第44話 動揺
クラス中の視線が俺に集まる。
それもそのはずで、俺が自分から目立つようなことをするのは初めてだ。
知り合いが少なく、さらには知り合いにまで頼み込んで地味に過ごしてきた。
でも、それはもうやめにしよう。
「おいおい、逢沢じゃダメだろ」
「帰宅部でしょー?」
「そもそも、体育とか身体測定でも運動神経良くないし」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
それも当然で、俺は今まで本気でやったことはない。
何かしら証明した方が良いかなと思案していると……礼二さんが動いた。
「あぁー、そいつの足が速いのは俺が保証する。少なくとも、そこらの運動部には負けないはずだ……本気を出せばの話だが——優馬、良いんだな?」
「うん、礼二さん。とりあえず、全力で頑張るから」
「うし、なら良い。クラスのみんな、俺の顔に免じてこいつをリレーの選手にしてくれるか?」
「……まあ、先生が言うなら」
「なんか、昔は部活やってたとかなのかなー」
「それで勝てるなら良いけど」
納得はしてないが、ひとまず通ったか。
あとで、礼二さんにはお礼を言っておかないと。
「そ、それじゃ、逢沢君で決まりね。そしたら……もう一人の女子は私がやります」
「よし、決まりだな。それじゃ、最初から確認していくぞー」
そして、最終確認が終わってホームルームが終わる。
その後、昼休みになると……いつもの場所に、こちらを睨みつけた清水が現れる。
「よいしょっと……ねえ、どういうつもり?」
「まあ、そうなるわな」
「貴方、目立ちたくないんでしょ?」
「少し変わってみようと思ってな」
するとうつむき、両手の拳を握りしめて膝に置く。
「……私のせい?」
「あん? どういう意味だ?」
「私があの時、好き勝手言ったから……あんたなんかにはわからないって」
「あぁー、そういうわけでもない。ただ、お前に変われば良いじゃんと言った手前、俺がそのまんまっていうのは違うだろ」
そんなのは、ただの無責任だ。
清水がどうするにしろ、まずは俺が先に変わって見せないといけない。
「何よそれ……別に、私は変わるつもりなんてない」
「ああ、それで良いと思うぞ。俺はお前を見て変わろうと思っただけだ。それに、清水が合わせる義理はないし」
「ほんと、変な人……でも、これで契約はお終いね。貴方の弱みが無くなっちゃった」
「だから関係ないって言ったろ。大体、友達に契約とかいらん」
相変わらず、よくわからない縛りがあるらしい。
そういうモノがないと、不安な人生でも送ってきたのかもしれないが。
「でも、それじゃ私の弱みが……対等じゃない」
「だからいらんって。そもそも、俺が弱みに付け込むような男に見えるか?」
「そんなの……見えるわけないじゃない」
「なら良い、別に変わりはしないさ。俺は俺、お前はお前の好きにすれば良い」
「……わかったわ」
その後、清水は俺を訝しげにチラチラと見てくる。
俺はそれに気づいていたが、気づかないふりをして昼飯を食べるのだった。
◇
その日の放課後、私は生徒会室でうなだれていた。
みんなは仕事を終えたので、今は一人きりの時間だ。
……あの生徒会長は遊んでてこなかったけど。
「……何が起きてるの?」
遊んでるときに、あんなこと言ったり。
学校に来てみたら、今度はリレーの選手に立候補するなんて。
今までの逢沢君からしたら考えられないことだ。
「私のせいっていうか……そういうわけでもないみたいだけど」
ただ、その狙いがわからない。
何のために、変わろうとしたのか。
これからどうするつもりなのかとか。
「……私はどうしよかな?」
だって、今更変わるなんて出来ない。
そんなことしたら、みんなから嘘つき呼ばわりされちゃう。
「でも、逢沢君が味方になってくれるって言ってた」
何かあったら、そいつをぶん殴ってやるって。
多分……守ってくれるってことかのかな?
「……もしかして、そのために変わろうとしてる?」
そう思うと、胸がドキドキしてくる。
いや、別に逢沢君がそういう意味じゃないっていうのはわかってる。
私のことを、ちゃんと友達だと思ってくれてるってことだと思うし。
……でも、女の子として立ったら?
「いやいや、違うわよね……違うのかな?」
うぅー……あの男め。
おかげで、モヤモヤが取れないわ。
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