第47話 保健室にて

 結局、清水はホームルームが終わっても戻ってこなかった。


 そんな中、帰りに礼二さんが俺を名指しで呼び出す。


 俺はそれに従い、ひとまずひと気のない場所までついていく。


「さて、この辺りなら良いか」


「って、俺がいつもいる場所じゃん」


「いや、元々は俺が教えた場所だから」


「そういや、そうだったね」


 一人になりたいという俺に、ここを教えてくれたんだっけ。


「あれから、もう一年以上か」


「それより、どうかした?」


「何かあったって訳じゃないが……清水が少し落ち込んでいてな」


「清水が? ……何かあった?」


 具合が悪くて、保健室にいるとしか聞いていない。

 その言い方だと、他にも何かあったらしい。


「俺も詳しいことは聞いてないんだが、昼休みに生徒会室で一悶着あったらしくてな。どうやら、生徒会長と少し揉めたらしい。それも、他の生徒会のメンバーがいる前でな」


「生徒会長と? ……あの清水が珍しいな」


「そう、そこなんだよ。お前がどこまで知ってるかはわからんが、あの子は自分を押さえつけて学校生活を送っている。担任である俺と、少数の先生しか知らないが……色々あるんだよ」


 そういい、頭をぽりぽりとかく。

 俺の知ってる清水は、猫被りをしていることくらいだ。

 他にも、何かあるのだろうか?


「それで、俺を呼んだとのどんな関係が?」


「あぁー……本当は親を呼んだり、先生が送っていくのがベストなんだ。ただ、本人が嫌がってな。と言うわけで、お前が送っていけ」


「……もちろん、俺で良いなら良いけど。清水が遠慮するんじゃないか?」


「それは俺にもわからん。ただ、お前なら弱みに付け込んで変なことをすることはない。俺が適当にやるから合わせろ」


「……わかった、やってみるよ」


 そして俺は、礼二さんと一緒に保健室に入る。

 そこには女医の先生と、ベットに座る清水がいた。

 静かに入ったからか、まだ俺には気づいていない。


「ねっ? お父さん呼びましょ?」


「よ、呼べないです」


「じゃあ、お母さんとか」


「それも無理です」


「じゃあ、女の子の友達とか……」


「私、平気です。このまま、一人で帰りますから」


「困ったわねぇ……流石に、一人じゃ帰せないのよ」


 清水はイヤイヤと首を振っている。

 その姿は、まるで小さい子供のようだ。


「清水、彼氏を連れてきたぞー」


「ふぇ? ……逢沢君!?」


「……よう、具合悪いんだって? 大丈夫か? ったく、俺に連絡しろっての」


 なるほど、そういうことね。

 俺はなるべく自然体になるように振る舞う。


「あらあら! 清水さん、彼氏さんがいたの?」


「えっ、あっ……な、内緒にしてください」


「ふふ、そうよね。貴女、人気者だもの。でも、それなら安心ね」


「すみませんね、俺しか知らないんで。とりあえず、車で送ってきます」


「ええ、お願いします」


 戸惑う清水の手を取り、保健室を出る。

 そのまま裏口から出て行き、礼二さんの車に乗せた。

 そして、俺も一緒に後部座席に乗る。


「ふぅ、これでよしと。すまんな、優馬。担任とはいえ、女子生徒を一人で送っていくのはだめなんだよ」


「あぁー、色々とうるさい世の中だしなぁ」


「そういうことだ、清水も悪かったな。俺には、あれ以外に方法がわからなかった」


「い、いえ! ……助かりました。ただ、逢沢君は良かったの?」


 ……そうか、先生の前だし猫を被ってるのか。

 俺は礼二さんの前だから自然体だし、色々とややこしいな。


「俺は別に構わない、ただのフリだしな。流石に言いふらすようなことはしないでしょ」


「ああ、そこは信用していい。あの人は昔から知ってるが、そういうことは言わない人だ」


「確かに、私にも親身になってくれました。ちょっと、それで困った部分はありますけど」


「まあ、そう言うな。先生にも義務があるから……さて、それじゃ行くとするか」


 そうして、車は走り出す。


 清水は少し落ち着いたようで瞳を閉じる。


 俺は邪魔をしないように、ただ黙って外の景色を眺めるのだった。

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