第45話 順位

翌日の朝、学校に向かうと……何やら玄関が騒がしい。


「……あぁ、中間テスト順位の張り出しか」


そういや、すっかり忘れていた。

一応、確認のために近づくと……騒ぎの原因がわかった。


「ねえねえ、横山君ぬかれてるよ」


「ほんとだ、初めて聖女の勝ちか」


「なんか、清水さんってますます隙がないって感じ」


……そういうことか。

俺も人混みの後ろに行き、張り出された紙を眺める。


「へぇ……清水、一位になってんじゃん」


そこには生徒会長を抜いて、清水が一位となっていた。

俺の知る限り、生徒会長の横山が一位じゃないのは初めてな気がする。

この男はいわゆる天才タイプで、勉強と運動神経が元々良い奴だったはず。


「あいつ、今回は頑張ってたもんな……やるな」


「あっ、優馬君!」


「おっ、悟か」


ふと振り返ると、何やら興奮した悟がいた。


「すごいね!」


「うん? ああ、清水のことか。確かにすごいな」


「それもすごいけど、優馬君もだよ! ……あれ? まだ確認してないの?」


「なんのことだ?」


「ほら、順位を上から見ていきなよ」


言われた通りに上から見ていくと……二十番代に俺の名前があった。

間違い無く、今までで最高順位だった。


「おっ、結構上がったな」


「いやいや、三十番以内って凄いんだよ!」


「サンキュー……ほら、教室行こうぜ」


どうにも照れくさくなり、俺はその場を離れようとする。

すると、生徒会長である横山が呆然としているのが目に入った。

俺はそれを見て……少しだけざまぁと思ってしまう。

天才型のあんたは遊んでたけど、その間に努力型の清水は頑張ってたんだよ。


「ふっ……」


「なになに? どうしたの?」


「いや、我ながら性格悪いなと」


「えっ? ……優馬君ほど性格良い人も少ないと思うけど」


俺は悟の肩を組んで引き寄せる。

そういや、先にきちんと言っておかないといけない。


「悟……俺、変わるけど良いか?」


「……やっぱり、そういうことなんだ。うん、僕は関係ないよ。だから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」


「当たり前だろ。そう言えるお前の方が、よっぽど性格良いよ」


結局、寂しかった俺を救ってくれたのは悟だ。


もし何かあったら、力になりたいなと思っている。




教室に入ると、話題はそれ一色だ。


隣に座る清水は、皆にかこまれていた。


「清水さん、すごいね!」


「いやー、一位とかやばいし」


「会長、全国でもトップクラスだもんなー」


「ううん。たまたまだよ。いつもより、国語の点数が良かったから」


そう言い、一瞬だけ隣に座る俺を見た。

どうやら、少しは力になれたらしい。

すると、礼二さんが手を叩く。


「ほら、いつまでやってんだ。もう、チャイムは鳴ってるぞ」


「先生、すみません」


「別に清水は悪くないさ。とりあえず、一位おめでとう」


「ありがとうございます」


「さて……これで完全に中間テストが終わったが、期末試験はすぐだからな。高校二年生の夏休みは、実質最後みたいなものだ。赤点取ったやつは、最後の夏が消えないようにしっかりやっとけよ」


その言葉に、一部の生徒たちが消沈する。

確かに、高校三年の夏休みは受験や就職で忙しいだろう。

そうなると、今年が遊べる最後のチャンスってことか。

……俺も遊んでおくかな。


「それと、今日から体育の授業は全て体育祭の練習になる。もし優勝したら、俺が焼肉を奢ってやるから頑張ると良い」


「おおっ!」


「やばっ!」


「それなら話は別だ!」


……よっぽど、例の先生に負けたくないらしい。

まあ、礼二さんには世話になってるし、俺も頑張るとしますか。








その日のお昼休み、清水は来なかった。


別にそれ自体は、そんなに珍しいことじゃない。


弁当だって二日に一回だし、付き合いもある。


特に今日は目立ってるし、話したい奴らもいるだろう。


ただ、俺はその事を後で後悔することになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る