第46話 走る
ん? ……清水がいない?
昼休みを終えて戻ってきたが、隣には清水がいなかった。
スマホを見るが、特に連絡は入ってなかった。
少し待っていると、保健の先生が教室に来る。
「清水さん、少し具合悪いから預かってるわ。体育は休むって、先生に伝えといてください」
「はい、わかりました」
「清水さん、平気かな?」
「多分、勉強頑張って気が抜けたのかも」
……確かに一理ある。
意外と負けず嫌いの清水は、今回はかなり頑張っていた。
一位を取って、溜まった疲れが出たのかもしれない。
着替えを済ませたら、校庭に出て体育祭の練習が始まる。
大玉転がしや、障害物競走、二人三脚など分かれたり。
悟は森川と二人三脚らしく、一生懸命に練習をしていた。
そんな中、俺はというと……清水がいないので、三人でひとまずバトンの練習をする。
メンバーは陸上部の森田、同じく陸上部の中村だ。
「さて、どうする? それこそ、走る順番とか」
「そりゃ、あんたがアンカーでしょ。悲しいけど、私より清水さんは早いから三番目? 私か逢沢君……だっけ? どっちかが、最初と二番目になるんじゃない?」
「まあ、お前は短距離専門じゃないっしょ。そういう俺も、ハードルがメインだし……アンカーはきついわー」
ふむふむ、二人は専門ってわけではないのか。
それだったら、もしかしたら俺の方が速いかもしれない。
「あぁー、話してるところ悪い。一度、俺が全力で走ってるのを見てもらっても良いか?」
「おっ、そういや先生が速いとか言ってたっけ」
「まあ、どちらにしろ確かめないといけないし」
「それじゃ、タイムを計ってくれ」
「……なんか、そんなだったか?」
「確かに雰囲気違うかも」
「まあ、気にしないでくれ」
すぐにイメージは払拭できない。
テストもそうだが、今回の走りはそのための一歩だ。
俺はリレー用のレーンに行き、軽くストレッチをする。
さて……全盛期の力が残ってると良いが。
「それじゃ、準備はいい?」
「ああ、いつでも」
「よーい……ドン!」
俺はタイミングを合わせ走り出す。
実際と同じように一周を回る。
足と手を動かし、ぐんぐんと伸びるイメージを。
武闘もそうだが、イメージというのは大事だ。
「おおっ!? はやっ!!」
「ちょっ!? うちの短距離選手より早くない!?」
「なになに!? 走ってるの誰!?」
「あ、逢沢君!?」
遠くからそんな声が聞こえてくる。
そして、 一周してゴールに到着した。
「ふぅ……どうだ?」
「……うそでしょ……二十三秒代よ」
「はぁ!? 県大会クラスじゃんか!」
「そんなものか……やっぱり鈍ったな」
運動自体はサボってないから、体力は問題ない。
だから、本来なら後半で伸びてもいい。
俺の最速は、50メートルを5,40秒だったはず。
おそらく、あと一秒は縮められる。
「な、なに言ってんのよ!? これ、うちの陸上部のエース並みよ?」
「おいおい、今から陸上部入らね?」
「いや、それはやめておく。本気でやってる奴らに失礼だからな」
「へぇー、良いこと言う」
「確かに言えてるわ」
「んで、俺はどこが良い?」
俺が問いかけると、二人が顔を見合わせた。
「「アンカーに決まってるし!!」」
「了解。んじゃ、精一杯やらせてもらう」
「それより、なんで隠してたのよ?」
「大した理由じゃない。帰宅部希望だから、部活勧誘とかされると面倒でな」
「あぁー、それは言えてる。こんな逸材いたら、うちの部が放っておかないし」
「二年生の今なら勧誘も来ないからってことね」
「まあ、そんな感じだ」
どうやら、誤魔化せたようだ。
体育祭のアンカーになれば目立つことは間違いない。
正直言って、いちいち聞かれるのは面倒だ。
だったら、イメージを一回で払拭すれば良い。
……帰ったら走り込みが必要だな。
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