いてあげたい。
でも、その問題というのが気になる。
「あ、えっと。私でできることだったら、なんだってお手伝いします。でも、その問題というのが気になって。私なんかでどうにかできるものなんですか?キルミースさんにも越えられなかった問題なんでしょう?」
「ニーナにはできます。いやむしろ、ニーナにしかできないことです」
私にしかできない……すっごく高く評価してもらっちゃってるけど。
「私にしかできないって。いったいどういう場所なんですか?」
「そこは闇なのです。私では石碑の文字を読み解くどころか、石碑までたどりつくこともできません。だから、私の目となって一緒に来てほしいのです。」
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