第3話
「……わかった。転生する。嫁入りする」
「それでいいのだな?」
「うん。勝手に嫁入り条件にされてるのはムカつくし、どこの誰とかもわからないのは気持ち悪いけど。かあさんたちが悲しむ方がもっとイヤ。転生したら、かあさんたちの記憶からいなくなる私だけど、私が記憶しているかあさんたちが悲しむのはいや」
「わかった。では、準備をはじめるぞ」
「うん」
「まずはなりだが、それは今のままだ」
「えぇ?そんなぁ。ラノベとかの転生では、ほら……スタイル抜群の美女とかに転生するものでしょ?こう……サラッサラのロングヘアとか」
「それは、ない。できないのではなく必要がない」
つまんない転生だなぁ。
「言葉に関しても問題ない。知識は、今、おまえさんが持っているものだけだ」
「それだけ?超能力や魔法が使えたりとかは?」
「それも、ない……ああ、そうだ。授けるものがひとつだけあった」
「なになに?なにを授けてくれるの?」
「おまえさんは[どんなにおいも嗅ぎ分けられる鼻]、[どんな味つけも再現できる舌]、[どんな暗いところでも見える眼]のどれかひとつを貰えるとしたら、どれを選ぶ?」
「ほえ??どんなにおいも嗅ぎ分けられる鼻]、[どんな味つけも再現できる舌]、[どんな暗いところでも見える眼]」
……突拍子なさ過ぎてオウム返ししちゃったけど。
におい……
味つけ……ちょっと興味はあるから保留。
暗くても見える……視力がいいってことなのかな?メガネなくても見えるってことなのかな?もしそうなら、嬉しいけど。
「ねぇ、暗いところでも見える眼ってさ。メガネ使わなくても見えるってこと?」
「まあ、そういうことだ。メガネのような補助器具がなくても見える」
「じゃあ、眼にする」
「承知した。では眼を授けよう」
そう、声が聞こえたかと思うと周囲の霧が私をすっぽりと包み込んだ。
気持ちの問題だろうけど……息苦しい!
息苦しさがなくなったと思ったら声が聞こえた。
「では、主様のところへ参るぞ」
「わかったわ。ねえ、主様って、どこに住んでいるの?」
もう、こうなったらどうとでもなれ!よ。
「主様は、こことおまえさんたちニンゲン界の境目にいらっしゃる」
「それって、異世界ってこと?」
「ニンゲン界からしたら異世界と捉えてよかろう」
私は声に導かれて霧の中を移動した。
視力がよくなっているかはわからないけれど、ふと触った鼻には慣れ親しんだメガネはのっていないようだった。
移動も自分の足で歩くのではなく、動く歩道を使っているときみたいにスーッとなめらかに運ばれていた。
結構な時間移動していると思うのに、周囲の景色は少しも変わらない。
トッ……となにか軽いものにぶつかったような感じがしたと思ったら、急に霧が晴れて周囲がはっきりと見えるようになった。
明け方か夕暮れか……そんな薄明るい光景。
足元も、もう動いていない。
「着いたぞ」
声がしたほうを見ると、そこにはニンゲンに似た姿をした影が立っていた。
「あなたが、番人さん?……影みたいにしか見えないんだけど?」
「我の姿が見えるのか。さすがは眼だな」
「?どういうこと?」
「……それよりも、まずは主様のところへ案内しよう」
今度は自分の足で歩いて移動するらしい。
着いてすぐは気がつかなかったけれど、ひろびろとした敷地の一番奥にかなり大きな建物があるようだった。
中央の玄関っぽい装飾がある両開きの扉の前に立つと、音もなくドアが開いた。
外と同じくらいの明るさしかない廊下を歩いて奥へと進む。
明かりとか、ないのかしら?
そういえば窓もないのね。
廊下の両側には何枚も扉があって、中に誰かいるような気配はするけれど、どの扉も開かなかった。
数十メートル(!?)ほど進み、突き当りにある玄関とは違って装飾が何もない両開きの扉の前で立ち止まった。
コンコン
影……番人さんがドアをノックした。
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