第8話:奪還へ向け

「<聖女ヒール>! 具合は大丈夫ですか!?」

「おい、いつまで回復魔法使ってんだ。おとなしくしやがれ。お前は俺たちの人質になるんだよ」

「<聖女ヒール>!」

「だから、もういいって! やめろ!」


 見知らぬ馬車に連れ込まれた後も、ソレイユはずっと<聖女ヒール>をかましていた。

 少しでも癒さなければ……! その一心だ。

 ソレイユは必死に治そうと回復魔法をかけるが、男は抵抗する。

 攻防戦を繰り広げたまま、馬車はまた別のギャングのアジトへ着いた。

 男はどうにかしてソレイユを下ろす。


「ここはどこですか!? とても豪華なお屋敷ですが!」

「いいから進んで!」


 ソレイユは屋敷に連れて行かれ、巨大なロビーに案内された。

 そこにもまた大勢の男たちが。

 制服が新しくなる前のシルフたちと似ている風体だった。


「だ、団長、聖女の人質を連れてきました……。シルフの嫁です……げほっ……」


 馬車の男が力尽きるように告げると、奥から一人の男が歩いてきた。

 周囲の団員たちはすぐさま横に避け、規則正しく並ぶ。


「ようやく来たか」


 男の名はアルバン。

 銀色の短い髪に、同じく銀色の鋭い瞳。

 彼らもまたギャングだ。


 ――“夕闇の獅子”。

 

 “夜の悪霊”とは敵対関係にあり、両者は長い間睨み合っていた。

 今宵、聖女であるソレイユを誘拐し、シルフたちを壊滅もしくは吸収するつもりだ。


「いいか? まず、お前の立場を教えてやる。お前は俺たちの人質だ。“夜の悪霊”のシルフをぶっ潰すために誘拐した。縄で縛って動きを……」

「わかりました! では、さっそくお掃除しますね!」

「なに!?」


 ギャングと聞いた瞬間、ソレイユの頭の中では良い人の集団という認識になってしまった。

 シルフたちと同じように。


「ご心配なく! 掃除用具の場所はすでにわかっていますので!」

「ま、待てっ! 勝手に動くな! おい、お前らそいつを止めろ!」

「「あ、いや……俺たち、女の子に触ったことなくて……」」

「知るかあああ!」


 ソレイユは箒片手に屋敷中を駆け回る。

 アルバンたちもまた女性に触れたことはなく、免疫らしい免疫もない。

 予想と違う人質に、彼らもまた振り回されるのであった。


◆◆◆


 ソレイユが誘拐先でも掃除を始めたとき、まずシルフが異変に気づいた。


「おい、ソレイユはどこだ?」


 シルフと団員たちは屋敷中を探しまくるが、ソレイユの姿は見えない。

 探し終わったところで、ドアの下から手紙が差し込まれていることに気づいた。

 シルフは中身を読むが、徐々に怒りに身を震わせる。

 パッチアイが団員を代表し、おずおずと尋ねた。


「だ、団長、どうしたんで?」

「ソレイユは……誘拐されたらしい」

「「ええ!?」」


 シルフが告げたことに、団員たちは驚きの声を上げる。

 そしてその直後、彼らは武器を取り……パッチアイは眼帯を締め……“夕闇の獅子”のアジトに向かうのだった。

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