第5話

 「それから、ニーナは私にをつける必要はありませんよ。私と同等になるのですから」

「あ、はい。でも、そうしたら、私は何をしたらいいんです?」

「ニーナは、常に私と一緒にいてください」

「それだけ?ですか?」

「ええ」

そういってニッコリと笑ったようだった。

影だけで表情なんて見えないのに……。


 キルミースさんとの会話はそこで終わった。

「今日はお疲れでしょうから」と退室をうながされたのだ。

部屋を出ると、そこにはふたつの影が立っていた。

「カロル、ラムレア。お前たちがニーナ様につくことになったのか?」ルケッヘが二人に気づいて声をかけた。

「ええ、私たちがほぼ同年代だろうということで」カロルと呼ばれた影が言った。

声の感じから女性っぽいけど。

そして私の方を向いて言った。

 

 「ニーナ様。私どもカロルとラムレアがニーナ様のお世話をさせていただきます。お困りごと等ございましたら、何なりとお申し付けください」

「あ……こちらこそ、よろしくお願いいたします。えっと、カロルさんとラムレアさんですね」

……みわけがつかないけど。

「カロル、ラムレアで結構です」

「いや、そんな呼び捨てだなんて失礼なこと」

 

 「そうしていただかないと、困るのは私どもです。ニーナ様にお仕えするのが私どもの仕事ですから」

うぅぅ……。

「わ、わかりました。カロル、ラムレア。よろしくお願いします」

「……できれば敬語もお使いいただかぬよう」

「は、はい。努力いたします」

そして彼女?たちふたりに連れられてひとつの部屋に案内された。

広い部屋……私が暮らしてたアパートの部屋の三倍くらいあるんじゃないかしら?

部屋の隅には大きめのベッドがひとつ。

真ん中あたりには、キルミースさんの部屋で見たものより小さめのソファセットがあるだけのシンプルな作りだった。

 

 「あのぅ……」

「どう、なさいましたか?」

「お手洗いとか、お風呂はどこに?」

「そのような施設はございません」

「え?ないの?」

「はい。ニーナ様含め、私どもには必要がないものでございますから」

そういえばキルミースさんが言ってたような……食事も衣類も必要ないって。

考えてみればのどの渇きも空腹も感じていない。

トイレに行きたいとも思っていない。

よくわからないけれど、そういうことなんだろう。

ベッドがあるということは、睡眠は必要ということなのかしらね?

 

 「それでは、ごゆっくりお休みくださいませ。なにかございましたら、こちらのベルを鳴らしてください。すぐにお伺いいたします」

カロルかラムレアのどちらかが、ベッドサイドのテーブルの上のベルを示しながら言い、部屋を出て行った。

お風呂もトイレもないのはわかったとして、そういえば時計も見かけなかったな。

いま、何時なんだろう?

左手にはめているはずの時計を見た……見ようとした。

でも、そこには何もなくて。

ポケットを探っても何も入ってなくて。

あきらめて、ベッドに入るためにジーンズを脱ごうとしたら……脱げなかった!

 

 「え?なによ、これ。脱げないってどういうこと?」

ジーンズはいたままなんて、苦しくて寝られたもんじゃないのは経験でわかってる……でも今日はスキニーじゃなくてストレートだから、何とかなるかな。

そう、思い直して脱ぐのをあきらめてベッドにもぐりこんだ。

なんだか、目まぐるしい一日だったな。

車にはねられたと思ったら、転生して嫁になれとか。

まさか長い夢を見てるんじゃないよね。

なにかのドッキリだとか。

そんなことを考えているうちに、いつのまにか眠りについていたようだ。

 

 どのくらいの時間がたったのだろう?

ドアをノックする音で目が覚めた。

「はい?」と返事を返すと≪失礼します≫とドアを開けて誰かが入ってきた。

女性の声……カロル?ラムレア?

「主様がお呼びです。執務室へとご案内いたします」

「あ、おはようございます。って、キルミースさんが呼んでる?……その前に顔くらい洗いたいのですが」

「必要がない行為でございます。こちらへどうぞ」

いつかは慣れるのかな?起きたらすぐに顔を洗って歯磨きしたいんだけど。

カロルもしくはラムレアについて廊下を歩く。

昨日?と同じく薄明るい廊下を歩いて扉の前についた。

大きな扉……昨日キルミースさんと初めて会った部屋だ。

ここが執務室?。

コンコン!

「主様、ニーナ様をお連れいたしました」



 

 

 






 


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