第9話 その咆哮の正体は!

 俺が漆田うるしだジュリアの誘惑に負けて、その褐色のHカップおっぱいにもう少しで触れてしまいそうになる、まさにその時だった。




 ―――グワァァァアアアアアアアッッ!




 その、今までのすべてをかき消すような凄まじい咆哮ほうこうが聞こえてきたのは。


 すると、すぐにこんな校内アナウンスが耳に飛び込んできた。


『緊急! 緊急! 校内に魔物が侵入。闖入者ちんにゅうしゃは、最新鋭の魔力測定器によりSSS(トリプルエス)級の魔物一体であると確認。周辺住民の安全のため、今から3分後に結界魔術で侵入してきた魔物を校内に閉じ込める。まだ校内に残っている受験者はただちに校外に出るように! 繰り返す! 校内に魔物が侵入・・・・・・』


 そのアナウンスに最初に反応したのは、僕の幼なじみの虹倉にじくらユウナだった。


「大変っ! SSS(トリプルエス)級って、の魔物だよ! 遭遇したら確実に殺されちゃう! それどころか下手したらこの学園も一瞬で破壊されちゃうかも! ほらっ! 何ぼーっとしてるの、おふさ! 早く逃げなきゃ!」

 

 そう言ってユウナは僕の手を掴んできたのだが、僕はそれでもそこから動くことをしなかった。


「何してるのっ? おふさっ? 早く逃げないとホントにヤバいよ! わかってるのっ?」


 焦りながらそう言ってくるユウナに僕はこう答えた。


「・・・・・・いや、ごめん。・・・・・・僕は残るよ! SSS(トリプルエス)級っていったら、一生冒険者やってても出会えないような超レアな魔物でしょ? ここで見逃すのは絶対もったいないよ!」


 きっと魔法使いのおじいさんだって同じことを言っていたはずだ(年を取っていても好奇心に満ちあふれた人だったのだ)。


「何バカなこと言ってんのっ? もったいないもなにも殺されちゃったらどうしようもないでしょ?」

 

 僕がユウナに呆れられながらそうさとされた直後、ずっと黙り込んでいた漆田うるしだジュリアがやっと口を開いた。


藻見川もみかわ、いや、! いいじゃんかっ! ・・・・・・お前、とんでもない命知らずじゃんっ! よし! ますます気に入ったっ! 特別にこのジュリア様も一緒に残ってやるっ!」


 すると、その言葉に反応してすぐにユウナが声を上げた。


「何言ってるのっ? あんたまで! SSS(トリプルエス)級だよっ! 遭遇したら死んじゃうかもしれないんだよっ? うんん、確実に殺されちゃうっ! わかってんの? 二人ともっ?」


 それに僕が何か答える前に、漆田うるしだジュリアが再び口を開いた。


「将来冒険者になってガッポリ稼ごうってやつが何ビビってんだよっ! SSS(トリプルエス)級の魔物なんて動画撮影できただけで、もしかしたら億万長者になれるかもしれねえんだぞ? お前こそ、そこんとこわかってんのか?」


「わかるわけないでしょっ? バカじゃないの? ・・・・・・おふさも同じ意見なの? そう・・・・・・じゃあ、あたしは一人で逃げるからね。・・・・・・もう、おふさなんか知らないっ!」


 寂しそうにそう言って握っていた手を離したユウナを見て、僕は一瞬決意が揺らぎそうになったが、それでもSSS(トリプルエス)級の伝説クラスの魔物をこの目で見たいという魔法使いおじいさん譲りの好奇心には勝てなかった。





         ◇





「・・・・・・つーか、お前、あんな別れ方して大丈夫だったの? 幼なじみじゃんね? あの女?」


 凄まじい咆哮ほうこうが時折聞こえる方角に向かって並んで走っている途中で、漆田うるしだジュリアが全然キャラに似合わないことを言ってきたので、僕は驚いて、うっかり本音を口走ってしまった。


「・・・・・・たぶん、全然大丈夫じゃないと思う」


 そう答えると、


「だよなぁ!」


 と言って、漆田うるしだジュリアは爆笑し始めた。


 それがなんだか無性にムカついたので、僕は負け惜しみみたいにこう言ったのだ。


「・・・・・・でも、ユウナをちゃんと避難させられたのは良かったかな」


「はっ? なにっ! それ? カッコつけやがって! そんなのたまたまじゃん? の手柄でもなんでもないじゃんか!」


「・・・・・・それはそうだけど。・・・・・・ていうか、ずっと気になってたんだけど、そのって何?」


「何ってお前のあだ名じゃんか! もしかして・・・・・・ よりの方がよかったりした?」


 僕は思いっきり首を横に振った。

 なんだかわからないが、だけは絶対に嫌だった。・・・・・・なんか卑猥ひわいな響きだし。


「そっか! そっか! じゃあ、で決まりってことで! それじゃ、お前も全然あだ名で呼んでくれていいぞ!」


「あだ名って?」


「そりゃ、に決まってんじゃんか?」


「えっ? 嫌だよ、そんなの! なんで同級生のことを様付けしなきゃいけないの?」


「そうか? ・・・・・・じゃあ、仕方ねえなあ。特別に・・・・・・ジュリアって呼んでもいいぞ! あの、なんだ、その、幼なじみ・・・・・・いや、こっ、恋人みたいにっ!」


「へっ?」


 そんな情けない声を出してしまったその直後、僕はやっと気づいたのだが、話に夢中になっていた僕たちはいつの間にかそのSSS(トリプルエス)級の魔物に驚くほど接近してしまっていたのだった。

 

 



 ―――グワァァァアアアアアアアッッ!





 すぐ近くで聞く咆哮ほうこうは、本当に今まで聞いたどんな声よりも恐ろしく暴力的だった。


 

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第9話も最後までお読みいただきありがとうございます!


もしちょっとでも「なんかおもしろそう!」「これは期待できるかも!」と思っていただけましたら、最新話の後に☆☆☆評価をしていただけるとめちゃくちゃうれしいです!

作品フォローもぜひお願い致します!

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