最終話:解決……?
「ああ、あっちにもこっちにも埃がありますねぇ! 急いで掃除しないと、皆さんの健康が害されてしまいます!」
「ま、待ちやがれ、このクソ尼が……ま、待って」
ソレイユはアルバンや団員たちの追跡を避け、屋敷中を掃除して回る。
彼女が通った道は黄金のように光り輝き、塵一つも残らなかった。
アルバンたちはソレイユのスピードについていけず、すでに体力の限界が近い。
彼らが対処に辟易していると、勢いよく屋敷の扉が開かれた。
「おい、“夕闇の獅子”! ソレイユを誘拐しやがったな!」
「「シ、シルフ! カ、カチコミだぁっ!」」
シルフたちがアジトに踏み込む。
“夕闇の獅子”の計画は、ソレイユを縛り上げ、心理的にも条件的にも有利に立つつもりだった。
だが、ソレイユの至って普通の行動により、早々に破綻してしまった。
むしろ、彼女により体力は限界が近く、ろくな準備もできていない。
ソレイユはシルフを見つけると、満面の笑みで手を振った。
「あっ、シルフ様! 遊びに来たんですかぁ?」
「遊びじゃなくてカチコミ! お前ら、ソレイユを取り返せ!」
シルフの号令により、“夜の悪霊”はソレイユの元へ突っ込む。
無論、それを妨害しようと“夕闇の獅子”は立ちはだかる。
両者は正面切っての大規模な戦闘となった。
剣を振るい、斧を振り回し、互いに互いを攻撃する。
激しい戦いなのだが、ソレイユの目には遊んでいるようにしか見えず、乱闘ごっこのような微笑ましい気持ちで眺めていた。
(怪我するくらい遊んじゃうなんて、みんなは仲が良いんだろうなぁ)
流血ははっちゃけすぎによる怪我だと認識してしまうが、すぐに治しまわっていた。
「大丈夫ですよ! 今治しますからね! <聖女ヒール>!」
ソレイユは怪我した団員を治癒しては、乱闘ごっこ(ごっこではない)に送り出す。
戦っては無理やり回復させられ、さらに戦わされる。
その繰り返しを送るうち、体は激しく健康なものの、先に心が疲れ切ってしまった。
誰からともなく戦闘を止める。
はぁはぁ……と息も絶え絶えになっていると、また別の男たちが屋敷に入ってきた。
先頭にいるのは赤い髪の男。
ソレイユはこの人たちも奉仕活動に従事する人物なのかと、ワクワクしながら眺める。
「王国騎士団、セフォン支部だ! 乱闘騒ぎの通報を受け参上した!」
ギャング同士の抗争により、近隣住民が騎士団に通報したのであった。
だが、ロジェは屋敷の状態を見てピタリと止まる。
激しく戦っているはずのギャングたちは静かに佇んでいた。
ソレイユが即座に拭き取っていたので、血の痕跡もない。
全く予想もしていないことに、ロジェたちは拍子抜けした。
「「乱闘なんかしてないっす……」」
シルフやアルバン、団員たちは静かに告げる。
本来騎士団のミスなら、シルフやアルバンは揚げ足を取って取って取りまくるのだが、両者にそんな元気はなかった。
「さあ、帰るぞ、ソレイユ!」
「あっ、で、でも、まだお掃除が……」
「そんなの放っておけ!」
シルフはソレイユの手を握り、力強く引っ張っていく。
一秒でも早くここから連れ帰りたかった。
「みなさん、さよーならー! また来ますからねー!」
「挨拶などせんでいい!」
ソレイユは馬車に押し込まれ、“夜の悪霊”へと帰宅する。
□□□
「心配して損した!」
アジトに帰ると、シルフは自室にこもってしまった。
ドアは開けっ放しだったので、ソレイユは外から声をかけることができた。
「シルフ様、どうして怒っているのですか?」
「怒ってない!」
シルフはガバッと毛布を頭から被る。
それがせめてもの抵抗だった。
“夕闇の獅子”に誘拐されたと知ったとき、彼は激しく動揺した。
自分たち以上に極悪と聞くギャング団だ。
心配だったのに、件のソレイユは嬉々として掃除をしていたらしい。
まったく苦でもないという具合に。
(自分の心配はなんだったのか)
初めてのやるせない思いを感じ、シルフはベッドに潜り込んでしまった。
ソレイユは純粋な疑問を感じ、傍らのパッチアイに尋ねる。
「あの、シルフ様はどうされたんでしょうか」
「団長、ああ見えて繊細だから……」
「繊細……」
彼女の呟きは虚空に消える。
ソレイユの誘拐は一件落着で終わり、また明日からは騒がしくも楽しい日々が始まるのであった。
■後書き■
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
読者様のおかげで、無事最後まで書くことができました。
ソレイユたちの人生は、この先も続いていくことと思います。
最終話となりましたが、★やフォローなどで応援いただけると本当に嬉しいです!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
ギャングに嫁がされた聖女様は今日も人助け!……をギャングにさせる~極悪非道と言われてますが、皆さんとても良い方でした!(極めて激しい勘違い)~ 青空あかな @suosuo
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