第48話 家にて

 結局、一言も話さないまま走り続け……とあるマンションの前に到着する。


 結構立派で、オートロックがついてるようなところみたいだ。


「清水、ここで住所は合ってるか?」


「は、はい、ありがとうございます」


「優馬、部屋まで送ってやれ」


「はい? いや、俺は良いけど……」


 それは流石にまずいのでは?

 そう思い清水を見ると……意を決したように顔を上げた。


「逢沢君、ついてきてくれる?」


「……わかった」


「それじゃ、頼んだ。俺は車でゆっくり待ってるからな」


 そして車内から清水を下ろして、軽く支えるように歩き出す。

 清水に玄関を開けてもらい、そのままエレベーターに乗った。


「……ごめんなさい」


「別に気にしなくて良い」


「……何も聞かないの?」


「話したいなら聞くし、話したくないなら良いさ」


 礼二さんから聞いてやれと言われたが、だからといって本人が話したいかは別だ。

 どんな事情があるかはわからないが、それを無理に聞くことはない。


「……今日は時間あったりする?」


「ん? ああ、俺は別に平気だ」


「それじゃ、少しうちに寄ってくれる?」


「……おう」


 その後、話すことなく四階に止まる。

 俺は大人しく後をついていき、清水がとある部屋の前で止まる。

 そして鍵が開いて……真っ暗な部屋が見えた。


「入って良いわよ」


「お、お邪魔します」


「えっと、電子をつけてっと……とりあえず、リビングにあるソファーに座ってくれる?」


「……わかった」


 そして、清水が玄関近くにある扉の中に入る。

 俺は通路を抜けて、リビングへと向かう。

 高校生になって、女子の家に初めて入るので流石に緊張してきた。

 俺はなるべく意識しないようにして、リビングの中に入る


「……なんだ、ここは?」


 そこには二人掛けのソファーに、その前に小さなテーブルと絨毯。

 小さいテレビと、観葉植物などがある簡易的な光景だった。

 広さはオープンキッチンタイプで、広さがあるだけに寂しい。


「いや、別にそれ自体は変じゃない。そういう家があってもいい。これは……なんだ?」


 ……わかった、

 これは、まるで一人暮らしの部屋だ。

 俺はひとまずソファーに座り、改めて辺りを見回す。


「生活感のある感じもしない。清水は、こんな所で暮らしているのか?」


「驚いたでしょ?」


 振り返ると、いつの間にか部屋着の清水がいた。

 上下黒のスウェットで、めちゃくちゃラフな格好だった。

 そして、そのまま俺の隣に座る。


「……これを見せたかったのか?」


「そうよ……私、ここで一人で暮らしてるの。数年前にお母さんが死んじゃって、その後お父さんが再婚して……高校生に入ってから、ずっとここにいるわ」


「そうか……」


 一年以上の間、こんな寂しい部屋に一人か。

 父親は何をしてる? ……腹が立ってくる。


「ごめんなさいね、フェアじゃなくて。貴方のお母さんが亡くなってるって話の時に言うべきだったわ」


「いや、それは気にしなくて良い。そもそも、状況が少し違うしな」


「そうね……貴方の家を見てると、少し羨ましくなったから。こんな言い方は良くないってわかってるんだけど」


「それも気にしなくて良い」


 こんな暗い広い部屋に一人でいたら、どんな気持ちになるだろう?

 家に帰ってきて……一人で飯食って、一人で家事をして……誰とも話すことなく。


「ありがとう……あのね、今日は昼休みに生徒会室にいたの」


「そうか」


「体育祭の仕事があったけど、テストがあったから遅れてて。それの作業を、みんなでしてたの。それで、生徒会長にも手伝ってもらったんだけど」


「ふむふむ」


「そしたら、意外と量があって……中々終わらなかったの。そしたら、あの人が『清水さんが、今回ガリ勉したから仕事終わらないんだな』って言ってきて」


 ずっと、聞き役に徹しようとした俺にノイズが入る。


「ぁ? ……どの口が言ってんだ?」


「ふふ、ありがとう……要は私が仕事をサボって勉強して、そのせいで作業が遅れたって言われて。それに腹が立って言い返しちゃったの……『負けたのが悔しいの?』って、その後に言い合いになったり」


「それくらいは言っても良いだろ」


「うん、みんなもそう言ってくれた。ただ、聖女様の台詞ではなかったから……私自身の言葉で言ってしまったの。スッキリはしたんだけど、力が抜けちゃって」


 なるほど、それで疲れて保健室にことか。

 ……やっぱり、例の件を考えておくか。


「そもそも、お前が仕事しろって話だ」


「ほんとにそれ。でも、少し気が楽になったのも事実なの……これも貴方のお陰ね」


「……まあ、それなら良いが」


 その後、しばらく清水の話を聞いてから部屋を出る。


 ……とりあえず、俺にできることを始めるか。


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