第10話 ラストヒロイン登場!



 ―――グワァァァアアアアアアアッッ!


 


 すぐ近くで聞く咆哮ほうこうは、本当に今まで聞いたどんな声よりも恐ろしく暴力的だった。


 そして、僕はその魔物の姿を見てすぐに、これはブラックドラゴンなのだと感じていた。


 おそらくと言ったのは、子供の頃に夢中で読んでいた魔物図鑑なんかに載っている魔界でも特別重要な存在と言われているドラゴンは、ブルードラゴン、レッドドラゴン、イエロードラゴン、ホワイトドラゴン、そしてブラックドラゴンの五種なのだが、どの図鑑でもブラックドラゴンだけはという文言が記されていたからだった。

 つまり、まだ誰も本物のブラックドラゴンをその目で見た者はいないわけだ。


 そんな幻の生物と言っていい、そのいかめしく巨大な魔物に睨み付けられ、僕は情けなくも身動きひとつ取れずにいた。


 その時であった。




 ―――バタンッ!




 という派手な音が後ろから聞こえてきたのは。


 振り返ると、なんと、漆田うるしだジュリアがウルトラウォッチに手を添えたまま(どうやら動画撮影しようとしていたらしい)口から泡を吹いて仰向きに倒れていたのだった。


 僕がその事態に完全に動揺してしまっていると、かなり上からこんなが降ってきた。


「・・・・・・下世話なことを言うようじゃが、今ならその胸揉み放題なのではないか?」


 一瞬、むっつり巨乳好きの自分の心の声が聞こえてきたのかと思ったのだが、もちろんそうではなかった。


 その声は低く、威厳に満ちた恐ろしいもので、明らかにブラックドラゴンのそれだった。


 それで僕がその言葉の真意を確かめようと再度巨大な漆黒の幻の竜のいる方に顔を向けると、なぜか、そこにはただの青い空が広がっていた。


 僕がそのことを不思議がっていると、想定よりずっと低い位置からこんな声が聞こえてきた。


「ここじゃ! ここじゃ!」


 口調こそ同じだったが、その声音は恐ろしさを一切感じないかわいらしいものに変わっていた。

 それを変に思いながらもその声がする方に目線を下げてみると、そこには漆黒の巨大な幻の竜はおらず、代わりに黒いゴスロリ服(ところどころアクセントとしてピンクのレースが施されている)を着た前髪パッツンの黒髪ツインテール少女が立っていた。


 ここで、君にだけは告白するけど、その少女はこの日に会った全ての女の子の顔を一瞬で忘れてしまうくらい、僕の好みにドンピシャの超絶美少女だったのだ。


「えっ? ブッ、ブラックドラゴンは?」

 

 と、僕がモロタイプのその超絶美少女に問うと、


「何を言っておる? 貴様の目の前にいるではないか。われこそが大魔界最強生物、ブラックドラゴンじゃ!」


 と彼女は答えた。


「ふぇっ?」


 僕は全く状況が理解できず、またしても情けない声を出してしまった。


 しかし、黒髪だからわかりにくかったが、よく見るとその頭からは二本の小さくてかわいい黒いつのが生えているのがわかった。


 つのがあるってことは本当にブラックドラゴンなのかも知れない。


 そんなふうに思っていると、そのゴスロリのモロタイプの超絶美少女は、僕の顔を覗き込むように見ながらこう言ったのだ。


「見れば見るほど貴様はこれ以上ないほどのアホづらじゃなあ! 貴様は今、命の危機にひんしておるのじゃぞ! われに殺される前にその女の胸を揉まんでもよいのか? どうせそのアホづらではまともに女の胸を揉んだこともないのじゃろ? その女もすぐにわれに殺されてしまうんじゃから、どれだけ揉んでも怒られる心配はないのじゃぞ! ほれ、貴様も男なら素直に揉め! 恥ずかしいならわれは目をつぶっていてやってもいいぞ!」

 

 そう言う、その自称ブラックドラゴンのゴスロリ超絶美少女の胸はなかった。


 はっきり言って、


 だから僕がはついこう口走ってしまったのだ。 


「・・・・・・もしかして、自分に胸がないから、巨乳の彼女が憎いの?」


 どう考えても失言だったと思う。

 

 でも、言い訳をさせてもらえるなら、僕はあの時ひどく動揺していたのだ。

 

 ついさっきまで確かにいたブラックドラゴンが消えて、代わりに自分の好みを見透かされているみたいなモロタイプの超絶美少女が目の前に現れたら、誰でも(そう、君でも)訳のわからないことをうっかり口走ってしまうんじゃないだろうか。


 とにかく僕の言葉を聞いて、彼女の華奢きゃしゃな体はプルプルと震えていた。


 おそらくその自称ブラックドラゴンのゴスロリ超絶美少女は激怒していたのだと思う。


 その証拠に彼女はこう叫んだあと、でその小さな口を全開にした。




 

 ―――ブラック・インフェルノ・アローッッ!




 すると、彼女の小さな口から漆黒の矢が放たれた。

 そして、その矢はものすごい勢いでこちらに向かってくる間に、どんどんと巨大化していった。

 

 


 でも、なぜか僕はその時、妙に冷静だったのだ。

 その矢のスピードがとても人間が避けられるレベルではないことも、その巨大化した矢が僕だけでなくこの学園全体(もしくはこの街全部)を吹き飛ばしてしまうような凄まじい破壊力を持っていることもすぐに理解できた。


 

だから僕はその矢をのだ。

 

 

 それが、も一切知らずに。


 

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第10話も最後までお読みいただきありがとうございます!


もしちょっとでも「なんかおもしろそう!」「これは期待できるかも!」と思っていただけましたら、最新話の後に☆☆☆評価をしていただけるとめちゃくちゃうれしいです!

作品フォローもぜひお願い致します!

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